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わたしとかのじょとそのほかと。  作者: アイカ
何も知らない少女の話
6/9

いろは先輩。

久々の更新です。今回で物語はクライマックスに入ります。

「うち、な。なごみのことがほんまに大切やった」


先輩はうつろな目でわたしを公園まで連れてきた後、ポツリポツリと話し始めた。あたりはもう真っ暗。お互いの顔すらもよく見えない。先輩はブランコの上に靴のまま乗っかってわたしのことを少し上から見つめる。


「うちの孤独を癒せるのもなごみだけ。なごみの悲しさをわかるのもうちだけ。結局うちらはお互いがいなくなったらダメだったんよ」




意味がわからない。先輩の言っている意味が。いろは先輩となごみ先輩はとても仲が良かった。それは周知の事実だ。そして、お互いが大切。


(なんで、そんなことをわたしにいうの?)


こんな、お互いの顔が闇に溶け込んでしまいそうな、暗い公園。そこまでわたしを連れて来た理由は?いろは先輩の語りは止まらない。ボサボサの髪の毛を揺らしながら、ブランコを立ちこぎする。


「せやから、うち、なごみが困ってたら助けようと思ってたんよ」



ゆら、ゆら、ゆら。先輩の手が鎖を握る強さは弱々しいのに。ブランコの揺れはどんどん大きくなっていく。



「なごみやって、うちのことわかっとったから、何にも隠さずにいてくれたんや」



そして、そのまま空中に飛び出した。なんなく着地したあと、髪の毛をさっとかきあげてこちらに歩き出す。




「あの日、うちは生徒会に行ってた、あんなどうでもいいことに協力せなかったらなごみは助かってた」



わたしの目と鼻の先まで行ったら、止まってわたしのことを見つめる。先輩の目は赤く色づき始めていた。


「い、いろは先輩…!お、落ち着いて…」


そう語るいろは先輩の声はだんだんと荒々しくなっていく。わたしが聞いているかどうかは、きっと関係ないのだろう。耐えきれなくなって叫べば、先輩のがらんどうな目がわたしを写す。



『片目はえぐり取られていた』


何故だろう。わたしはその現場を見ていないはずなのに。先輩の目にかぶって、えぐり出されたあとの空洞が重なって見える。ボロボロになった黒髪も、くいしばられた唇も。どうして?なんでわたしはこんなに鮮明になごみ先輩の死体をイメージできるの?



「うち、全部わかっとる。あの日、なごみと帰ってたのはつむぎちゃんやったんやろ?」


そんなわたしに追い打ちをかけるように先輩が問い詰めてくる。


「わ、わたし…と、途中で、気を失ってしまって…!」



「うん、警察はあんたを庇ったっちゅう説明をしてきた。






けど、な…






そんなこと絶対にありえない」


風が吹く音が一瞬聞こえなかった。普段のおちゃらけた関西弁を封印して先輩は淡々と告げる。


「なごみが自分の身を呈してあんたをかばうなんてありえないの」


「そ、それじゃ、わたしがなごみ先輩を殺したって言ってるんですかっ?!」


(どうして、わたしはこんなに焦ってるの?)


先輩の突き刺すような言葉が怖い。だって、先輩は妹が亡くなった悲しみで錯乱しているだけ、のはずなのに。怖い。汗が止まらない。どうして?どうして、先輩の言葉はわたしの秘密を暴くような、そんな恐怖を感じるの?


「…だからそう言ってるじゃない。


考えてもみてよ。なんで目を抉られるの?ホムンクルスは基本知能を持たないと言われている。普通に考えれば急所だったらボロボロにされてもまだわかるわ。攻撃的になったとしてもせいぜい引っかき傷をつけるだけでしょう。なんで、目をえぐり出せるものと理解しているの?」


「そ、そんなの…わからないです…ど、どうか、おちついてください!」


先輩が光を失った目でわたしを追及する。なごみ先輩の亡霊がわたしを睨む。後ずさって、後ずさって、わたしの背後には植え込みしかない。先輩のめがもっと赤くなる。綺麗な赤色なんかじゃなくて、どす黒い色になっていく。


