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第三部_世界の頂へ

先日、日本すごーいですね視察団、的な番組を見ました。少し誇張されている部分もないではないですが、ああいう番組で紹介される技術や文化を通して日本人が、自国に肯定感(自信)を持てるようになれば素晴らしいことだと思います。やっぱり大切なのは誇りなのです。

◇世界の頂へ


 南大陸方面は自分の庭も同然だから任せて欲しい――胸を張る船長の下、俺たちの航海はおよそ二ヶ月、危なげなく続いた。

 荒海航海の不安は尽きなかったが、船長は死神に嫌われた者らしからぬ安全な航行で俺たちを運んでくれた。「ダーリンがいるから今回は特別」とのことだった。尤も船長がしたことと言えば、せいぜいが鼻歌をうたっただけで実際のところは、舵がひとりでに動き、船を操っているような状態だった。ありのままを言うのであれば、俺たちは船に運ばれた、と表現した方が正しい。

 意思を宿した不思議な船――。

 ハンプティ号は神の船、と船長は話してくれた。どこの誰がつくったのかも、いつの作なのかも知れない。船長自身もわかっているのはこの船が主の意を組み、自由自在に海原を駆ける魔法の船であるということだけらしい。

「本当に、不思議な船なんだよー」

 と、かく言う船長もまたこの船に負けず劣らずの存在ではある。彼女は十七年前、港に漂着したこの船に乗っていた赤ん坊――両親も他の大人の姿もない船にたった一人残されていた乗員だ。だから人は彼女を、死神を祓う聖なる十字架と呼ぶ一方、船の子とも海神の娘とも呼ぶ。そんな彼女だから、不思議な縁で繋がっている彼女が船長だからこそこの船も真価を発揮することができるということだ。

 ただ航行が荒れるときは大いに荒れるという。船中が台風一過の朝のようにぐちゃぐちゃになり、乗組員が海へと投げ出されることも少なくない。むしろそれが普通だと船員たちからは聞かされた。今回は本当に稀なケースであると何故か残念がる船員たちに反して、イヴがいてくれてよかったと、つくづく思わずにはいられない俺だった。

 兎にも角にも俺たちは南大陸へとやってきた。

 その目指す地はというと、名をホウライ山という。朝か夜か、どうにも判然としない厚い雲ばかりの空模様の中、雲の内まで続く険しい山。俺も今回初めて目にするが、世界一の高さを誇る山だ。そんな場所をどうして目指しているのかというと、船長の曰くホウライ山、雲に隠れたその頂には古来此ノ岸と彼ノ岸とを繋ぐ場所として神聖視されてきた歴史があるからだ。いつしか訪れる者がいなくなり伝統も風化してしまったものの、現世と霊界とが交わる地とされたそこではかつて、愛する者を失った人々が巡礼の末に想い人との再会を果たしていたという。言い換えればそれはつまり、そこに行けばヒガンバナが手に入るということでもある――世界を股に掛ける女船長のそんな見通しを俺は信じた。

 長旅の末に到着した南大陸は、北方育ちの俺たちにとっては厳しい環境だった。元々雨が多い土地とのことで、何をおいても、兎に角蒸し暑い。またその気候帯特有の蔓や羊歯状の植物が上下に左右に無秩序に生い茂っているのや、今にも雨が降り出しそうな真っ黒な空模様――雲のせいで日光も届かず、昼間であるにも拘わらず夜のよう――も相まって目に映るすべてが陰鬱として見える。そういった印象の限りここは、船を降りるにあたって現地の様子を聞かせてくれたアリス船長にこそよく似合っていると言えるだろう。

 陸に上がった後も船長は調整もそっちのけ――元々したことがないらしいが――で船を離れ、案内役を買って出てくれた。土地勘のある先達がいる心強さの一方、帰路に心細さを感じたのは俺だけだろうか? イヴは表情を変えない。スミ子の陽気な鼻歌も健在。ただ俺の手のひらは、蒸し暑い気候のせいではなく、じっとり汗で濡れていた。

 使われなくなって久しい古の道、鬱蒼と茂った森はやがて終わりを告げ、遠目に見えていたそれは、俺たちの前にそしていよいよ、現実として現れた。

 大地が隆起と沈降、褶曲やら堆積やらを繰り返した結果生まれるのを山と言うならば、それは山ではなかった。変わっていった、ではなく現れた、と表現した通り、どことなく人工物を彷彿とさせる。世界一の高さを誇るだけあってやはり険しく、一見するに錆びて赤茶けた鉄壁にも似た岩の「壁」だった。一説にはかつてこの地で隆盛した城塞都市が「金色の魔女」によって岩山に変えられたのがホウライ山であるとも言われている、と船長が話してくれた。

「あれ? 階段がありますよ?」

 圧倒的な存在感を誇るこの壁をどこから、どうやって登ればいいものかと思案する隣で、スミ子が拍子抜けしたような声をあげた。なるほど、お手伝いが指した方を見ると確かに、露出した岩を削ってつくられた階段が目に入る。古代の人々が巡礼者のために整えたか――でなければ本当に遺跡なのか。船長の話もまんざらつくり話というわけではないらしい。

 試しに、その一段に乗ってみた。多少の風化こそ見られるもののつくりはなかなか頑丈。途中で崩れることはなさそうだ。安全であることさえわかれば、長い道のりにはなりそうだが、道のない道を切り開きながら進むよりはマシに違いない。問題は頂上まで続いているかだが――まぁ、そればかりは進んでみるより仕方ない。俺は迷わず先陣を切った。


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