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 序

砂臥 環様・原案、かわかみれい・文 のコラボレーション作品です。

 

 学生時代から使っている机の本棚に、薄いアルバムが一冊ある。

 あるのが当たり前で、もはや『そこにある』と意識することすらない、古いアルバムだ。

 卒業式の日、美鈴……当時は竹中さんと呼んでいた、が、クラスメートたちを撮った写真が収まっている。

 いつもツルんでいた、俺たち四人のヤローどもの写真も当然ある。


 窓越しに差す光を背に、俺たちは卒業証書の入った筒を持って写っている。

 式の後、最後にHRへ戻った時の写真だ。

 なんとなく視線を窓の外へ向け、皮肉そうに口許を歪めているのは天城 渉。

 フラッシュとシャッター音に驚いたのか、小さな目を見開いてキョトンとしているのが三枝 寛之。

 窓にもたれるようにして、軽く腕組みして俺たちの方を見ているのは菱本 和孝。

 そして俺……浜 武志は。

 しっかりとカメラ目線で写っている。

 逆光の中、今より若い……幼い俺たちが、美鈴のカメラに切り取られ、そこにいる。

 眩しい早春の光を背にしたせいで、淡く陰っている幼さの残る顔。

 自分なりの明るい未来を、漠然と夢見ていたあの頃。


 あの頃夢見た未来はしかし、もはや輪郭さえ定かではない。

 逆光の中に浮かぶ、淡い影よりも茫漠としている。

 曖昧だけど確かにある影から上手に目をそらし、俺は日々を、それなりに平和にやり過ごしていた。


 頭から冷水を浴びせかけられたような思いをする、その日までは。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 その日のその時、俺はこたつへ足をつっこみ、うとうとしていた。


 土曜の午後だった。

 俺は寝転がってテレビを見ていて、ミーはキッチンでフォトジェニックな(笑)自作スイーツの撮影に励んでいた。

 写真は高校時代からの、ミー……美鈴の趣味だ。

(あいつも飽きないよなあ……)

 あきれるというより感心するような気分で俺は思う。

 下手の横好きにすぎない趣味とはいえ、ひとつのことをコツコツ続けるのは偉い。

 これという趣味もない俺は、こたつにもぐりこんでうとうとしつつ、だらだらテレビを見ている。

 生産性ないなあ、と、ちょっと思うが、生産性があればいいってものでもないだろう、とも思う。

 のんびりだらだら、は明日の為の活力だ、そうなんだ。

 誰に言っているのかわからない言い訳を、俺は、半分寝ているぼけた頭の中でつぶやく。

 土曜の午後に相応しい、だらけたバラエティー番組をつけていたのはなんとなく覚えている。

 半目を閉じた状態でテレビ画面から垂れ流される喧噪を浴びているうち、俺の脳は別のものを想起したらしい。

 奇妙な夢を見始めた。


 夢の中で俺は、職場である市役所の窓口で頭を下げ、謝っていた。

 この世の終わりでも来たような悲愴に満ちた顔の、年齢のよくわからない男が切々と何かを訴えている。

 俺は、すみませんすみませんとひたすら頭を下げている。

 窓口での苦情処理なんて月一から月三くらいの、ルーティンみたいなものだよなあと、胸で密かにつぶやきながら俺は、今日の昼飯は何食おう、とか考えていた。

 男は突然、キッとした目で俺をにらみつけてくる。

「おい。頭下げてりゃそれで済むと思ってるんだろう?引っ込め、お前じゃ話にならん!」

 うっと詰まった瞬間、場面が変わった。


 廊下を進む俺。多分、出身高校の校舎の廊下だ。

 近くをたらたら歩いているのは、高校時代にいつもツルんでいた三人。

 ただ、俺たちは別に高校生ではなく、今の年齢になっていた。

「じゃあな、お先」

 渉が言って、片手を上げる。くたびれたトレーナーに汚らしいジーンズ。

「……勝手な奴だなあ、まあいつものことだけどさ」

 俺より頭一つ低いところでそうつぶやくのは、三枝。脂の浮いた額が光り、物悲しい。

 度のきつい眼鏡の向こうで丸い目をパシパシさせ、三枝は、足早に廊下を行く渉を見ている。

 目をパシパシさせるのは、驚いたり怒ったりした時のコイツの癖だ。

「おい!待てよ、おい!」

 ちょっと意外なくらい怒った声で三枝は、角を曲がった渉の後ろを早足に追った。

「……別に急ぐこともないのにな」

 どうせみんな、そっちへ行くんだし。

 妙に哲学的な口調でそう言うと、菱本はちょっと疲れたのか、ゆるく腕を組んで立ち止まる。

 仕立ての良いグレイのスーツが、嫌味なくらい似合っている。

「追いかけてやれよ、武志。追いかけてくれるの、二人とも待ってるはずだよ」

 ガキかよ、と思いつつも俺は、先に行った二人が急に心配になってきた。菱本へ目くばせすると、俺は廊下を小走りに進み……。



「たあちゃん!たあちゃんってば!大変だよ!」

 唐突にゆさぶられ、俺は混乱する。

「起きて!自殺だって、自殺したんだって!」


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