武器密輸疑惑
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──武器密輸疑惑
「『冥府の番人よ。我が呼びかけに応じ、その扉を開きたまえ。暫しの間、現世に死者を呼び戻すことを許されたし』」
コーディがそう詠唱するとうっすらとした霊体が出現した。
『う、うう。どこだここは?』
「ダイラス=リーン都市警察中央警察署の死体安置室だ。お前は死んだ」
『ああ。そうだった。俺は死んだんだった』
海賊の霊が悔しそうな表情を浮かべるが恨みの色はない。
「聞きたいことがある。お前たちが使用していた魔道式小銃はどこで手に入れた?」
『ああ? それなら買ったんだよ。武器商人からな。略奪品じゃない。確か、魔道式小銃が1万丁に魔道式迫撃砲12門、魔道式軽機関銃3000丁と魔道式重機関銃2000丁、それで魔道式短機関銃5000丁だったか。ボスはこれを海賊たちに売り捌けば、他の海賊も部下にできるって大喜びだった』
「畜生。かなり買い込んでやがるな」
冥府から呼び出された霊は嘘をつかない。
海賊たちはどこかに大量の武器弾薬を隠し持っているわけである。
「隠し場所はどこだ?」
『俺は知らねえよ。ついでに言っておくが、誰から買ったかもしらねーからな。知らないものは答えようがない。だろ?』
「他の連中に聞くが誰なら知っている?」
『ボスとアルマジロの野郎だ。アルマジロの野郎も死んでるのか?』
「アルマジロってのはこの写真の中のどいつだ?」
『こいつだ。くたたばったんだな』
海賊の霊が指さしたのは解剖台の上に乗った太っちょの男だった。エリックたちが魔道式小銃で射殺した男だ。
「聞きたいことは以上だ」
『待ってくれ。俺を殺したのは誰だ?』
「それは言えない。分かっていることだろう?」
『畜生。じゃあ、冥府に帰してくれ』
「ああ。『冥府の番人よ。我が願いを聞き届けてくださったことに感謝を。その扉を閉ざされたし』」
それで男は冥府に帰っていった。
「さて、次はこいつだ」
「何か情報が得られるといいですね」
「それを望みたいが、空振りって可能性も結構ある。これまで殺された情報屋を降霊してみて、尋ねてみたりなどしたが、いざ現場に到着するともぬけの殻。そういうことが何度もあった。浮遊霊への聞き込みでも、外れの方が多い。捜査とは地道に進めていかなければならないってことだ。心霊捜査官であろうと、普通の捜査官であろうと」
「捜査に王道なしですね」
「そうそう、王道なしだ」
そう告げ合いながらコーディがアルマジロと呼ばれている男の死体の前に立った。
「『冥府の番人よ。我が呼びかけに応じ、その扉を開きたまえ。暫しの間、現世に死者を呼び戻すことを許されたし』」
いつも通りの詠唱をコーディが唱えるとちょっと肥満型の男が姿を見せた。
『なんだ、お前? 俺は……』
「アルマジロだろ。仲間から聞いたぞ。武器密輸に関わっているらしいな」
『畜生。ああ、そうだよ。ボスの命令で取引に向かった。何が知りたい?』
「取引先で会った人間はこの写真の中にいるか?」
コーディはそう告げて顔写真の並んだ本を見せる。
『うーん。いないな。俺が会ったのはブランドものの衣服で決めてて、武器の密売なんてやりそうにない男だった。なんというか、上品か? そんなイメージの男だ。涼しい顔をして死をお届け。死の宅配なら我が社にお任せ』
「ウォルター・シッカート株式会社。今は推理小説の話をしているんじゃない。どんな男だったか正確に話せ」
『髭は綺麗に剃っていた。それから鷲鼻で、目つきは鷹の目のようだ。ああ。俺の表現力じゃ伝えられねえよ。頭の中にははっきりとイメージが残っているってのに!』
アルマジロの霊が頭を掻きむしる。
「ふうむ。お手上げか?」
「あの、私に試させてもらっていいでしょうか?」
「何か案があるのか?」
「一先ず、紙と鉛筆を渡してください」
「ああ。これでいいか?」
「ええ。大丈夫です」
フィーネはA4サイズの事務用紙を受け取ると、鉛筆を持ちながらアルマジロの霊に触れた。アルマジロはそこで初めてフィーネを認識した。
『何してるんだ?』
「似顔絵を作っているんです。そのまま動かないで。頭に犯人の顔を浮かべて」
『あ、ああ』
アルマジロは戸惑いつつも指示に従う。
「その人はこんな顔でしたか?」
『そうだ! そいつだ! 間違いない! 細部までばっちりだ!』
フィーネが似顔絵を見せるのにアルマジロが叫ぶ。
「凄いな。絵の才能もあるのか?」
「エリックさんに解剖の授業でイラストの描き方を学んで。それに流れ込んでくる映像をそのまま描いただけですから、そこまで難しくはなかったですよ」
「いや。こいつは大したもんだ。これでようやく大本が明らかになりそうになってきた。感謝する、フィーネ・ファウスト君」
「捜査に役立つなら嬉しいです」
