第34話 ほぼCハプニング
「ぐえぇぇ……ちょっ、イ、イコナ!?」
「いったぁ~……もうっ! もっと優しく呼んでよナギく――あ」
そこで、二人はお互いの状態に気付く。
凪は布団の上でイコナを抱きとめる形になっており、落下した衝撃でイコナの『神御衣』は乱れ、色っぽい格好と状況になっていた。しかも、『神御衣』の腋の辺りから凪の手がすっぽりと胸元へ滑り込み、手の平サイズのほぼCに触れてしまっている。
凪を押し倒した体勢のイコナは急激に顔を赤らめ、それから衝動的に手が動き、凪の頬を引っぱたいて乾いた音を響かせた。
「あ、あああたしの初めてもらったからって調子に乗ったらダメだからぁ!」
「ご、ごめんイコナ! けどそのっ、い、一から説明をしていただきたく……!」
「……へ? あっ、ご、ごめんなさいつい! その、ち、違うの今のは!」
正気に戻ったイコナは凪の上から退いて服を整え、凪はひりひりと痛む頬を押さえる。
お互い正座で向かい合う。気恥ずかしい空気が流れていた。
「な、なんだかいろいろとごめん。けど、いきなり胸を触るなんてさすがにあたしも困るっていうか、準備出来てないっていうか……そういうの早すぎるし! やっぱりキチンと正しい順序を経て、お互い身体を清潔にしてからじゃないとイヤなの!」
「え、えーと……イコナ? 何言ってるんだ?」
「え? あ、ちがっ! こんなこと言いにきたんじゃないのよ! 直接会って話したいことがあって、そのために来たの! ご、誤解しないで!」
「わ、わかった。ええと、そ、それで話したいことって?」
「う、うん。サクラのことよ」
「サクラの? ならちょうどよかった! 俺もイコナにサクラのことで話したいことがあったんだよ。でも連絡の仕方がよくわからなくってさ」
「そ、そうだったの?」
パチパチとまばたきをして驚くイコナ。
それから話を促され、まずは凪からイコナに話をした。サクラが最近張り切りすぎていて、凪も困惑するほどになっていること。そして、どうも「自分が必要とされているか」をよく気にしているようだということ。
「……そう、サクラがね」
「うん。何か妙に慌ててるというか、必死になってる感じがしてさ。サクラ、自分のことはあまり話してくれないから、何かあるんじゃないかって気になって」
「そうね。あたしの考えが正しかったら、たぶん、あなたの感覚は間違ってない」
「考え?」
「ええ。考えすぎって可能性もあるんだけど……起こりうる万が一のことをふまえて、あなたにだけは〝相談〟しておこうと思った。だから呼んでもらったの」
「万が一……わ、わかった。それで、その相談って……?」
神妙な顔つきをするイコナに、凪は固唾を吞む。
「今はまだ参考程度に聞いておいて。ほら、以前あなたたちが来たとき、修行中に来た参拝客たちをサクラが相手していたでしょう」
「あぁ、うん。小雨が降ってて、俺がサクラを手伝いに行ったときだよね」
「ええ。そのときの参拝客の一人がね、願いが叶ったって今日お礼参りに来たのよ。実に信心深いことね」
「へぇ、良かったじゃないか。それならサクラにも教えてやらないとな。きっとサクラもよろこ……あれ?」
そこで凪は疑問を持つ。
「願いが叶ったって……偶然、だよな? だって、サクラは力が使えないんじゃ……」
「そう、そこが問題。偶然かもしれないし、偶然ではないかもしれない。ちなみにその参拝客の願いはね――」
続くイコナの言葉に、凪は驚愕するしかなかった。
「イコナ……それってどういう……まさか、サクラが……」
「あくまでも可能性の話よ。ただ、神の世界ではそういうことも起こりえるの。頭には入れておいてちょうだい。理由がどうあれ、サクラがあなたのために動いていることは確かなんだから」
イコナにそっと指で胸元を押された凪は、神妙にうなずく。
「――わかった。ありがとうイコナ。やっぱり、イコナは友達想いで優しいな」
「褒めても御利益あげないからね」
ぷいっと顔を逸らすイコナに、凪は笑った。