「…ねぇ、あなた、気絶したのよね?ただホムンクルスが攻撃性を失わずになごみをいたぶったなら。貴方だって殺される可能性が高いじゃない。それに、なんでなごみだけだったの?どうして、片目をえぐって満足するの?なんで、知能のかけらもない生物が!怨恨も何も、感じない、本能で生きるだけの生物が!!なんでなごみを執拗に攻撃したの?!答えてよ。ねえ!!」


先輩の言葉は八つ当たりのようなもので、それでもわたしのなにかを暴こうとするような、そんな言葉たちだった。


「ねえ、なんであなただけ知らんぷりなの?!答えてよ!!」


先輩はいよいよ限界なのだろう。憤怒の表情で叫んで私の肩を揺さぶり、地面に押し付ける。その背後からぽっかりとした穴で、なごみ先輩はわたしを見透かそうとしている。


「いたっ…!せ、先輩!話を聞いて!」

「あんたのせいだ。どうして私たちが選ばれたの?…魔眼持ちだから?どうしてあのままひっそりと生かしてくれなかったの?」


先輩はブツブツと意味不明なことを言いながらわたしの首に手をかける。そして、力を込めた。

「……っ!ぅ、う……」

ぎりぎり、と首が圧迫されへんなうめき声が漏れる。先輩は全身の体重をかけてわたしの首を折ろうとしている。爪で引っ掻いても、足を動かしても先輩の手は緩まない。苦しい、痛い。苦しい。


意識が、薄れていく。酸欠でも、なんでもないような。何かがわたしのからだをしんしょくしていく。



「ねむのことはしんじるな」




何かに侵食されていく中、やけに冷ややかな声がわたしの中に響いた。わたしの目はもう見えていなかったけれどそれを言った誰かの表情は、こちらを蔑む表情はなぜかわたしの記憶にしっかりと刻み付けられた。







「……あーぁ。わたしも…結局、こうなる運命、か。




…認めないから。私たち姉妹がこんな目にあって、貴女たちが幸せなんて認めないから。










ねむ、貴女の幻想はここで終わるわ」


ただただ、姉妹で幸せに暮らしていきたかった。これがあの化け物を御するための単なる機械装置でも。こんな生ぬるい世界で、愛する妹と優しい時間を過ごす。とても、とても、幸せな日々だった。


それは、彼女にとっても同じ。彼女は幼馴染のかのじょを救おうとしている。私と同じ。きっと、手段も犠牲も厭わずに。私を駒にしたように。なごみを犠牲にしたように。


けれど、やられっぱなしは悔しいから、呪いをかけさせてもらった。あの子がかけたかのじょの目を塞ぐためのベールに少しだけ穴を開けた。そこから見えるのは優しい嘘で塗り固められた甘い砂糖菓子の中に隠された残酷に真実。関わるもの皆不幸になった、開けてはならないパンドラの箱。



だけど、私は信じている。かのじょはきっとそれを開けるでしょう。いえ、もう開けてしまっているのかも。世界に災厄が飛び交って、なおも残るは希望だけ。自分を守ろうとする、その希望を…


私の体はもうボロボロだ。例えここでかのじょを再起不能にしたところで簡単に傷は治ってしまう。あの時殺しきれていれば、なんて考えるけれどもそんなのは不可能だ。殺すこと自体も非常に手がかかるし、もし、王手をかけることができたとしてもきっと彼女からの制止がかかることだろう。

そして、その行動はかのじょの不信を呼ぶ。



「かのじょはきっと壊してしまうでしょうね」

あぁ、傷は痛いけれど笑いは止まらない。呪いあれ、不幸あれ。妹を傷つけたかのじょたちに。




頭がぼんやりしていてうまく回らない。目も完全には開かずまるで夢の中にいるようだ。


(ゆめ、だったのかな)


いろは先輩のことも。なごみ先輩のことも。全部夢だったら良かったのに。


目を開けても視界は暗いままだからきっとわたしはまだ公園にいるのだろうか?なにもわからない。ここは公園なの?どこから夢かもわからないのだ。


再び意識が遠のいていく。いろいろなことを考えなければいけないのに。


ふと、視界に真っ白なものが映る。真っ白な髪の毛に真っ白なワンピースを着た少女がロングヘアの女性を運んでいく。追いかけたいのに。わたしはまた目を閉じてしまう


『ねむのことはしんじるな』


そんな声がまた大きく聞こえたような気がした。

読んでくださりありがとうございました。

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