フィーネは心霊捜査官の仕事を手伝えたようで嬉しかったと同時に、自分にもできることがあるんだという自信を少しずつ、自信過剰にならないように気をつけながら得ていっていた。自分の知っていることの幅を広げ、自分にできることの幅を広げ、確実にフィーネは成長し、自信を持ち始めていた。
「で、アルマジロ。取り引きした武器弾薬はどこにある?」
『地図を持ってきてくれ。海図だ』
「分かった。準備させよう」
コーディは内線電話を取り、海図を持ってきてくれと頼んだ。
「コーディ捜査官。海図です」
「どうも」
コーディが海図を広げる。
「どこだ?」
『この島だ。東の岸壁が鍾乳洞になっていて、そこを改造してアジトにした。まだ仲間たちが残っているはずだ。そいつらが武器を守っていると思うぞ』
「流石に全員では出て来ないわけか。武装と人員はどの程度だ?」
『スターリングMK4で全員が武装している。武器商人から買った武器だ。それから重機関銃が防衛のために据え付けてある。数は全員が残っているなら21名だ』
「具体的な図面は覚えているか?」
『ああ。また女の子にメモさせるか?』
「そうした方が楽ならそしよう」
『そっちが楽だな。俺は口で説明するのが凄く苦手なんだ』
そこでコーディがフィーネを方を向いた。
「すまんが、もう一度頼む」
「分かりました」
フィーネはアルマジロの霊体に触れ、素早くメモしていく。
パトロールの哨戒経路、魚雷艇の停泊場所、重機関銃が据え付けられているポイント、武器弾薬庫、エトセトラ、エトセトラ。どれもこの場所に突入する捜査官たちにとって命を救われる貴重な情報である。
「できました」
「ありがとう。かなり広い拠点だな
コーディは地図を見て唸る。
『俺が渡せる情報はこれぐらいのものだろ?』
「ああ。知りたいことは知れた。眠っていいぞ。『冥府の番人よ。我が願いを聞き届けてくださったことに感謝を。その扉を閉ざされたし』」
コーディがそう詠唱し、アルマジロと呼ばれた海賊は姿を消した。
「さて、乗り込むか」
「え。心霊捜査官って敵のアジトに乗り込んだりするんです?」
「ああ。現場で死体が出たらそいつから話を聞くし、負傷者が出た場合の治療も任されている。特にこのダイラス=リーンでは白魔術師になるサンクトゥス教会の司祭が少ないからな。ここは連中にとっての敵地だ」
「科学都市ですもんね」
預言者の使徒派も純潔の聖女派ほどではないが、科学の進展を良く思っていない。科学の行きすぎは魔術の行きすぎと同様に信仰の土台を破壊してしまうのではないかと恐れているからである。例外は神の智慧派ぐらいのものだ。
「現場にはついてくるかい?」
「是非! 実地で学びたいです!」
「危険は承知だな?」
「もちです。足を引っ張るようなことはしません」
「一応保護者の許可をもらっておいてくれ」
そう告げてコーディがエリックを見る。
「エリックさん。現場に同行していいですか?」
「構わないよ。気を付けて行って来たまえ」
「行ってきます!」
エリックとしては少し心配だったが、夢の職業に触れることができてワクワクしているフィーネにダメだとは言いずらかった。それにダイラス=リーン都市警察は有能だ。それに加えて、場所が孤島ならばダイラス=リーン都市海兵隊も同行するだろう。彼らは素人を危険な場所に放り出したりはしない。
「それじゃあ、コーディさん。いいそうなので、同行します!」
「よし。じゃあ、準備をしないとな。特殊戦術強襲班にも出動願って、ダイラス=リーン都市海軍にも話を通さないといかん。だが、時間との勝負だ。仲間が何日も帰ってこなかったら、連中とて警戒して武器の保管場所を変えるかもしれない。それは不味い」
「急がないといけませんね」
「そうだ。急ぐぞ」
それからコーディはピアース部長に話を通し──心霊捜査課は刑事部に所属しているが、半独立という形であり、必要に応じて刑事部長の直属の捜査官になる──特殊戦術強襲班の出動とダイラス=リーン都市海軍及び海兵隊に出動を要請した。
半日でそれは認められ、コーディとフィーネはダイラス=リーン都市海軍の駆逐艦で海賊のアジトのある島──トルトゥーガ島に向けて出発した。
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この手の離島への上陸作戦任務で駆逐艦が選ばれるのは、喫水線は浅くて島に近づきやすい点に尽きる。ダイラス=リーン都市海軍は装甲艦4隻と軽巡洋艦6隻、駆逐艦10隻を保有しているが、選ばれたのは駆逐艦だ。駆逐艦と言っても、現代の様々な武装が積み込まれ、巨大化した駆逐艦ではなく、魚雷発射管と爆雷投射機、そして127ミリの連装砲1門を備えただけの非常にコンパクトで、小さな艦である。
駆逐艦がある程度、島に近づくとボートが降ろされ、まずはダイラス=リーン都市海兵隊の兵士たちが橋頭保を確保する。相手は高速の魚雷艇と重機関銃、迫撃砲で武装した連中だ。海兵隊が先陣を切るのは当然といえた。
