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マイペース

「ところで」

「なんだよ」

 舞彩が八雲を見る。

「幽霊に話を訊いてどうするんだ?」

「まあ、話の内容によってはその場で退治だな」

「・・・」

 舞彩は、そういう話になると気合いが入る。

「あのさ、幽霊退治なんだけど・・」

 八雲がおずおずと切り出した。

「なんだよ」

 舞彩が睨むように八雲を見る。

「ちょっと待ってもらえないか」

「どうしたんだよ」

 舞彩がいぶかし気に八雲を見る。

「憑りつくとかなんとかってさ、あの子がそんなことをするようには見えないんだけど・・」

「あの子って」

 舞彩が八雲をさらに覗き見る。

「お前、何幽霊に惚れてんだよ」 

「そ、そんなんじゃねぇよ」

 八雲は少し顔を赤くする。

「何どもって顔赤くしてんだよ」

「し、してねぇよ」

「まさか、本当に惚れたんじゃないだろうな」

 舞彩が八雲の顔を覗き込む。

「そ、そんなわけねぇだろ」

「あ、またどもった」

「うううっ」

 年下の女の子に、追い詰められる八雲であった。

「でも、確かに邪気がない・・、私もあの子がそんな悪いことをするとは思えない・・」

 そこに萌彩も会話に入って来て言った。

「萌彩お前もかよ」

 舞彩が萌彩を見る。

「でも」

「じゃあ、他にどんな理由があるって言うんだよ。幽霊が丑三つ時に毎晩枕元に出る理由」

「それは・・」

 萌彩は言葉に詰まった。

「そういえばお前最初来た時、幽霊に惚れられてしまったとかなんとかって言ってたよな」

 舞彩が八雲を見る。

「うん・・」

 なんとなくそんな感じがしていたのだ。八雲はなんだか温かい何かを感じていた。あの子から。それは今も感じる。

「なんかそんな気がしたんだ」

「自意識過剰だな」

 だが、舞彩はにべもない。

「うううっ」

 それを言われてしまうとそれまでだった。しかし・・、八雲にはなんとなくではあったが、はっきりと確かに何か温かいものを感じていた。それに、あのなんとも悲し気な顔。あれが気になった。

「まあいいや、とりあえず飯行こうぜ」

「まあ、いいやって」

 八雲の勝手な考えなどさらりと流し、舞彩は立ち上がった。舞彩の興味の対象はコロコロ変わるらしい。八雲は驚く。しかも、ちょうど、萌彩が、舞彩のリクエスト通り、お茶を入れて持ってきたところだった。

「そんなのいいよ。行こうぜ」

「お前が入れろって言ったんだろ」

 八雲がツッコむ。

「今は飯だよ。飯」

「お前なぁ」

「八雲さん、行きましょう。大体いつもあんな感じなんです。落ち着きがないというか一貫性がないというか。ものすごくマイペースなんです」

 萌彩が諦め口調で言った。

「そうなのか・・、しかし、マイペース過ぎないか・・汗」

 絶対に舞彩は人格に問題がある。八雲は思った。


「八雲さん何食べます?」

 萌彩が八雲を見る。三人は、八雲のアパートからほど近い駅前の商店街を歩いていた。

「そうだなぁ・・」

「あたし、中華がいい」

 そう言うと、もう舞彩は、商店街の中ほどにちょうどあった中華料理屋に勝手に入って行ってしまう。

「お、おいっ、人の意見を聞かないのかよ」

 八雲がその背中に叫ぶ。だが、舞彩は まったく聞いていないというか聞こえていない。そのまま舞彩は店の中に消えていった。

「舞彩はいつもあんな感じなんです。マイペースというか、独断専行と言うか・・」

 萌彩が再びため息交じりに言った。

「・・・、それにしてもマイペース過ぎないか・・汗」

 八雲も再び呟く。 

「とりあえず全部」

 テーブルにつき、さらりとメニュー表を見ると舞彩が言った。

「はい?」

 八雲と、注文を取りに来たウェイターが驚き、同時に声を出す。

「メニューの端から端まで全部な」

 舞彩は、メニュー表の右端から左端までを指でなぞる。

「あ、あのぉ・・」

「メニューの端から端まで全部な」

「か、かしこまりました」

 ウェイターが困惑気味に頭を下げる。

「どんだけ食うんだよ」

 テーブルに並んだ料理を見て、八雲が驚く。それはとてつもない量だった。

「夜は長いからな」

「そういう問題なのか」

 しかし、舞彩は端からすべてを平らげていく。

「本当に食うんだ・・汗」

 その食べっぷりに八雲は呆然とする。その小さな体のどこに入るのか、大量の料理は舞彩の胃袋の中に次々消えてゆく。

「・・・」

 それは何かの奇術を見ているようだった。

 萌彩はもう見慣れているのか、一人、落ち着いた様子で同じ丸テーブルの端でみそバタラーメンをすすっていた。

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