招かれざる乗客
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──招かれざる乗客
ラルヴァンダードが去り、平穏が戻ってきた。
フィーネとエリックは食堂で新鮮な魚介類──この船で漁をしているわけではなく、途中で停泊する港で仕入れている──の料理を楽しみ、ビリヤードに挑戦してみて、夕方にはカフェテリアでお茶とケーキを楽しんだ。
アルファとベータから最近の船旅は快適だと聞いていたが、予想以上の快適さであった。船内に立派な食堂があって、遊戯室があって、カフェテリアまであるなんて。
「楽しめているかい?」
「とっても! こんな経験をしたのは初めてです!」
船はさして揺れることもなく、メアリーが散々脅して聞かせた船酔いにはならなかった。水も綺麗なもので、シャワーも安心して浴びることができる。
「エリックさん。マリアさんとは親しかったんですか?」
「……ああ。彼女は将来有望な死霊術師だった。私は彼女の才能を高く買っていた。だが、彼女は不老不死の道を拒絶した。あの肺病から救われるにはその道しかなかったというのに。信仰上の理由だからと言っていたが、私のリッチー化への技術はサンクトゥス教会の教義に背いたものではなかった。それでも彼女は信仰のために死を選んだ」
エリックは紅茶を口に運ぶ。
「正直、どう言っていいか分からない。もっと付き合いが長ければ、何かが生まれた可能性はある。だが、私と彼女が過ごした時間はたったの4年だ。あまりにも短い。彼女が私について知ったことも、私が彼女について知ったことも十分ではなかっただろう。それでも彼女はよき友であったよ」
本当に友だったのだろうか?
長く時間が経てば、何かが生まれると評したのは、それは友以上の存在になったということを意味するのではないだろうか?
エリック自身もフィーネも同じことを考えながら沈む夕日を眺めた。
「私はエリックさんと一緒に生きていきますよ」
「君はリッチーになると?」
「ええ。時が来たら、必ず。約束します。私とは長い付き合いでいましょう?」
「そうだね。そう言ってくれると嬉しいよ」
エリックはそう告げて僅かに微笑んだ。
けたたましい銃声が響いたのはそんなときだった。
「じゅ、銃声!?」
「重機関銃だな。この船に持ち込まれたものではなさそうだ」
重々しい銃声からそれとなく察しをつけるエリック。
「分かるんですか? 銃の種類とか?」
「ああ。冒険者時代に覚えた。そういう意味では冒険者時代は貴重な経験をさせてもらった。銃の用途ごとの種類。それぞれの威力と射程、速射性。クライド──私の冒険者時代の仲間だが、彼が魔道式銃に詳しくて、いろいろと勉強させてもらった。そして、彼は凄腕のレンジャーであった。私にも耳を研ぎ澄ませる方法を教えてくれた」
そう告げてエリックが黙り込む。
「小さなボートのモーター音がする。魚雷艇を改造したものだろうか」
「な、なんでしょう? 何かの事故ですか?」
「それはないな。狙いはハイジャックか。相手は海賊だな」
「海賊!?」
「コヴェントリー辺境伯閣下が言っていた。ウルタールがオリアブ島の通商妨害に対して海上傭兵を雇うと。恐らく、その仕事が終わっても稼ぎが少なかった傭兵たちが、そのまま海賊になったのだろう。しかし、こんな定期便を襲うとは。普通は高価な品が運ばれている商船を襲う物なのだが」
エリックはそう告げて首を横に振った。
「ど、どうします……?」
「このまま見過ごすということはできないだろう。彼らは我々のことも人質にしようとするはずだ。だが、厄介だな。敵は既に船に乗り込んだようだ」
その時、魔道式小銃の乾いた連射音が聞こえた。
「全員、動くな!」
カフェテリアに魔道式小銃を持った男が飛び込んできた。