それからダイラス=リーン都市警察特殊戦術強襲班が上陸し、それとともにフィーネたちが上陸していく。
「これって結構重いですね……」
「まあ、安全のためだ。辛抱してくれ」
フィーネは防弾のエンチャントが施された防弾チョッキとヘルメットを装備している。健康なフィーネなら動けなくなるということはないがかなりの重量がある装備だ。
その代わり、重機関銃の50口径ライフル弾が命中しても傷ひとつ負わずに済むという優れものだ。今回は敵が重機関銃で武装しているという事前情報があるために準備してきた。手榴弾の爆発やグレネード弾の炸裂にも耐えられるタフな装備だ。
海兵隊員たちはもちろん都市警察の戦術強襲班──立て籠もり事件や銃乱射事件などの通常の警察官では対応困難な事件に対応する部隊──もこの装備を身に纏い、隙のない動作で橋頭保からアルマジロの示した鍾乳洞を目指す。
その途中にある哨戒線については可能ならば犯罪者として拘束する。不可能ならば射殺するということになっている。都市警察はあくまで警察だ。犯罪者を片っ端から撃ち殺していいわけではない。
海賊にも弁護士を雇って法廷で自分の主張を訴える権利が保障されているのだから。
「まもなく哨戒線」
「警戒しろ」
海兵隊の兵士が魔道式小銃『ホイットレイMK2』にサプレッサーを装着して進む。ホイットレイMK2はダイラス=リーン都市軍と都市警察が採用しているものだった。見た目は一風変わっていて、ブルパップ式というカートリッジが手前で引き金がその先にあるという形になっている。これはタボールAR21自動小銃によく似いる。
「嬢ちゃん。俺についていろよ。何かあったらあのエリック・ウェストに殺される」
「そんなことする人じゃないですよ」
コーディは歩きやすいブーツに履き替え、それから腰のホルスターに魔道式拳銃を所持している。見た目はM1911自動拳銃にそっくりだ。
「死体だ」
そこで先遣を勤めていた海兵隊員が告げる。
「海賊のか?」
「ああ。武装している。海賊の死体だ。喉をナイフで裂かれている」
「仲間割れか。聞いてみるとするか」
「この切り口。やったのは軍人だぞ」
「確かめよう」
コーディと海兵隊の指揮官はそう言葉を交わすとコーディは頷いた。
「『冥府の番人よ。我が呼びかけに応じ、その扉を開きたまえ。暫しの間、現世に死者を呼び戻すことを許されたし』」
コーディはそう唱え、うっすらと死体になっている海賊の霊が浮かび上がる。
『あ、ああ。俺は……』
「落ち着け。お前は殺された。仲間にやられたのか?」
『そんなことはない。誰が俺を殺すもんか。ただ、いつも通り哨戒線をパトロールしてたんだ。相棒のスカンクは小便しにいって、その間俺はここで待ってた。そしたら、急に口が塞がれて、熱いものが喉に刺さったと思って……』
「奇襲されたのか」
『ああ。そうみたいだ。スカンクは無事か? ここから50メートルぐらい先に小便をしに行ったんだ』
「大尉。見てきてくれ」
コーディは海兵隊の指揮官にそう告げる。
「死体があった。やはり軍隊式のやり方で喉を裂かれている」
「先客がいたか。嫌な予感しかしないな」
コーディが海賊の霊を振り返る。
「あんたの相棒は殺されていた。襲ってきた連中はどんな奴らで何人いたか分かるか? それから内輪もめの可能性は絶対にないか?」
『いきなり襲われたからさっぱりだ。それから内輪もめの可能性はゼロだと断言してやる。俺たちは上手くやっていた。ボスは立派な人だったし、分け前は均等だった。誰ひとりとして不満を抱いている奴はいなかった』
「そうか。なら、眠ってくれ。『冥府の番人よ。我が願いを聞き届けてくださったことに感謝を。その扉を閉ざされたし』」
海賊の霊がその詠唱で消える。
「先客がいる。軍隊だ。別の傭兵上がりの海賊の可能性もある。用心してくれ。連中も恐らくは軍隊式の武装をしているぞ」
「了解」
全員の空気が緊迫する。
フィーネは死体を見ないようにしたが、切り口は鮮やかで確実に頸動脈を切断していた。意識を失うまで数秒とかからなかっただろう。軍隊式のやり方だ。悲鳴を上げさせず、短時間で相手を無力化する。
「鍾乳洞が見える。それから死体も」
「畜生。武器は持っていかれたかもしれないな」
鍾乳洞の傍にも死体が転がっていた。
今度は射殺されている。頭に2発。かなりの腕前だ。
「どうする、捜査官? このまま俺たちが突っ込むか?」
「いや。ここからは警察行為だ。あくまで海賊は逮捕する。特殊戦術強襲班に任せてくれ。あんたたちは周辺の警戒を頼む」
「分かった。幸運を」
カーキー色の制服を纏った特殊戦術強襲班が前に出て、海兵隊が下がる。
いよいよ武器密売の証拠のひとつが手に入る。
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