アーカム奪還戦
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──アーカム奪還戦
アーカムの周囲には連邦軍が既に展開していた。
アーカムに通じる街道には検問が設置されており、エリックたちの装甲動力馬車も止められる。そして、連邦陸軍の兵士が下りるように促す。
「俺の馬車を停めるとはふてえ野郎だ。俺はチェスター・コヴェントリー辺境伯だぞ」
「王国の貴族ですね。ここは連邦ですので連邦の指示に従っていただきます」
「むぐ」
チェスターは自分の権力が通じないことに唸った。
「アーカムは奪還できたの?」
「軍事機密ですのでお答えできません」
デルフィーヌの問いに連邦陸軍の兵士は答えない。
「それよりもここに展開している砲兵隊はなんだ? まさかアーカムを住民ごと消し飛ばすつもりなのか?」
「軍事機密ですのでお答えできません」
ヴァージルの問いにも連邦陸軍の兵士は答えなかった。
連邦陸軍は最大で口径240ミリのカノン砲から、口径105ミリの榴弾砲までさまざな大砲をアーカムの方に向けていた。
その目的が何なのかは分からないが、連邦も既に人工の神と『ネクロノミコン』の関係に気づいている。全く意味もなくこれだけの砲兵隊を展開させはしないだろう。その目的は事態がコントロール不能になった場合にアーカムごと人工の神を消し飛ばすつもりなのは明白だ。
「畜生。融通の利かない兵隊どもだ」
「そもそもアーカムは自由都市でしょう? どうして連邦が出張ってくるんです?」
クライドがそう疑問を発した。
「アーカムと連邦は非常事態の際の相互防衛協定を結んでいる。彼らはその権限で展開しているのだろう。それに連邦もアーカムに連邦市民がいることを知っている。邦人救出のためのミッションだとも言い張ることができる」
「無茶苦茶だ。連中はその助けるべき市民を吹き飛ばそうとしているのに」
アビゲイルが悪態をつく。
「ここは大人しく引き下がるしか──」
そこでエリックは見つけた。
「ラムダ?」
「父さん?」
連邦海軍の陸戦用の迷彩服姿のラムダがエリックの視野に入った。
「父さん。どうしてこんなところに。今からここは戦場になるよ」
「私たちもその戦場に加わりに来たんだ。『ネクロノミコン』を持っているのは恐らくアランだ。アランは私の友人だった。止めなければならない。そして、ヴァージルたちも助けるべき人々がいる」
「ああ。全く。この作戦は秘密作戦だっていうのに」
ラムダはサプレッサー付きの魔道式小銃を手に唸った。
「だが、父さんたちが加わってくれるなら心強い。当てにしてもいいかい?」
「どうしてもアランを止めなければならない。そして、儀式が始まれば止めるのに『ネクロノミコン』をエリザベートの手に」
「分かった。俺たちは西門から侵入する。父さんたちは東門から頼む」
「分かった。気を付けてくれ。相手は何をするか分からない」
「ああ。そのつもりだ」
ラムダは父にそう告げると、部下である水陸両用コマンドの隊員たちを率いて、アーカムの西門に向かっていった。
「では、我々もいくとしよう」
「おう! ここで純潔の聖女派にトドメを刺してやる!」
チェスターは熱くそう告げると、装甲動力馬車に再び乗り込んだ。
「こいつの装甲は50口径のライフル弾にも耐えられる。強行突破するなら持ってこいだ。これで連中の懐に飛び込んで、一気に畳むぞ」
「突入は我々の手順通りに。ヴァージルたちは冒険者ギルドなどの各施設の確保を。仲間の生存が気になるのだろう?」
