第27話 サクラ、観念する
ほどなく辿り着いたのは、神社の裏側にある海岸。
いくつもの巨石が並び、その間を白波が押し寄せ、夕焼けに吸い込まれそうな海が壮大に広がる。ある石の上には印象的な赤い鳥居が建っており、穏やかで神聖な、心洗われる美しいスポットであった。
「うわ、神社の裏はこんな風になってたのか」
「サクラも知らなかったー! すごいねすごいねっ! キレー!」
「ロマンチックなところだね~! あ、凪ちゃん一緒に写真撮ろうよ、それで私のアカウントにラブラブデート中ですって載せておくね♪ タグは新婚旅行にして……」
「やめてもらえる!? そういうことするから余計にってもう撮ってるしオイコラ!」
「サクラも一緒に撮って撮って~!」
絶景を前にテンションの上がる一同。そんな三人を横目に、イコナはちょっと誇らしげな表情を浮かべて海風に揺れる髪を抑えた。
「今はまだ閑散としてるけど、夏は海水浴客ですごいことになるのよ。この景色を眺めに来る人も多くてね、特にうちの神社で縁結びをしたカップルがよく立ち寄るわ。あたしも仕事終わりに時々来るの。なんだか落ち着くでしょ」
イコナの話にうなずく凪たち。そこで月音が楽しそうに笑った。
「ふふっ。私たちをここへ連れてきてくれるなんて、イコナ様って、実は結構ロマンチストさんなんでしょうか」
「はっ? ――やっ、べ、別にそういうことじゃ!」
月音に不意打ちを食らったイコナは短い声を上げ、その顔をじわりと赤らめる。
そこでサクラがさらに口を挟んだ。
「イコナって昔からそうだよねっ。おみくじの内容を自分で考えたり、よくいっしょに海とか星空とか見て、イコナがとってもかわいい『ぽえむ』を作って――」
「やめろサクラあああぁぁぁーーーーーーッ!」
「あびゃうっ!? ほふふふふ!」
イコナが素早くサクラの口を封じにかかり、またひょっとこ顔になるサクラ。必死になるイコナの姿に凪も月音もつい笑ってしまい、イコナはさらに紅潮していく。
それからイコナは怒ったように告げた。
「ハァハァ……! そもそもサクラ! あんた、ずっと何か偽っているでしょう!」
「ほぇ? にゃ、にゃに?」
「長い付き合いなんだからそれくらいわかるわよ! そもそもあなただって縁結びの御利益を持つ神でしょうに、なんでサクラはナギくんに『神朱印』を授けていないワケ? どう考えてもおかしいわよねぇ? その辺、いい加減吐いてもらえる?」
「あっ、えっと、そ、それはぁ」
「あなたが力を貸してあげれば、彼だってもう少し神通力を操れるようになるし、話もスムーズだったでしょう。そのくせにあたしの『神朱印』を欲しがったワケ? どういう了見よ。そもそも自分の神社はどうしたのっ? 自社を放りだしてくるなんて神様失格! 一体何を隠しているわけ!? あたしが嘘偽りも大嫌いなこと、知ってるわよね!?」
「えーっとえーっと、そ、それはそのぉ~……」
イコナに半目で睨まれて、しどろもどろにうろたえるサクラ。
やがて観念したのか、サクラはぼそりとつぶやく。
「あ、あのね? 実はサクラ……その、神滅しちゃって…………えへっ」
一拍を置いて。
「…………ハアアアアアアァァァッ!?」
イコナはすっとんきょうな声を上げて仰天した。その声は海の奥まで響いていく。




