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かみさまのしるし~めくるめく御朱印巡り旅~  作者: 灯色ひろ
✿ 第四印 神朱印 ✿  

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第28話 心の準備

「し、神滅したですってぇっ!? あっ! それであなたそんな格好に……道理で何年も連絡ないはずよ! ていうか神滅したのにどうやって復活して――ああそれよりどうしてそれをあたしに何も相談しないワケ!? あなたどんだけバカなの! その頭は飾りものなの!? まともに思考回路働いてるの!? その鈴と同じで空洞なの!?」


 イコナに肩を揺らされ、サクラの鈴飾りがリンリンと鳴る。


「うう~ごめんなさぁ~~い! そのときのことはよく覚えてなくってぇ……でも今はもう平気だよっ。ナギがサクラを助けてくれたの! それにね、ナギと御朱印巡りしてたら神通力も戻るかなって! イコナのところでも元気もらえたもん。心配しないで!」

「ああもう楽観的! いっつもそうだわ! なんであなたってこういい加減な……!」


混乱しながらも言葉を探すイコナは、それから一度呼吸を落ち着かせて訊く。


「……それは、嘘じゃないのね?」

「うんっ! 今は元気いっぱいだよ。桜餅もたくさん食べられたし~!」

「…………あっそ。はぁ~……なんだか今日は、ものすごく疲れたわ……」

「えへへっ。イコナ、いつも心配してくれてありがとね。やっぱり優しいな!」

「別に」


 顔を背けるイコナに、凪と月音は顔を合わせて笑いあう。同時に、イコナがサクラの言うとおりの神様であることを理解した。

 イコナは悶えるように頭を抱え、ため息をもらした。


「もう、何よ神滅したって……そういうことはもっと早く言いなさいよ……そうと知ってれば別の対応考えたわよ! これじゃあたし、サクラを助けてくれた恩人を試すような真似して無礼を働いたことになるじゃない! ああもうムカムカする!」

「え? いやイコナ様、俺は別に何も気にしては……」

「あなたはしなくてもあたしが気にするの!」

「ハイすいません!」

「だいじょーぶだよナギ。イコナはいつもこうなの。セキニンカン強いんだよねぇ」

「あなたが黙ってたのが原因でしょうがぁぁぁ! そういう大事なことは真っ先に言えって学校に通ってた頃から言ってるわよねぇぇぇ!?」

「ひええええごめんにゃしゃいいいい~」


 イコナから両拳で頭をグリグリ挟まれ、苦しみながら謝り続けるサクラ。

 やがてそのおしおきも落ち着いたところで、イコナが呼吸を整えながら言う。


「こ、こんな馬鹿なことやってる場合じゃないわ。それより今は朱印のこと! ハイ! ナギくんはこっちに来て! 二人は……と、遠くの方で待ってなさい!」

「あ、はい!」


 イコナに呼ばれ、慌てて彼女の元へ向かう凪。

 夕陽の落ちていく美しい海を横目に向かい合う二人。イコナは、胸に手を当てながら呼吸をして、深々と頭を下げた。


「まずは謝るわ。サクラの恩人に無礼を真似をしたこと、ごめんなさい」

「いやいやそんなっ、イコナ様は何も悪くないですって。サクラもきっと、イコナ様に心配を掛けたくなくて黙ってたんだと思うんです。それよりも、サクラとイコナ様は本当に仲が良いんですね。こんな神様たちと知り合えて、なんか嬉しいです」


 そう言って笑った凪に、イコナは驚いたように目を見張った。

 やがてイコナはふっと表情を和らげて、凪の胸元にトン、と指先で触れる。


「あなたの心は、綺麗ね」

「……え?」

「降参よ。神朱印はあげる。そのためにあなたをここへ連れてきたんだもの」

「え? イコナ様……いいんですか? でも最後の修行はっ」


 驚きながら尋ねる凪。イコナの声が聞こえていたのだろう、サクラと月音が手を組み合わせて「やったー!」と飛び跳ねていた。

 イコナは「はぁ」とため息をついて肩を落とす。


「そもそも最後の修行なんてないの。あたしはあなたに朱印をあげるつもりはなかったんだから。なのに……あなたは最後まで誠実に修行に取り組み、今日だっていきなりのことだったのに、自分に出来ることを懸命にやってくれた。こっちが頼んだわけでもなく、自発的にね。誠意には誠意で応える。それだけのこと」

「イコナ様……」

「自信を持ちなさい。あなたはあたしが観念して諦めるくらいに、とても綺麗で、清らかな心の持ち主だわ。あたし――そういう人は好きよ」


 夕焼けをバックに、晴れやかに微笑むイコナ。凪の心は小さく跳ねた。


「今日は本当にありがとう。ピンチな状況だったのに、いつもより満足して帰っていく人ばかりだったわ。SNSでも話題になってくれて、さらに信仰が増えそうで嬉しいくらいよ。二人とも、その気になったらいつでもうちに来なさい。もっとしごいてあげる」


 イコナの冗談に、凪たちは揃って笑った。

 それからイコナは凪と改めて向かい合い、なぜか周囲に視線を巡らせる。


「よ、よし。今なら他に誰もいないわね。それじゃあ、今からあなたにあたしの『神朱印』を授けます。こ、こっちに来て。もう少し近くにっ!」

「はい。あ、それじゃあ俺の御朱印帳出しますね」

「必要ない! な、何も用意しなくていいから! あえて言うなら……その、こ、心の準備しといて!」

「心の準備? え? でもそれじゃあどこに朱印を――」


 そのとき、凪の頬に温かいものが触れた。


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