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わたしとかのじょとそのほかと。  作者: アイカ
何も知らない少女の話
7/9

いわかん。

とうとう日常が崩壊します。

ふわふわした頭の中。巡っているのは


ネムヲシンジルナ


ネムヲシンジルナ


そんな言葉たち。



だけど、ねむちゃんがわたしのことを騙すはずがない。だって、わたし達は小さい頃からずっと、大の仲良しで。お互いが大切な、幼馴染でーー








あれ?


違う。わたしにはねむなんて幼馴染はいないはず。


だって、わたしの幼馴染の名前は。





彼女の名前は。





「わたしの、幼馴染は、こなたちゃんのはず……」


そこまで考えが至ってまた意識が浮上していく。わからない。わたしが何者かわからない。かのじょが何者かわからない。



わからない、わからない。




ネムヲシンジルナ



その言葉だけがわたしの脳裏に焼き付いていた。



目覚めると、目の前には見慣れた天井がある。腕をでたらめに動かしてみると衝撃をふかふかのベッドが和らげる。真っ白なシーツにお花の絵柄の布団。ここは、わたしの部屋だ。


枕元にはお気に入りの人形達が並んでいて、机の上にはまだ途中の課題。いつも通りの、何1つ変わらないわたしの部屋。あの、公園での出来事は夢だったの?おそるおそる、胸に手を当てる。なんの気にもなしにした行為だったが、それはわたしを夢見がちな意識から現実に引き戻す。


「……これ…まさか」


爪には、昨日はなかったはずのつちよごれがついている。もし、あれが夢だったなら。こんなもの、付いていないはずなのに。


ある一種の確信を持って居間に走る。ドタドタと音を立てて走っても誰もこない。それが今まで当たり前だった。



けど、わたしは、いつから、一人暮らしをしていたんだっけ?思い出せない、何も。母の名も、顔も、父の顔も、名前も。自分の、苗字でさえも。




どうして、わたしはそこに疑問を持たなかったの?


居間に着く。


そして、はじめに手が当たったタンスの取っ手を持ち、勢いよく引き出す。


ーからっぽ。


2つ目を手に取る。


ーーからっぽ。


3つ目。


ーーー何にもない。


4つ、5つ、6つ……








家中のタンスにはなにも閉まっていなかった。保険証も、戸籍も、なにもかも。あるべきものが、普通に考えればあるはずのものが、なにもない。わたしの存在を証明するものが、なかった。



なんで、わたしは、ずっと疑問を持たずにこの世界で生きてきたの?親の存在も、自分の苗字さえも曖昧な世界で!



気づけばわたしは自室に戻っていて、ベッドの上で荒い呼吸を繰り返していた。ずっと、ずっとおなじことばかりが頭の中をぐるぐるしている。



(なんで、どうして。わたしは、だれなの?何者なの?)



縋るように枕元に目を向ければ、くまのぬいぐるみがある。そういえば、あたりまえのようにあったこのぬいぐるみ、どこで手に入れたんだっけ?…やっぱり、思い出せない。気付いた時から、一緒にいた。幼い頃のわたしは、2つのぬいぐるみを並べて恋人同士!なんてあそんだっけ…。



「……そういえば、ぬいぐるみの片方、誰かにあげたっけ…」





『え、でも…これ、つむぎちゃんの宝物だよ?』


『ううん、いいよー!…あ、でもわたしの名前が書いちゃったから…となりに、**ちゃんのなまえもかこ!』


『…ありがと』


『ううん、わたしと**ちゃんは幼馴染だもん』









「……!!」


大事な、きおく。

幼馴染とわたしの、大切な思い出。そうだ、わたしはあの時、幼馴染の名前を、タグにもともと書かれていた、わたしの名前のとなりに書いた。


『こうしてたら、二人はずっと仲良しだね!』


『…うん、そうだね』



確か、ねむちゃんの部屋には、あのくまのぬいぐるみがあった。つまり、あれがねむちゃんのものか、こなたちゃんのものか。どっちかわかれば、わたしがおかしいのか、かのじょがおかしいのか。分かるんだ。震える手でねむちゃんへ、メールを送る。