「すまない。私事だが、やらなければならないんだ。奴は俺たちの仲間になったのだから。俺たちは見捨てるわけにはいかない」
「ああ。それでこそ君たちだ」
そして、エリックはエリザベートの方向を向く。
「『ネクロノミコン』は解読できると思うかね?」
「『アル・アジフ』と同じ構文なら解読できるだろう。そうでなくとも頭を働かせるさ。伊達に何冊も魔導書を解読してきたわけではない。それはそうとアランはどうするつもりだ? これだけの騒ぎを起こしたんだ。見て見ぬふりはできないぞ」
「アランについてはしかるべき法執行機関に任せる。我々は裁判官ではない。罪は裁かれなければならないが、我々が裁く必要はない」
エリックは静かにそう告げた。
「そろそろ突入だぞ! タクシャカもヴァナルガンドも準備はできているのか!」
「できています、閣下。突入してください」
「了解!」
上空から風切り音が響き、タクシャカが急降下してくる。
彼は魂を燃やす炎をまき散らすと、地上にいた純潔の聖女派の兵士たちを焼き払った。兵士たちは魂を焼かれる苦しみを味わいながら、必死にもがく。
そこにヴァナルガンドが突っ込む。彼は炎を躱して、純潔の聖女派の兵士たちを食いちぎると、タクシャカとともに瞬く間に東門を制圧した。
「突っ込むぞ!」
そして、タクシャカとヴァナルガンドが確保した東門にエリックたちを乗せた装甲動力馬車が突っ込む。敵の反撃はなく、今のところ作戦はスムーズに進んでいた。
「閣下。ここで降ろしていただけるか」
「行くのか?」
「ええ。仲間たちを助けに」
ヴァージルたちは途中で装甲動力馬車を降りて、冒険者ギルドの方に向かっていく。
ヴァージルたちが下りた東広場から冒険者ギルドまではすぐの距離だ。
「では、我々は引き続き飛ばしていくぞ! 捕まっておれ!」
エリックたちを乗せた装甲動力馬車は中央広場を目指して突進していく。
「銃声だ」
「ラムダたちだろう。西門から突入を開始したらしい」
アーカムに存在する純潔の聖女派の戦力は5000名。
そのうち少しでもラムダたちが引きつけてくれればエリックたちは楽になる。
「しかし、アーカムが銃声しかしないとは。この街は常に喧騒に覆われていた街なのに。何が起きているというのだ」
エリックはアーカムが静かすぎることに懸念を覚えていた。
普段ならアーカム市民たちが騒々しく暮らしているはずのアーカムは今は銃声しかしない。それ以外の音はしない。とても静かだ。それがエリックには異常なことが進行中であるということを感じさせた。
「敵の第二防衛線だ! 突破するぞ!」
チェスターはランカスターMK11魔道式小銃を構えると、馬車の天窓を開いて、身を乗り出した。そして、バリケードを作って防衛線を構築している純潔の聖女派に向けてグレネード弾を叩き込む。
「タクシャカ。毒を使ってくれ」
『任された!』
タクシャカは再び急降下すると尻尾にある毒の分泌腺から猛毒を純潔の聖女派に浴びせると、純潔の聖女派は溶けるように死んでいった。
同時にヴァナルガンドが前に出て、バリケードを破壊する。
「いいぞ、いいぞ! これならば行けるぞ!」
チェスターは上機嫌になって、防衛線から銃弾を浴びせてくる純潔の聖女派の兵士に反撃する。口径7.62ミリ弾は確実に敵を仕留めていっていた。
「中央広場まであとどれくらいだ!?」
「まだまだです、閣下。しかし、様子がおかしい。本当に何が起きている?」
純潔の聖女派の兵士も戦う前から倒れているものがいる。
アランたちは何をしようとしているのだ?
