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ありえん  作者: 木野晴香
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再生医療

仕事をしているとき、TVを見ているとき、道を歩いているとき、わたしたちはいろんなものに遭遇します。

そしてそれについて強い疑問を持ったり、想像したりすることがありませんか。

わたしは、あります。こうだったら、こうできたら、そう思うことが一日に何度でも。

だけどわたしが望むその結果や行動は、ありえん。


*ありえん=「ありえない」の口語。その4文字はすべての夢や望みを断ち切る破壊力を秘めている。また、否定の意味でなく想像の域を脱した事実について「まさか」の意味の感嘆詞として使われることもある。




~*~*~




『再生医療』

皮膚細胞から色々な組織が作られるようになり、その技術は年々進化し、今では臓器のほか、体の一部も再生できるようになった。

しかし、細胞がいつも必ず思ったとおりに増殖して器官を形成するとは限らない。卵子の発達段階で先天的な違いがでてしまうのと同じで、細胞の増殖の結果は一通りとは限らないのだ。

再生医療はもちろんオーダーメイドとなる。再生することが目的だから、出来上がるパーツは完全でなければならない。しかも、卵細胞や受精卵を使った増殖と違って倫理の問題はなく、元がただの皮膚であるだけにわざわざ失敗作を移植するようなことはありえない。作り直してでも希望にかなったパーツを移植する。


薬物によるドーピングが昔のスポーツ界ではよくあった話だが、いくら薬で能力を引き出しても、もともとの筋肉や神経の性能には限界があり、どこかで「いくらアクセルを踏んでもそれ以上は走れない」という壁にぶつかる。もしもそれをも超えるような薬があれば・・・そのときはその筋肉はぼろぼろになり、二度と使い物にならなくなってしまう。


それならば、根本的な性能を向上させなければならない。

皮膚細胞から大量のパーツを作り、その中で突然変異的に出現したスーパー細胞を増殖させ、体の一部を作る。そして持って生まれた体の一部と交換する。これが近頃のスポーツ界での常識だ。

オリンピックやプロの選手はみな、フランケンシュタインのような継ぎ目だらけの体で超人的能力を見せつけ、観客を魅了する。そして、身体能力の限界に挑戦するかのようなアクロバット的技術の競演が繰り広げられる。なんせ、腕一本折れようが、また移植したらいいのだから。彼らのスポーツドクター達は、常にあらゆるパーツを培養させて変異を待っているので、程々の能力を備えた交換用パーツならばいつでも手に入る。ただくっつけてなじませる日数だけ、競技を休めばいいだけなのだ。


高価な報酬で契約されているドクターの研究室は、その報酬の高額さゆえ、ワガママな花形選手の要望に常に応えられるようにしていなければならない。ただ培養し見守る日々には心労があるわけではないが、ドクターは仕事の悩みを抱えている。

それは、医療ゴミの問題だ。

手術等で出た、切り取られた人間の体の一部は、医療ゴミとして処分される。移植で切除した部分を捨てるだけならば、そう大した量ではないのだが、この再生医療のゴミといったら・・・・。

なんせ「普通のパーツ」は捨てて「突然変異のスーパーボディ」だけを残そうというのだがら、捨てるパーツが使うパーツの何十、いや、少ないものでも何百倍も出てくる。腕のごみ、太腿のゴミ、そういうものが日々廃棄される。美容整形に関わる再生医療機関ならば、鼻のゴミとか、耳のゴミとかももちろん、交換したいと客が思うパーツが一通り。

完成品、それもヒトの体の一部を大量に捨てる医者も複雑な気分だが、回収業者だって一見バラバラ死体の山のような医療ゴミを処理するのにうんざりだ。いくら「再生品」の証明書があっても、人の体の一部分を処理するというのはやはり気持ちのいいことではない。


某大学での再生技術の進化に関する実験がまた成功したというニュースが入ってきた。

今度はヒト1体を完全培養したらしい。

次の時代の課題は、男性の皮膚から女性を作り出すことらしい。染色体レベルのチャレンジになるのでこれは難しそうだ。

「しかし、近い将来、必ず実現できると思います」と大学教授はカメラに向かって胸を張った。

ヒト本体の形をしたゴミが出る日も、そう遠くないというわけだ。

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