FAL自動小銃に似た魔道式小銃を構えた男は、天井に向けて2、3発銃撃を行うと銃口をエリックたちカフェテリアの客に向けた。
「ゆっくりと頭の上に手を置け、そしてひとりずつこっちにこい」
フィーネは震える手で海賊の指示に従った。
エリックの方はまだ余裕があった。彼は防弾のエンチャントが施された衣服を纏っていたし、仮に頭を撃ち抜かれてもリッチーはその程度では死にはしない。その分、彼には他の人質と違って相手を観察する時間があった。
人質はレストランに集められている。見張りは3名。先ほどカフェテリアから食堂に向かう間の道のりで見た停船した定期便の右舷に接舷し、ロープで固定されていた魚雷艇はいくら頑張っても10名程度の人間しか乗ることはできない。それもいざという場合、速やかに逃げ去るために魚雷艇には操縦を担う人間がひとり残っている必要がある。そして、エンジン──小型船には実用化されたガソリンエンジンが搭載されている──が駆けっぱなしなところを見て、それは間違いない。
となると、海賊で姿が見えないのは残りおよそ6名。
魚雷艇であるだけのものを持ち去るのではなく、ハイジャックして乗客ごと人質として連れていくつもりだろうか。そうなると残り6名は船橋と機関室にいる可能性が高かった。定期便を完全に乗っ取って動かすには機関室に数名と船橋に数名が必要だ。
確かこの定期便の乗組員は18名。シフトを組んで勤務に当たっているから必ずしも18名全員で動かしているわけではないだろうが、高圧蒸気タービンは見守ってお姫様のように扱わなければ、機嫌を損ねやすいという。その時のメンテナンスは楽だが、海賊としては船が途中で止まって海軍や海上警察に捕捉されるのは避けたいだろう。
「タクシャカ。船橋はどうなっている?」
エリックが小声でそう尋ねた。
『ならず者どもが船員に銃を向けているぞ。数は4名。燃やしてやろうか?』
「船員に被害が出る。合図するまで待機していてくれ」
『分かった』
タクシャカは海上妖精を介してエリックと通話すると、船の上を旋回する。
となると残り2名は機関室かとエリックは考える。いくら銃で武装していても、ひとりで普段の業務で鍛えており、工具という武器を持つ乗組員がいる機関室には向かわないだろう。やはり計算通り10名。
残るはどうやってこの状況から抜け出すかだ。
「エリックさん。あの人たち……」
「ああ。前にも同じようなことをしたようだ。怨霊が纏わりついている」
海賊たちには怨霊が憑りついていた。黒い影のような人の形をしたものが、海賊の手足にまとわりついている。あれは間違いなく過去に海賊たちが殺してきた人々の霊だ。つまり、この海賊たちは人質を取って、身代金が払えなければ殺すなりなんなりしてきたのだろう。
少なくともこれだけの怨霊に憑りつかれていて、何もしていないということは社会インフラから外れた人間であることが窺える。
「あれを実体化させれば……」
「人質との距離が近すぎる。魔道式小銃の安全装置は外されていて、いつでも撃てる状態になっている。ここで下手に怨霊を実体化させ、攻撃させると、流れ弾で死傷者が出るかもしれない。まずはあの魔道式小銃をどうにかしたいところだが……」
「私、やってみていいですか?」
「君が? 何をするんだ?」
「怨霊さんにお願いするんです」
フィーネはそう告げて怨霊たちに神経を集中した。
『憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い──』
『死にたくなかった死にたくなかった死にたくなかった死にたくなかった──』
『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね──』
次の瞬間暴力的な負の感情がフィーネの頭に流れ込む。
フィーネはトランス状態になりかかるのを辛うじて耐える。
