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わたしとかのじょとそのほかと。  作者: アイカ
何も知らない少女の話
1/9

にちじょう

百合要素があるのでご注意ください。

不定期更新となるとは思いますがよろしくお願いします


チャイムの音が鳴っている。

気だるさと憂鬱さが混ざった妙な気分で目線を前に向けるとスライド式の扉が軋んだ音を立て、壮年の先生がだるそうに教卓へと向かっていき、覇気のない声で授業を始める。


特に変わった事のない普通の学校生活だ。ただ1人の生徒を除いて。

「むにゃ...すう...」

授業開始後約30秒。もはや尊敬すらできるスピードでわたしの隣の席に座る、幼馴染の少女は既に睡魔に負けていた。いや、よく見れば頭の下に枕を敷いている。つまりは初めから寝る気満々だったということだろう。

「ね、ねむちゃん...魔法数学だよ?あの先生、難しい問題に当ててくるよ?」

先生が黒板に向き合った僅かな時間を利用して欲望にすこぶる弱い幼馴染の肩を揺する。

ねむちゃんはぼさぼさで高さの揃ってないツインテールをかすかに揺らすだけで枕から顔を上げることを拒み続ける。

わたしがモタモタしている間に先生はカツカツ、と小気味良い音を立てながら白い文字で黒板を埋めていく。黒板を写しきれなければ泣くのは自分、と分かっていてもシャープペンシルを動かしつつ隣に目を向けることをやめられない。あの先生はやたらとねむちゃんを敵視しているのだ。今回の数式だってわたしには理解なんてできずにただ写すことしかできない。

成績がいいとはいえ宿題にすら手をつけていない彼女がいきなり当てられてしまえば解くのは困難かもしれない。しかも、助けを求められればわたしも無理だ。だからこそ、隣の少女が起きることを祈りながら意味不明な数式を写し、隣の少女に目をやる。

そして、シャープペンシルの音のみが響く教室の静寂を先生の声が切り裂いた。

「おい、...!この問題を解け!!」

先生の独特のダミ声は聞き取りにくい。しかし、周囲の目線、さらには僅かに枕から彼女の赤い目がのぞいているのを見つけ、最悪の予想が当たってしまったことを確信した。

「...はい」

目をこすりながらねむちゃんは黒板へまっすぐに歩いていく。その表情からは微塵も焦りや困惑は見えない。彼女は黒板にたどり着くとわたしが小さい頃憧れていたあの綺麗な髪色と同色のチョークを持って数式を書き足していく。

カツカツ、と一切の淀みなく数式を解く幼馴染。黒板が白に埋められていくにつれて先生の顔に悔しさがにじむ。

それを見ながらほう、と息をついた。彼女がいくら天才とはいえ、うちのクラスでは日常茶飯事とはいえ、あの幼馴染を見ているとひたすらはらはらするのだ。そしてクラスメイトから羨望の眼差しを向けられても反応を見せずねむちゃんは静かに席に着き、また枕に顔を埋めた。



「ね、ねむちゃん〜...授業くらいちゃんと受けよう?」

青空の下、ウインナーを箸でつまみながら自分でも情けないとわかる声をあげてしまう。この困った幼馴染はいつも先生に屈辱を与えるのだ。彼女がいくら勉学の才に恵まれているとはいえ、先生から目をつけられるのは大変だろう。

しかし、ねむちゃんは白い髪を揺らし、つまらなさそうに

「分かるから...大丈夫。」

と言ってまたのろのろとサンドイッチを口にくわえる。

きっとまたのらりくらりとかわされてしまうのだろう。思わず肩を下ろすとねむちゃんは少し目線を下げ、わたしのスカートのポケットからはみ出た便箋をみる。

「...今月、三通目。相変わらずつむぎちゃんは人気だね」

人に興味がないような態度をとりながらのこの観察眼は流石だ。

「女の子からってところが寂しいけどね...」

思わず苦笑いが漏れてしまう。まあ、女子校で男子からラブレターを貰うなんてあり得ないから仕方ないんだけど。

「この前もミスコン、取ってたし...慕われてる」

「そ、そんなことないよ.!」

即座に否定してしまった。だが、本当にわたしは慕われていない。周りの人たちはわたしの見た目しか見ていないのだ。きっと慕われているのはねむちゃんの方だ。頭脳明晰で、しかも普段の態度からは想像もつかないほど運動神経もいい。それに魔力だって学年ダントツトップの天才だ。通常は二年生からしか入れない生徒会の人からも声がかかるほど彼女は優秀なのだ。

どうしてわたしはかのじょではないのだろうか。どうしてかのじょはこんなにも...

