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かみさまのしるし~めくるめく御朱印巡り旅~  作者: 灯色ひろ
✿ 第四印 神朱印 ✿  

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第26話 根負け

 ――参拝客として見れば、授与所での仕事はのんびりとしたものにも思える。

 だが実際は違う。人気の高い大きな神社ほど、その仕事量は膨大だ。


「凪ちゃんの方が上手だから、御朱印は任せるね。接客はお姉ちゃんがやるからね」

「オッケー! でも慣れなくてちょっと時間かかるかも、ごめん」

「だいじょうぶい! ぜーんぶお姉ちゃんが上手くやるよ~♪ そのかわり、上手くいったらお姉ちゃん特権発動でデートしてもらっちゃおうかなぁ」

「そんくらいならしてやりますよ!」

「やったぁ! それならお姉ちゃん、気合い入れてがんばっちゃうぞっ!」


 こうして役割分担を済ませて動く二人。結果としては、それが大成功。

 凪の御朱印は良く書けていたし、何よりも金髪で巨乳な可愛すぎる笑顔の巫女さんがいる神社としてSNSが賑わい、昼過ぎには人が途切れないほどの忙しさとなって、時には撮影会すら始まる始末である。昼食を取る余裕もなく、夏日ほどに気温が上がったこともあって、体力のある凪も筆先に神経を集中し続けることで激しく消耗していく。


「がんばれナギ~! サクラ何も出来ないけど、いっぱい応援するねっ! がんばれがんばれ! あっ、疲れたらマッサージしてあげるね! おやつももらってくるよ~!」

「ありがとうサクラ。よし、とにかく一つ一つやってくしかない……!」


 なんだかチアガールっぽいサクラの励ましと、時折神職たちが持ってきてくれる差し入れでエネルギーを補給する凪。時間も忘れ、ひたすら御朱印帳と向き合い続けた。


 そんな凪たちの働きぶりを遠くから見つめていたのは、イコナ。

 彼女は持っていた荷物を抱え直し、何かを観念したように深い息をもらす。


「……はぁ。さすがにもう、これは無理かしら……」


 近くでその発言を聞いていた宮司が、可笑しそうに小さく笑った。



 すべてが終わったのは、授与所が締まる夕方の五時。


「だああああ……! やっと終わったあああああ……!」

「おつかれさま~ナギ! すごいすごい! エライよー!」

「凪ちゃんお疲れ様♥ でも、さすがに今日は疲れちゃったねぇ」


 授与所内でぐったりとへたり込む凪と、小さな手で肩を揉んでくれるサクラ。しっとりと汗をかいた月音も、胸元を開けてパタパタと手で風を送っていた。


「サクラと月姉もお疲れ様。ほんと最初はどうなるかと思ったけど、結局あの二人が戻ってきてくれたからなんとかなったね。やっぱり俺たちだけじゃ無理だったよ」


 そうつぶやきながら視線を動かす凪。

 授与所の中でせっせと片付けをしているのは、ボイコットをしたはずの巫女二人。彼女たちは神社が心配になり、昼過ぎには駆けつけてきてくれたのだ。もちろん宮司から叱られはしたが、すべては彼女たちの神社愛あってこそだと皆が理解している。


 そんなところへ、イコナと尊老の宮司が顔を出した。月音が慌てて襟を正す。


「皆さん、大変お疲れ様でした」


 宮司は凪たちにねぎらいの言葉をかけた後、神職一同を代表して深々と頭を下げ、凪たちは慌てて手を振る。また、丁寧な包みの給金を手渡されたが、ボランティアのつもりだった凪は当然遠慮した。


「いやいや受け取るわけには!」

「ナギくん。相応の仕事には相応の対価が得られるものよ。受け取っておきなさい」

「イコナ様……けど俺たちは」

「ここで断ることは、〝この仕事にそんな価値はない〟という意思表示になるのだけど。ふぅん、あなたはそう思ってるわけね」

「えっ!? い、いやいやそんなことは! イコナ様違いますって!」

「ふふ、受け取っておこうよ凪ちゃん。ほら、これからの旅のことを考えたら、やっぱり先立つものも必要だよ。イコナ様、きっとそういうことも考えてくれてるよ」

「月姉……そうか」


 少し考えてからうなずく凪。そして、ありがたくお給金を受け取ることに決めた。するとサクラが「よかったねぇ!」とパチパチ拍手をくれる。


「ありがとうございます。頂いたお金で、ありがたく御朱印巡りさせてもらいます!」


 そう答えた凪に対して、宮司がにこやかにうなずいてくれる。


 イコナが軽く咳払いをしてから言う。


「さて、それじゃあもう一つの対価について話しましょうか」

「え? もう一つの対価?」


 聞き返した凪に、イコナはちょっぴり呆れたように目を細め、腰に手を当てた。


「あのねぇ……あなた、あたしの神朱印を貰いに来たんでしょ。忘れたの?」

「あっ。いや忘れてはなかったですけど! とにかく仕事で頭いっぱいだったんで……って、え? それじゃあひょっとして神朱印を……?」


 そう返した凪に、イコナが口元をむずむずさせる。そばの宮司が自身の白髭に触れた。


「ほほ。どうやらイコナヒメ様も根負けされたご様子。これは私も進言した甲斐があるというものです」

「べ、別にそういうわけじゃ……って、あなたもしかして……最初からこうなると思ってたわねっ! だから急なバイトなのにあんな包みの給金用意しておいて!」


 悔しそうに眉をひそめたイコナに対して、宮司は「ほほほ」と穏やかに笑うのみ。

 イコナは頬を赤らめながら「ぐぬぬ」とうなる。


「ああもうっ、それじゃあ場所変えるわよ! ここじゃ人目もあるし……その、都合が悪い! ハイついてきて! あたしの気が変わらないうちにね!」

「あっ、は、はい!」


 こうして凪たちはイコナに先導され、手を振る宮司に見送られながら歩き出した。

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