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もう一つのプロローグ_明かされた秘密

魔女アメリアの過去部分です。姉のユーリイと四歳離れているのは、別の作品との兼ね合いです。『23時の亡霊』にていずれお伝えしたいと思います。

◆一番はじめにあった物語~明かされた秘密


 代わり映えのない様子を見せつけられ皆はあっさり引き下がりましたが、一人だけ、アメリアに対する疑念を失わない者がいました。姉のユーリイです。彼女は気づいていたのです。アメリアに起きた変化は教会で過ごす時間が増えただけではなかったことに。

 ユーリイだけが気づいた変化、それはずばり、これまで日に何度も繰り返されてきた「どうしてわたしは神子様なのかしら?」という疑問をアメリアが口にしなくなったことでした。

 ユーリイ以外の者がそれに気づくことはほぼ不可能でした。アメリアは両親と星読みの爺の前でそれぞれ一度ずつ尋ねたきりで、あとはユーリイ相手にしかそれを口にしなかったのです。それは事情を知っていながら教えてくれない大人たちに対する失望であり、そしてアメリアからの姉に対する信頼の証でもありました。アメリアが全幅の信頼を寄せる彼女以外には両親でさえ、その変化には気づき得なかったのです。

 ユーリイも最初は他の村人たちと同じく「好きな人ができたのかもしれない」程度にしか考えてはいませんでした。妹の性格――その猪突猛進な好奇心を奪うにはそれを上回る新しい興味対象が必要であること――はよくわかっていたので、アメリアはそれを恋に見出したのだと思ったのです。しかし狭い村の中、自分の耳には想い人の噂など入ってはこず、後をつけてみても妹がしていることといえば教会に行くだけ。彼女が、妹の新しい興味対象が『全知全能の書』であると気づくまでに長い時間は必要ありませんでした。

 ユーリイは件の書物に対して人とは違った立場を採っていました。落書き帳とバカにすることも暗号文書などと重要視することもしない代わりに危険物と見ていたのです。それも、その根拠を問われたならきっと誰一人納得させることのできない理由からでした。まるで仇敵と再会したかのように、初めてそれを目にしたときからユーリイは、本能的にその書物に嫌悪感を抱いていたのです。

 何とかして妹をあの本から遠ざけなければならない。

 それはユーリイが大至急取りかからなければならない課題でした。しかしその課題を解決するにあたり、彼女にはもう一つ大きな課題がありました。ユーリイは直感や感情の赴くまま行動することが多いので――その結果周囲をトラブルに巻きこんでばかりいるのです――他人を説得することが大の苦手なのです。誰しもそうですが、「駄目といったら駄目」と一方的に言われて納得してくれる相手などいないのです。

 ユーリイは決心しました。アメリアが全知全能の書に近づく理由は一つしか考えられません。なれば、そこから妹を遠ざける方法も一つきりしかありません。アメリアが一番気にしている疑問を取り除いてしまえばいいだけのことなのですから。

 たとえそれが、妹を傷つけることになったとしても。


「教会に行くのはやっぱり、自分のことを知りたいから?」

 客足の途絶えた頃を見計らってユーリイは妹に問いかけました。アメリアは何も答えません。図星だと思ったユーリイは質問を改めました。

「アミはあたしのコト、どう思ってる?」

「そうね……世界一のお姉ちゃん、かしら」

 少し間を置いてからアメリアも答えます。

「ありがと。あたしもアミを世界一の妹だと思ってる。世界一かわいくて、優しくて、賢い自慢の妹。だからねアミ、今からあたしが言うことをしっかり聞いて、その事実を受け止めて欲しいんだ」

 その話をすることは、事実を知っている者には固く禁じられていることでした。それは大人たちが知恵を絞って定めた村の掟を悉く破ってきた彼女が唯一守っていた決まりでもありました。勝手なことをして大人たちはさぞかし怒ることでしょう。しかし神子様神子様とこれまで散々に特別扱いしておきながら、今更それはありません。不安そうに頷く妹にユーリイは、今まで隠し続けてきたアメリアの過去を話し始めるのでした。


   ○


 十二年前、季節は秋の頃でした。当時四歳だったユーリイは誰かに呼ばれた気がして、夜中に目を覚ましました。果たして目を開けると枕元に一人の女性の姿がありました。美しい黄金の髪をなびかせ、闇の中でもはっきりその輪郭がわかる真っ黒なドレスに身を包んだ、女の子とも女の人ともとれる妙齢の女性でした。

 まったく見も知らぬ相手でしたが、ユーリイは不思議と恐怖は感じませんでした。その女性は温かな笑みを浮かべていましたし、それにどことなく懐かしい感覚がしたのです。行きましょう、と差し出された手をユーリイは自然と握り返し、相手に連れられるまま外に出たのです。

 虫の声もない、風もない、時の止まったような夜でした。

 教会の前に来たとき「もうじき来る」と彼女は足を止めました。

「何が来るの?」

「アメリア」

 間もなく村の上空に巨大な虹色の輪が現れました。きれい、と呟くユーリイの視線の先でそれは水面を漂う月のようにゆらゆらと揺れながら、幻想的な光の雨を降らせ始めます。柔らかく温かく、綿のような、春萌の香る光の雨です。村全体がやがてはそこから広がった輝きに包まれていきました。

「これがアメリア?」

 女性は首を横に振りました。

 静かな夜の異変に目覚めた村人たちが次々と外に出てきます。はしゃぐ人々に混ざりたい気持ちを抑えてユーリイは動かずにその場に立ち続けました。まだ手を握ったまま、不思議な女性の隣で。

 不意に彼女の、ユーリイと繋がっていない方の手がすっと虹輪の中心を指しました。ユーリイが注目すると一際大きな光のまとまりがちょうど、ゆっくり自分たちに向かって降りてくるところでした。隣の女性の手を振りほどいて受け止め、それがただの光ではなく、両手で支えなければならないだけの重みを持っていることをユーリイは知りました。

 ユーリイに気づいた村人たちが集まってきます。皆はユーリイを見るなり口々に「奇跡だ」と歓喜の声をあげました。

 その中に自分をここまで導いてくれた女性の姿はありません。

 戸惑いながらもユーリイは、受け止めた一つの光を大切に抱えます。その小さな胸に、光の翼を持った赤ん坊を。


   ○


 アメリアは話が終わると何も言わずに店を出ていってしまいました。その瞳に涙が浮かんでいたことをユーリイは見逃しませんでした。彼女にはこうなることはわかっていました。いかに欲していた真実とはいえ自分がこの家の本当の娘ではないと告白されたことを喜べる人間では、アメリアはありません。それは答えを求める妹にとって大きな痛みを伴う真実だったのです。

 それから一週間アメリアは部屋に閉じこもり、誰とも会おうとしませんでした。その間を妹が何を考えて過ごしたのかをユーリイは知りません。ただその沈黙の期間を経て次に顔を合わせたアメリアに「ありがとう」と言われたことから何とはない想像を巡らせるのです。

 辛い現実を乗り越え再び笑顔になった妹にユーリイはこれまで以上の愛情を注ぎました。アメリアもそれに応え二人はこれ以上に美しい姉妹として幸せを手に入れたのです。

 幸せな二人はまだ知りません。

 そこでこの物語を終えることをよしとしない者が既に動き出していることを。


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