『皆さん。聞いてください。あなた方の恨みを晴らして見せます。だから、私たちに手を貸してください。お願いします』
『力……』
怨霊たちが静まり返る。
『何をすればいい?』
『あなた方を実体化させます。なので、その海賊たちから武器を奪ってください。そうすれば後は好きにしてもらって構いません』
『そうか。分かった』
まだ怨霊は自己を失っていなかったのか、フィーネの言葉に応じた。
いや、違う。怨霊は自己を失っていた。だが、フィーネの言葉で“我に返った”のだ。かつて人間として生きていたことを思い出したのだ。自分が恨みだけの存在ではないことを思い出したのだ。
『では、行きます。お願いしますね』
『任された』
フィーネは教えられた通りに怨霊を実体化させた。
「ぎゃああっ!?」
次の瞬間、魔道式小銃を構えていた海賊たちの指が全てへし折れ、魔道式小銃が地面に落ちる。3名が同時に武器を失った。
それから海賊たちは地面でのたうち回る。実体化した怨霊が彼らを攻撃しているのだ。腕があらぬ方向に曲がり、口から血を吐き、血の涙を流し、鼻からも耳からも血があふれ出し、最終的に痙攣するだけになった海賊たちは死亡した。
「どうです? できましたよ!」
「君は……。私は君の才能を見誤っていたのかもしれない」
「へ?」
「君は天才だ。あれだけ自己を失っていた怨霊と対話できたのだろう?」
「え、ええ。分かってくれたみたいです」
「それは本来あり得ないことだ。だが、君は可能にした」
エリックはそこで倒れている海賊たちを見た。
「だが、今は現状に対処しなければなるまい。今の悲鳴で仲間が向かってくるはずだ」
エリックは乗客たちを見渡した。
「この中で銃が扱える方はいますか?」
「私は連邦陸軍の退役軍人だ。扱える。任せてくれ。チャンスを待っていた」
老人がひとり申し出て、海賊が持っていた魔道式小銃を握った。
「俺も狩猟で扱っている。丁度、同じ奴だ。民間モデルのセミオートのみのものだったが、使い方は同じだ。やらせてくれ」
そして、若い男性が名乗りを上げた。
「では、3人で敵を迎え撃ちましょう。ただし、敵が人質を連れていたら中止です」
「分かった」
エリックの言葉にふたりが頷く。
「フィーネ。君は他の乗客の避難誘導を。食堂の奥にある調理室に彼らを連れていってくれ。そこなら巻き込まれる可能性は低い」
「了解です! エリックさんは魔道式小銃は扱えるんですか?」
「ああ。万が一の場合にとクライドに教わっていたし、冒険者時代は魔道式短機関銃を所持していた。十分に扱える」
「それではお任せします。皆さん、こっちへ!」
食堂に集められた人質たちは食堂から通じる調理室に向かって避難した。調理室は火災の可能性を考えて頑丈に作られており、重機関銃でも持ち込まれない限り、弾が飛び込んでくる可能性は低い。
一方にエリックたちは食堂の金属製のテーブルなどを倒してバリケードを構築する。この手の作業については連邦陸軍の退役軍人が知識を出してくれた。適切なキルゾーンを設定するのにエリックたちに指示を出す。
「今の悲鳴はなんだ? 何かあったのか?」
やがて食堂の方に海賊が2名向かってきた。
「距離は十分だ。セミオートで胸を狙いたまえ。頭を狙うのは難しい」
「了解」
連邦陸軍の退役軍人は冷静だった。
エリックも同じくらい冷静であった。緊張しているのは狩猟でのみ魔道式小銃を使ったことがない若者だけだ。
「おい。これは何を──」
「てえっ!」
連邦陸軍の退役軍人が合図し、エリックたちが遮蔽物となるテーブルから身を乗り出して射撃する。セミオートで海賊たちの胸に魔道式照準器の狙いを合わせ、引き金を引く。軽い反動が肩に感じられ、海賊たちの胸が貫かれて、地面に倒れれる。
「よし、やったな。若いの。大丈夫か?」
「あ、ああ。しかし、人間を撃つってのは緊張するな……」
