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第1話 神さまでも恋をする


「ナギはだれが一番好きですか!」


 桜色の神御衣(かむい)を纏った幼き女神『サクラ』が立ち上がり、突然そんなことを言った。


「サ、サクラ? 急にどうしたんだよ?」


 高校生の少年――『七瀬ななせなぎ』は呆然とまばたきする。そんな彼の手元には、一冊の御朱印帳があった。

 朱印とは、神社仏閣において参拝者がいただくことのできる一種の印章。本来は納経の証として与えられる修行の印であったが、現代では誰もが授かることの出来る身近なものになった。昨今は『御朱印ガール』と呼ばれる朱印集めを趣味とする若い女性たちも増え、ちょっとしたブームである。


 女神サクラは四つん這いで凪のそばへ近づく。


「ナギは、『思い出の女の子』と会うために御朱印めぐりをがんばったんだよね。それじゃあ、『思い出の女の子』と再会できたナギは、その子がいちばん好きなのかな? それとも、今は別の子が好き? ナギは、だれのことが一番好きなんですか!」

「やっ、サ、サクラ。それはそのっ」

「えへへへ。おしえておしえて!」


 ニコニコニコ。サクラは無邪気な笑みでさらに凪へと近づいてくる。


 すると、サクラの襟首が何者かに引っ張られて凪から引き離された。

 凪とサクラがそちらを見れば、エプロン姿の若い女性が眉尻を上げている。


「サ~ク~ラ~さ~ま~? また私のいない間に凪ちゃんに言い寄りましたね~!」

「わわっ、ツキネ! ちがうよちがうよ、サクラはナギの一番好きな人をおしえてもらおうとしてたんだよ~!」

「え? そうなんですか」


 サクラの襟首から手を離した金髪の巫女――月音つきねが別の方に視線を向けると、二人の女神たちがそれぞれにうなずいて答えた。


「ええ、本当よツキネさん。あたしもそれなりに気になっていたことだから、あえて止めなかったの。はいナギくん。ここは逃げずに男らしく答えなさいな」

「です、です。わ、わたしもナギさんの好み……聞いてみたい、です……。さ、参考に……なるかもですし……」

「そうだったんですね……そういうことなら話は別ですっ。サクラ様もたまには良い質問をするんですね。エライですよ!」

「えへへ。それで、ナギはだれが一番好きなんですか! 教えてください!」

「ええーっ!? なんで今日はいきなりこんな話になるのさ! サクラや月姉(つきねえ)はともかく、普段は止めてくれるイコナやククリまで!」


 四人の女の子に囲まれる凪。狭い和室に逃げ道はない。


「うふふ、逃げられないよぉ凪ちゃん。良い機会だから、みんなの前でお姉ちゃんを選んで? それで全部ハッキリさせちゃお。ね? 楽になっちゃおうよぉ♥」

「サクラだって負けないよぉ~! だって、サクラもナギのこと大好きだもん! ナギ、サクラを選んでくださーい!」

「ナギくん、そろそろ観念したら? 別に答えるくらい簡単なことでしょう」

「ナギさんの、一番、好きな……。な、なんだか、あったかくなってきました……」

「ちょいちょい待って! なにこの展開! うわ月姉肩掴まないで! サクラ手ぇ引っ張らないで! イコナくすぐらないで! ククリはメモしないでぇ!」


 一人の従姉妹と三柱の女神たちに迫られて、完全に退路を断たれる凪。

 そんな凪と彼女たちとの間には、美しく光る糸が繋がっている。


 ――人と神が共に生きる、誰もが知っているはずの日常。

 これは、そんな〝神人和楽(しんじんわらく)〟な繋がりの物語――。


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