「そうなの...」

わたしの羨望と嫉妬の混じった視線には目もくれず彼女はサンドイッチを口に入れる作業を再開した。それにつられてわたしも残り1つの唐揚げを口に入れた。

なぜかよく味がわからなかった。

「あ、あのっ!いろはちゃん!」

ずいっと目の前に差し出されたラブレター。

目の前の背の低い少女はふるふると2つに結んだ茶色い髪の毛とストッキングに覆われた足を震わせていた。

こちらをチラチラと伺う目は長い睫毛に縁取られていて、可愛い子だとは思った。だけど、それだけだ。違う。この子は違う。この子はかのじょとなにもかもちがう!!

「ありがとう。だけどごめんなさい。わたし、まだそういうものに興味がなくて...」

少しバツが悪く、後半は言い訳じみた声色になってしまった。しかし、同級生の少女は無言で首を振って走り去っていく。その後ろ姿を見て、どこかかのじょの髪型に似ていると思った。


「ん〜!!よう来たな〜!ほれぎゅーやで!ねむちゃん!」

「こんにちは...」

女子生徒のラブレター合戦をくぐり抜けて部室のドアを開けるとねむちゃんの胸をわしづかむように抱きつく生徒会長とそれに気にした様子のないねむちゃんがいた。

「こ、こんにちは...って!会長!ねむちゃんに何してるんですか!」

慌てて2人の間に入る。会長はあまりにもスキンシップが多すぎるのだ。わたしだって何度もセクハラまがいのことをされて来た。会長が男だったら通報案件だろう!

「ああ、ごめんな〜!つむぎちゃんもうち、構ったるで!」

どう考えてもエセっぽい関西弁でニヤつきながらこちらを見やる会長。この会長は幼馴染を超える困ったちゃんなのだが、優秀な生徒であるため、先生たちも扱いに困っているらしい。

「ん...いろは先輩。つむぎちゃんは...こういうの向いてないです」

あくび混じりではあるがねむちゃんがわたしをかばってくれる。こういう時どうしようもなく幼馴染が眩しく見えるから不思議だ。

そして諌められたいろは先輩はピンクと紫が混じったような不思議な色合いのロングヘアを揺らしながらイタズラっぽく笑ってこちらを見た。

「えーなあ。まあ、なかえーことはいいことやで〜!」

ニヤニヤと紡がれた言葉にカッと顔が赤くなる。隣のねむちゃんは一切動じずに瞬きを繰り返す。こういう時は幼馴染が憎たらしく見えるから不思議だ。

そのまま机に座り、ねむちゃんは即座に夢の世界へ。すうすうと眠る肩にカーディガンをかけてあげて隣の席に座るといつのまにか目の前に座っていたいろは先輩はにやにや笑いのままじっとこちらを見つめていた。

「あ、あのっ...!こ、こんにちはっ」

しばらく会長を苦々しく見つめていると上ずった声とともにドアが開かれた。

「おー!なごみ!こっちやで〜!」

パッと顔を明るくした会長に促され隣の席になごみ先輩が座る。座る瞬間に黒髪のボブショートがふわりと揺れていい匂いが漂ってきた気がした。

「ご、ごめんなさいっ...、先生に呼び出されていて...」

なごみ先輩は極度の人見知りらしく、始め出会ったころは姉であるいろは先輩を介してでしか会話ができなかった。今では目を泳がせながらではあってもしっかりとお話できるようで、それがなんだかうれしかった。姉とお揃いの薄紫色の瞳は今日は伏せられていて、どこか違和感があった、気がする。なんだか、こんな、めのいろを、なごみせんぱいはしていたっけ...?











「あ、あのっ!だ、大丈夫、ですか...?」

(…あれ?今、私は何を考えていたんだっけ?)

ふと気づけばなごみ先輩が赤い目でじっとこちらを見ている。心配をかけてしまったのだろうか。些細な違和感は飲み込んでなごみ先輩に向き合うことにした。

「ん〜、分かったで!今日はほむんくるすの授業をしたんやろ?」

ああ、そういえば。今日はホムンクルスの授業と魔法数学の授業というどちらかといえば文系の私にとっては辛い教科ばかりだった。

「はい、疲れてるのかもしれません」

そうだ。今日は疲れてしまったのだろう。先程からの違和感の正体に気づくことができて少し気分が落ち着いた気がした。

「うんうん、ちょ〜っとむずかしいんやし、がんばりや〜」

相変わらず胡散臭い笑みと関西弁を振りまくいろは先輩。今みたいな時はすごく助かる明るさだ。

「ほんで?ここがどこかは分かっとるん?ぼーっとしていてええん?」

そんなの決まっている、ここは私が所属する文芸部で...あっ!活動をしなきゃ!






...いや、ちょっと待て。

「活動、春からしてませんよね?」

「ばれたか」

ちぇっと舌打ちをするふりをしたいろは先輩。私はその端正な顔にいつか右ストレートを入れて見せると決心した。






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