「当然だ。人に向けて軽々しく引き金が引けるような奴は禄でもない野郎だ」
連邦陸軍の退役軍人はそう告げて紙巻き煙草を取り出す。
「吸っておけ。少しは落ち着くだろう」
「ありがとう」
連邦陸軍の退役軍人が紙巻き煙草を差し出すのに若者はそれを受け取って赤魔術で火をつけた。そして、深く吸って、ふうっと息を吐く。
「死霊術師のお兄さんは大丈夫か?」
「ああ。人を殺すのは初めてではない。この手の武器を使って殺すのは初めてだが」
「冒険者だな?」
「元、だよ。冒険者ギルドは黒魔術師を除名処分にした」
「そうか。それで次のプランは?」
「船橋を奪還して乗組員を解放したい。敵の兵力を船員から離せれば、私がどうにかする。機関室はその後でいいだろう。船橋を奪還できれば救難信号が送れる。ここはダイラス=リーンからさほどは慣れていないはずだ」
「分かった。奴らを誘い出そう」
3人はバリケードを乗り越えて、互いの死角をカバーし合いながら、船内を進んでいく。食堂は丁度、船内の中央に位置し、そこからラッタルを登って上の階層に上がれば展望室と船橋がある。
「私から先に行く。死ぬのは年寄りからでいい」
エリックは連邦陸軍の退役軍人の言葉に何か言おうとしたが、彼の方が経験豊富だと思ってラッタルと先に上ることを任せた。
「タクシャカ。船橋はまだ見えているか?」
『見えているぞ。2名。どうやら仲間が戻ってこないことを警戒しているらしい。1名が外に出た。そちらに向かっている』
「十二分に距離が取れたら焼いてくれ」
『任された!』
エリックとタクシャカは再び海上妖精を使ってやり取りすると、ラッタルに手を駆けて昇り始めた。既に敵は外に出ている。後はタクシャカの火炎放射の影響が出ない範囲まで引きずり出すだけだ。
「どうですか?」
「船橋からひとり出てきた。もうひとりは動かんな。救難信号を出されたら、困るので見張っていないといけない。だが、奴ひとりだけならどうとでもなる」
「それは結構。始めましょう」
エリックが空を見上げる。
「タクシャカ。やってくれ」
『了解!』
船橋から出てきて、食堂に続くラッタルの方に向かってきた海賊が青い炎に襲われる。魂を焼かれた海賊はもがき苦しみ、地面でのたうつ。それを目撃したもうひとりの海賊の注意が乗組員から逸れた瞬間、乗組員が後ろから海賊を羽交い絞めにした。
「助けに行くぞ!」
「ええ」
連邦陸軍の退役軍人が年齢とは思えないほどの脚力を発揮し、船橋に飛び込む。
「そこまでだ、海賊! 降伏しろ!」
「畜生!」
魔動機小銃を突き付けられた海賊は武器を捨てた。
「機関室には何人送った?」
「2名だ」
「よろしい。おふたりは食堂に戻って、機関室の人間が出て来ないか見張っておいてもらえますか? 食堂の人々は無防備です」
「分かった。ここは任せる」
連邦陸軍の退役軍人と若者は海賊をロープで締め上げると、ラッタルと降りていった。海賊は情けない顔をして俯いている。
「救難信号をお願いできますか? 我々だけでは海賊全てを相手にするのは無理がある。それにここにいる連中だけとは限らない。増援が来る可能性もあります」
「了解。ご協力に感謝します」
「その礼は後で彼女に言ってあげてください」
この事件の突破口を開いたのはフィーネだ。
フィーネが海賊たちを安全に制圧できなければ、今の状況はなかった。
エリックはモールス信号で救難信号を送り始めた乗組員を見守ると同時に海賊を見張る。何か馬鹿をやらかせば、銃弾がその頭を貫く。
そうしなくとも海賊にまとわりついている怨霊を使えば、簡単に殺すことが可能だ。
「ダイラス=リーン都市海軍の駆逐艦が救援に来るそうです!」
そして、乗組員が嬉しそうに報告した。
それと魚雷艇のエンジン音が大きくなったのは同時だった。