『いまから、ねむちゃんの部屋に行っていい?』




打ち終わって、端末はわたしの手を滑り落ちる。手は小刻みに震えていて、まともな思考ができない。


(どうか、どうか、この考えが間違いでいて)


わたしは、わたしがだれだかわからない。ここで、ねむちゃんが、わたしの幼馴染が、誰でもなかったらどうしよう。こなたちゃん、なんてわたしの知らない人だったらどうしよう。


ねむちゃん、こなたちゃん、わたし、いろは先輩、なごみ先輩。何者なんだろう。


ぴろん!


場違いなほど軽快な音が鳴り響く。おそるおそる、端末を持ってメールを開く。




『いいよ ねむ』


そのメールを見て、わたしはまた1つの事実に気づく。


「そういえば、わたし、ねむちゃんの苗字、知らない…」


一度気づいてしまえば自分がいるかの世界が非常に薄っぺらいものに思えてくる。わたしも、ねむちゃんも、いろは先輩も、なごみ先輩も。みんな、みんな、こんな何もかもがよくわからない世界に生きていたんだ。



「いま、から、いくね……」



返事のメールを打ち込み、パジャマを脱いでお気に入りのワンピースに袖を通す。そういえば、今日は何曜日だっけ?学校は、何曜日が休みなんだろう?あたりまえのように通っていた学校についても全然わかっていない。


ねむちゃんは何かを知っているの?それとも、わたしと一緒に騙されてるの?



(けど、かのじょはなにかをしっている。)




かのじょはなぜか一連の事件について触れようとはせず、なにかをわたしに隠し続けた。

まるで、わたしをなにかから遠ざけるように。



かのじょは、わたしに嘘をついた。

ホムンクルスのただの暴走なんて思ってもなかったのに。恐ろしいくらいにそれたちを知っているはずなのに。


(…けど、わたしは、ねむちゃんを信じたいのに)


優しく、静かに寄り添ってくれるねむちゃんとわたしに嘘をつき続けるねむちゃん。かのじょを信じたいという気持ちと、かのじょへの猜疑心がかわりばんこに顔を出す。





(だから、確かめなきゃ。)






かのじょのいえにある、ぬいぐるみ。あそこに書いてある名前を見れば、かのじょが本物かどうか分かるんだ。かのじょが本物の幼馴染だって。こなたちゃんなんていなかったんだって。



(…けど、どうしよう)



もし、かのじょが偽物だったら?わたしはどうすればいいの?もし、かのじょがわたしを騙していたなら?

もし、こなたちゃんを消して、わたしの幼馴染としてとなりにいつづけたのなら?


(…きっと、わたしはかのじょをゆるせない。)


それに、怖い。だって、そんなことしてまでそばに居続けるなんて、きっと、わたしのことをねらっている。わたしもなごみ先輩のように、なってしまう。



どうか、どうかかのじょが本物でありますように。


その祈りを心に、わたしはねむちゃんの家に踏み出した。



『ーーーの最期の思考記録』





わたしは、ずっと気づかなかった。ねむちゃんを信じたいと考えながらも、わたしはずっとねむちゃんのことを疑っていたことに。


分かっていて気づかないふりをしていなかったのかもしれないけれど。


わたしは知っていたはずだ。かのじょは優しい。無愛想だけどわたしのことを守るために頑張っていてくれたはずなんだ。嘘をついても、それはわたしを守るため。わたしは、わたしは、かのじょを、信じなければいけなかった。



あの時のわたしの無用な詮索が、すべてを、こわし、すべての惨劇を招いてしまったのです。



ううん、わたしが産まれてしまったことが、すべての間違いでした。どうか、どうか、わたしを罰して。


かのじょのこころを壊すことしかできなかったわたしを、どうか地獄に突き落としてください。


おそらくあと数話でなにも知らなかった彼女の話は終わります。


読んでいただきありがとうございました。

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