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誰にも渡したくない。

作者: 麻琴

乙女ゲームの悪役令嬢はイケメン義弟と結ばれても良いのではないか?と思い、書いてみました。

悪役令嬢もヒロインも出て来ないんですけど…。


 僕は子爵家の5人兄弟の3男だった。親戚の中でも、魔力が大きかったから、7歳の時に侯爵家に引き取られたんだ。


 そこには天使がいた。


 一目で恋に落ちたんだと思う。


 半年ほど年上の天使は、真っ白な肌に、長い睫毛のサファイアの大きな瞳、まっすぐでサラサラのプラチナブロンド。

 優しくて、所作も美しくて、頭も良くて、社交的で。非の打ち所の無い、完璧な令嬢だ。

 僕より少しだけ背が高くて、ちょっとだけ悔しかった。

 天使の隣に立っても恥ずかしくないように、必死で魔術の勉強もしたし、守れるように身体も鍛え、剣術も習ったんだ。

 彼女が笑いかけるのも、手を繋ぐのも、抱きしめるのも僕だけだったのに。


 なのに、天使は13歳で王子様と婚約をした。



 元々、侯爵家には男の子の跡継ぎがいないから僕が引き取られたんだ。天使がどこかに嫁ぐのは決まっていた。


 今までは僕が居た場所にあいつがいる。

 社交場でエスコートして、細い腰を抱き、手を取り、一番最初にダンスを踊る。耳元で囁やき、髪にキスをする。


 嫌だ嫌だ嫌だ。


 見たくない。


 誇らしげな王子の顔も、笑顔で王子を見上げる天使の顔も。


 僕を、僕だけを見てよ!そばにいてよ!


 そんな願いが神様に届いたのか、僕たちが学園に通い始た15歳の時、隣国から王女が留学してきた。

 ゆるく巻いた赤い髪に、少しつり目のエメラルドの瞳、細い腰に不釣り合いな大きな胸や、天使とは正反対の派手で目立つ美女だ。

 婚約者がいる者まで見とれていた。


 王子を気に入ったのか、天使が気にくわないの

 か分からないけど、何かと王子を呼び出してはしなだれかかっていた。

 王子も満更ではないようで、呼び出しに応じていた。

 天使はそんな王子を見ても何も言わなかった。


 チャンスだと思った。

 天使を僕の手に取り戻す。


 すぐに義父に相談した。姉が蔑ろにされている。王家は隣国の王女との縁談を望んでいるのではないかと。


 義父が王家に問い合わせたのか、しばらくの間は、天使のそばに王子が戻って来ていた。

 でも、大人しい天使よりも派手な王女の方が良かったのか、パーティーではエスコートして、最初のダンスは踊るものの、すぐに王女の元へ行ってしまっていた。


 僕は寂しそうな天使に常に寄り添い、誰にもさわらせなかった。


 そしてとうとう、王家側から婚約解消を提示してきた。

 侯爵家の娘よりも、隣国の王女の方が政治的にも都合が良かったのだろう。


 義父は激怒するも、天使が承諾したのでそのまま成立した。


 バカで助かった!天使の良さも分からないとは!

 僕はすぐに義父に直談判しに行く。

 天使が欲しいと。

 もう良家の令息は婚約者が決まっていたりして、天使に釣り合う家はない。


 義父は色々考えていたようだが、天使はこのまま侯爵家に残る方が良さそうだと判断したようで、1ヵ月後に僕と天使の婚約を認めてくれた。

 僕は侯爵家の養子ではなく、婿になった。



 嬉しかった。

 僕だけの天使が、僕の手に戻ってきた。

 それどころじゃない。永遠に僕の物だ。


「僕は、初めて会った時からあなただけを愛してる。」

 そう言うと、天使は涙を浮かべて頬を染め、

「私もよ。」

 と言ってくれた。


 初めて天使にキスをする。

 もう離さない。

 絶対に誰にも渡さない。





 私は侯爵家の一人娘。7歳の時に同じ年の弟が出来た。

 少し癖のある黒髪に、少したれ気味の赤い瞳。

 私よりも少し背が低く、心細そうな表情に私の心は撃ち抜かれた。


 私が守ってあげなければ!お姉さんになったんですもの!