「通信を傍受していたか。逃げるつもりのようだ」
エリックは船橋から魚雷艇か逃げ始めるのを見た。
「ここで逃がすのもこれまで犠牲になってきた人間に申し訳ないし、これからまた同じことが繰り返される可能性もある。タクシャカ、中の人間は生かしたまま沈めてくれ」
『竜使いが荒いのう』
口ではそう言いながらもタクシャカは嬉しそうであった。
実体化した巨大なドラゴンが魚雷艇の後方から迫り、爪で魚雷艇を海面から救いあげるとそのまま放り投げた。魚雷艇は上空で僅かに錐揉みし、海面に落下して動かなくなった。魚雷艇の部品はバラバラになって会場を漂い、エンジンの停止した魚雷艇は海を漂うのみとなる。
「これでいい。助かった、タクシャカ」
『まあ、余にかかればこれぐらいは造作もないことよ!』
タクシャカはそう告げて再び自由に空を旋回し始めた。
ダイラス=リーン都市海軍の駆逐艦が陸戦隊を乗せてやってきたのはそれからすぐのことであった。
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……………………
「ゲホ、ゲホッ!」
タクシャカに持ち上げられて海面に叩きつけらた魚雷艇の中では海賊のひとりが衝撃で入り込んた海水を飲み込んでしまい咳き込んでいた。
「畜生。あれは都市海軍の駆逐艦か。ここまでだってのか!」
海賊の目からのダイラス=リーン都市海軍の駆逐艦の姿は見えていた。
捕まればこれからの罪からして絞首刑は避けられない。どうにかして逃げなければ死ぬことになる。
「畜生、畜生。動け! 動けってんだよ!」
エンジンのかからない魚雷艇を何度も動かそうと海賊は努力する。
「やあ、お困りのようだね」
「なっ……!?」
自分以外は誰もいなかったはずの魚雷艇の中に人がいた。
血のように赤い瞳をし、濡れ羽色の黒髪をくるぶしまで伸ばした少女だ。
「だ、誰だ! お前! どこから入った!」
「そんなことを気にしている場合じゃないだろう? 君には生命の危機が迫っている。このまま魚雷艇が動かなければ、絞首刑が君を待っている。海賊で、しかもこれまで民間人を何人も殺した君たちが無罪放免になる可能性はゼロだ」
「そ、そうだが……」
「ボクはね。お願いをかなえてあげる存在なんだ。君がこの魚雷艇に動いてほしいと願ったら、魚雷艇は動き出す。ダイラス=リーン都市海軍の駆逐艦からも逃げられるかもしれない。少なくともボクはこの魚雷艇を動かしてあげることだけはできるよ
「ほ、本当か?」
「本当だとも。お願いしてごらんよ。『この魚雷艇が動くようになってほしい』って」
少女はそう告げてにこやかに笑った。
「この魚雷艇が動くようになってほしい!」
そして、海賊は願った。願ってしまった。
「では」
少女がパチリと指を鳴らすと魚雷艇の壊れていたはずのエンジンが動き始めた。
「おお! おお! やった! やったぞ!」
海賊は嬉しそうに声を上げる。
「さてと、お願いをしたのだから対価をもらうよ?」
「……対価?」
「どんなお願い事でも叶えてもらったらお礼をするものだよ。そうだろう?」
「あ、ああ。そうだな。アジトに戻れば、山ほど金がある。それを分けるから──」
「そんなものはいらないよ」
少女はあっさりとそう告げた。
「ボクはそういうものには興味がないんだ。だから、ここはボクが対価を決めよう。ボクが対価として受け取るのは──」
少女の手が海賊の方に延びる。
「君の自我だ」
次の瞬間、あれだけ必死に回転していた海賊の脳の動きが止まり、彼の思考は途絶えた。そして、彼はだらりと操縦席の椅子に腰かけるだけになった。
「じゃあね。逃げられるといいね」
少女──ラルヴァンダードはそう告げて魚雷艇から姿を消した。
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