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……………………
「全員、無事か!?」
ヴァージルたちは冒険者ギルドに飛び込んだ。
冒険者ギルド前には4名の純潔の聖女派の兵士たちがいたが全員が射殺された。
「眠っている……?」
「それにしては苦しそうですぜ。毒を使われましたかね?」
「毒ガスを使ったなら俺たちにも影響が出ているはずだ」
受付嬢も、他の冒険者たちも、地面に伏せている。
「ルアーナ! 無事か!」
「あ、ああ。ヴァージルさん、たち……」
「何が起きた? 教えてくれ」
「純潔の聖女派が街を襲って、冒険者ギルドも武装解除されました。それから何か巨大なものを感じて、その後は魂が、魂がなくなっていく感触なんです」
「魂がなくなっていく……? どういうことだ?」
「分かりません……。とにかく、魂が薄れていき、力がでないんです。私はまだ持った方だと思います。他の人たちはもっと早くに倒れていて……」
ルアーナがヴァージルの手を握る。
「止めてください、ヴァージルさん。純潔の聖女派が何をしようとしているのかは下っ端の私には分かりません。ですが、レイヤード司祭枢機卿なら何かを知っているはずです。この街に来たのを見ました。止めてください。大勢が犠牲になる、前に……」
ルアーナはそこで意識を失った。
「畜生。まだ死んではいないな?」
「息はしています」
「なら、急がないといけないぞ。エリックの言っていた儀式とは魂を奪う儀式だ。この街がこうも静かなのも、アーカムの全住民が魂を奪われているからだ。急がないと死人が数百万人単位で出るぞ」
「マジで不味いっすね……」
クライドがヴァージルの言葉に身を震わせる。
「儀式は中央広場で行われているのだろう? 中央広場に向かおう」
「装甲馬車じゃないが、ただの動力馬車ならそこら辺に停まっている。使わせてもらおう。非常事態だ。文句は言われまい」
「ああ。当たり前だ。アーカムの全住民の命がかかっている」
ヴァージルたちはそこら辺に止めてあった動力馬車に乗り込むと、まっすぐ中央広場を目指した。
純潔の聖女派の儀式を止めなければアーカムの全住民が死ぬことになる。
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「レイヤード司祭枢機卿猊下。敵です。東と西の両方から中央広場を目指して進んできています。いかがしましょうか?」
「連邦が動いたのでしょう。連邦とアーカムは相互防衛協定を結んでいますからね」
純潔の聖女派の兵士が報告するのにロレッタがそう告げる。
「どうするつもりだ?」
「儀式の邪魔はさせません。人工天使を使いましょう」
「そうか」
アランは魔法陣が徐々に完成していくのを眺めていた。
「好きにしてくれ。もうすぐ儀式が始まる。邪魔はされたくない」
「では、こちらで対処させていただきます」
アランは思っていた。
ここでの数百万の犠牲は本当に正しい犠牲なのだろうかと。
今さら悩むのもおかしな話だが、これでは妹の、マリーの命を奪った男と同じことをしているのではないだろうかと思った。
だが、やらなければならない。
これから先、人類が幸せの中で、安定した世界の中で暮らすには人工の神が必要だ。何も答えない神ではなく、行動を示してくれる神が必要だ。たとえイデオロギー的に敵対していた純潔の聖女派と手を結ぼうと、これは必要なことなのだ。
「魔法陣、完成しました」
「最終チェックを行う」
ついに魔法陣が完成した。
後は『ネクロノミコン』の力を借りるだけだ。
アランは魔法陣をチェックしながら思う。
エリックならば自分を止めただろうかと。あの知識を追求し続ける彼ならば自分を止めただろうかとそう思った。
だが、止められるわけにはいかない。
たとえ友であろうともこれを邪魔されるわけにはいかないのだ。不老不死の肉体を得た彼には世界ははかなく見えるだろうが、限られた時を生きている人間にとっても世界ははかなく見えているのだ。
人工の神が降臨しても世界は永遠のものになったりはしない。
だが、寿命以外のことで愛する人を失うことはなくなる。人工の神は全ての人に降り注ぐ不幸から人間を守ってくれる。
「『ネクロノミコン』。今こそその真価を発揮するべきときだ」
魔法陣のチェックを終えたアランが告げる。
儀式が始まる。
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