 最初は母性愛のような物だったのだと思う。

 いつの間にか私よりも背が高くなり、肩幅も背中も広くなり、騎士様に剣術の稽古もしてもらっていた。

 エスコートする手が大きくゴツくなっていて、私の腰を支える手に、何だか落ち着かなくなったのを覚えている。


 いつまでもこのままで居られると何故か思ってしまっていた。

 弟が出来た時に、私が侯爵家を出る事は決まっていたのに。


 父から王家から王子様との婚約の申し込みがあり、受けたと言われた。

 弟にもその内、婚約者が出来るのだろう。

 自分の婚約よりも、弟の婚約が嫌だと思ってしまった。

 その日は弟の顔が見られなかった。


 社交場で、いつも私の手を取ってくれていた手が変わってしまった。

 細い指の綺麗な手だった。

 王子と言えど、それなりに剣術も学んでいるはずなので、弟がどれだけ頑張っていたのかと、涙が浮かぶ。

 涙の意味を勘違いしたのか、耳元で嬉しいかい?と囁かれたけど、微笑むだけで返事はしなかった。


 止めて止めて止めて。

 私は、私はーーーー。


 私は弟を愛している。


 気がついた所でどうしようもない。

 貴族の結婚には政治的な意味もある。

 私の気持ちなど関係ない。

 それどころか、弟は私の事を義姉としか見ていないかもしれないのだ。

 今のままの関係を壊したくなかった。



 そんな時に、隣国から派手な美少女の王女が留学してきた。

 王子の隣にいる私に、挑戦的な笑みを向ける。


 もしかして、王子を狙っているの?


 最初は3人でお茶会をしたり、勉強会などをしていたのだけど、王子の腕に私にはない豊かな胸を押し付けていたり、私を無視して、2人だけで会話をするようになっていた。

 王女に意地悪されているのは分かったし、付き合うのも疲れるので、体調不良の振りをして帰宅すると、誘われなくなった。


 学園で噂になり、王家の耳にも届いたのか、王子はまた私と一緒にいるようになった。


 それもほんのつかの間で、パーティーでは義務を済ますと、私を置き去りにして王女の相手をしていた。

 恋心はなかったけど、いい気持ちはしなかった。

 弟がいつも側に居てくれたから救われたけど。


 貴族の中でも噂になり、王家は隣国との繋がりを重視したのか、私との婚約は解消したいと言ってきた。


 私は疲れていた。

 自分の気持ちを押し込めて、王家に嫁ごうとしていたのに。

 父には、婚約解消を受けるとだけ伝えて、しばらくは学園も休む事にして引きこもった。

 もう15歳だし、新たな婚約者など現れないだろう。このまま侯爵家に居たいけれど、弟が結婚したら邪魔者だ。

 修道院しかないのかもしれない。

 せっかく私の婚約が無くなったのに、やっぱり弟とは一緒に居られないのかと思うと、悲しかった。


 やっと、学園に戻ろうかと思い始めた時に、父から新しい婚約を勧められた。

 相手は、弟だった。

 ずっと私を好きでいてくれたらしい。

 父から、あいつは私が侯爵家を任せようと思った男だ。お前の事も全て引き受けると言っている。後はお前の気持ち次第だと言われた。


 すぐに弟に会いに行った。


「私でいいの?王子に捨てられた姉だよ?」


「姉さんだなんて思った事はなかったよ。僕は初めて会った時からあなただけを愛している。」


「私もよ。」

 そう答えると、初めて唇にキスしてくれた。

 嬉しかった。

 叶わないと思っていたのに。

 弟は、私の夫になった。

 もうあなたの手を離さない。


 私を誰にも渡さないで。



















読んでくれて嬉しいです。

ありがとうございます。

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