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エピローグ_拝啓、アメリア様

永らくお付き合いいただきありがとうございました。『気高き白と、罪と罰』の終わりとともに、次作『女神の箱庭~聖女の面影』への繋がりを描く場面でもあります。我慢我慢の創作でしたが、振り返れば我の強い私の創作はこのくらいがいい塩梅だったのだと思います。

お付き合いくださった皆様方、重ね重ね御礼申し上げます。

【エピローグ】


◇拝啓、アメリア様


拝啓 秋の日に日に深まるこの頃、アメリア様へ


手紙など初めてなので、まずは決まりきった挨拶から書くことにします。

お元気ですか? 俺は変わらず元気でいます。

今は明日の旅立ちを前にこの手紙を書いています。


俺は世界を巡る旅に出ることにしました。

両親に感化させたわけではなく、自分で思い立ったのです。

あの旅を通して経験した未知との出会いが恋しくなってしまったのです。

色々不安も尽きませんが、スミ子と二人、旅立ちます。

見たことのない場所や出会っていない人々、知らない世界を求めて旅立つつもりです。

いつかあなたと再び出会うことがあったなら、そのときにきっと、お話しします。

あなたが知るはずだった世界、あなたが出会うはずだった人々のことを話しましょう。


ユーリイはステラ村に家を建て、薬屋を始めました。

信じられないかもしれませんが、いえ、あの人の仕業と言えばすぐ信じてもらえますね。

そうです、ユーリイは人間の体を取り戻すことができたのです。

浮気心が芽生えたわけでは決してありませんが、その可憐さには驚かされました。

男勝りなところもありますが、今では村の男たちを悩ませる一人の年頃の娘です。

ただ当の本人はまだまだ、動物たちとの暮らしの方が楽しいようです。

そんな彼女が次に会ったときどんな少女になっているのか、今から楽しみです。


イヴは推薦された共和国議長の席を辞退し、船長と港町で船仕事をしています。

娘も生まれ家庭も円満なようです。

大事な一人娘にネージュと名付けたことが先行きの不安を思わせますね。

しかしまぁ、そこは二人を信頼するとしましょう。

何せ時を超えてやってきた古代人と海神の娘との、奇跡の夫婦なのですから。


あの人――ノエルさんについては、残念ながらあなたに話せることはありません。

何となく想像はつくと思いますが、あの戦いが終わってすぐふらりと



 そこまで書いたところでジークムントは筆を止めました。それから溜め息混じりにごく小さく「戦いか……」と漏らしました。

 彼が仲間とともに、この世界のために創造主と戦ったことは世間には知られていません。混乱を避けるために、彼ら自身が口を閉ざしたためでした。だから身の回りに異変を感じることはあってもそれが崩壊の予兆であったことなど衆人には知る由もなく、あれから何事もなく一年が経った今となっては、仮にホウライが滅亡の危機にあったなどと話したところで、信じてくれる者は多くないでしょう。彼らがこの世界を守ったことも、その旅の中で一人の少女が命を散らせたことも、すべての真実はあの日ともに戦った皆の胸の内にだけ刻まれているのです。

 影の英雄――か。

 彼は再び、独りごちていました。勿論自分自身が英雄と讃えられたいわけではありません。世界の未来を紡ぐための尊い犠牲となったアメリアを英雄に仕立て上げたいわけでもありません。ただ大切な仲間を失った先で漸く得られた平和が既に、皆にとってありふれた日常として平然と横たわっていることに時々とても腹が立ち、そこにあるべき一人の少女の姿がないことが悲しくてたまらなくなる。それだけのことです。

「旦那様ぁ。コーヒーをお持ちしましたよぅ」

 扉が開き、現れたお手伝いが言いました。生き生きした彼女と対照的にジークムントは少しだけ表情を渋らせました。村に戻った二人は教会にて式を挙げ、晴れて正式な夫婦となったのですが、年若いジークムントはまだ彼女との夫婦関係に恥じらいを隠せないのです。

「あれ、お仕事中ですか?」

「何でもない。それより旦那様はやめろ。俺にはまだ早い」

「ダメですよぅ。旦那様は世界で一人きりの、スミの旦那様なのですか――」

 言いかけたお手伝いは言葉を切り、窓の向こうを差しました。

「あれは何でしょう?」

 どうした、と尋ねるのと彼がそれに気づくのはまったくの同時でした。

 それは夜の村の上空に突如として現れた、巨大な虹色の輪でした。

「ジークっ! スミちゃんっ!」

 外ではユーリイが二人を呼んでいます。彼はお手伝いを伴って部屋を飛び出しました。

 その手の中で、書きかけの手紙はクシャクシャに握り潰されていました。

「どいてくれ、通してくれ!」

 集まってきた村人たちをかき分け彼らは前へ前へ、虹源を目指します。いつ村に着いたのか、イヴァンたちの姿もあります。そしてどうにか彼らがその最前列に割りこんだ頃でした。

「見て! 光が……」

 旅の仲間が揃うそのときを待っていたかのように――上空の光が静かに弾けました。そして雪の如く舞い降る光とともに、ジークムントたちの前に彼女は降り立ったのです。決して忘れ得ぬ少女が、胸に二人の赤ん坊を抱いて――。

「奇跡だ……」

 彼には、その感動を示すのにそれ以上の言葉を見つけることはできませんでした。それが精一杯でした。奇跡――そう、最高の奇跡だと自分自身に言い聞かせるように繰り返します。この再会はホウライのために戦った自分たちに本物の神様がくれたご褒美だと、きっと皆も思っている気がしていました。

 勿論その一言ですべてを納得してしまおうなどとは思いません。彼女自身のこと、ネージュのことやその赤ん坊たちのこと、早くもジークムントには彼女に聞きたいことがたくさんあります。しかしそれをするのは必ずしも今である必要はありません。これからの日々の中で少しずつ話してもらえばいいのです、そのための時間ならいくらでもあるのですから。

 だから今はただ、彼は優しく笑ってみせます。

 そして「ただいま、皆」とはにかむ彼女にこう言うのです。

「おかえり、アメリア――」



女神の箱庭~気高き白と、罪と罰 了


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