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第二部_終焉のエウノミア

◆終焉のエウノミア


 魔女対もう一人の魔女の戦いは、我らが魔女の辛勝にて幕を閉じた。

 戦いの中で垣間見た魔女のどことなく心苦しそうな様子を俺は気の毒に思い、一方で楽しげに戦っていた彼女に恐怖を抱いた。彼女が背負っているものを俺は知らない。今戦ったもう一人の魔女のことも、彼女が何を考えてその者と拳を交えていたのかも、俺は何一つ知らない。だが今となってはもう聞く必要もない。魔女は道を拓いてくれた。あとは俺が、自分の為すべきことを為すばかりとなったのだ。

「出てこい」

 怒りをこめた俺の声が、他人のもののように玉座の間に響く。

 王は――玉座の背後から、間もなく現れた。だが再び姿を見せた彼女からは、先程までの威厳も余裕も、爪の先ほども感じることはできない。水晶を用いた今の術こそが彼女の必勝法だったのだろう。彼女は敗北を悟ったのだ。

 ヴェールを取り、ほとんどふらつくようにして歩み寄ってきた彼女の、そこで明かされた正体を俺は、少し意外に感じた。王とはまだ、俺たちと大して年の変わらない少女だったのだ。

「許してください! 私は命令されてやっていただけなんです!」

 彼女は俺の前にひざまずく。

「……命令?」

 命乞いをする少女に俺は、事情を尋ねた。

 それはまた、現代エウノミア専制の仕組みを知ることでもあった。

 俺たちの学んだ歴史上、エウノミアは現在の治世で三代目に至る。創世神の娘女神エウノミア自らが王となり統治を行った神代、女神が人界を去り、彼女の信任を得た人間による統治が行われた古代、そして隣国の侵略を受け滅亡して以降に再興した現代の三代である。現代エウノミア――古代王国が滅び、やがて新しく興った今の王国には旧王家の血を引く者がいなかった。そこで執政官らが遠方の村から人身売買で得た年若い乙女を王として君臨させた――それというのが何世代にも亘って繰り返されてきた王国の影の歴史。彼女もまたそうして王となった者の一人に過ぎなかったのだ。

 王となった者には代々、今彼女が手にしている水晶玉が受け継がれてきた。この宝玉は人界を去った女神からの最後の贈り物と言われており、例えば今し方、俺たちを滅ぼすべく幻影を呼び出したように、彼女が望めばそれを叶えるための術を授けてくれた。だが持ち主に都合いいようにばかり働くわけではない、ときには水晶自身が呼びかけてくることもあったという――秩序を維持せよ、管理せよ、機能せぬ不良品など取り払えと。

「今までのことも、水晶が頭の中に指示を出してきて、仕方なくやっていたんです! 従わないと全身が激しい痛みに見舞われて……本当です! ちゃんと償いもします! だからどうか、命だけは助けてください!」

 涙ながらに訴えられたところで、俺には彼女を許すことはできなかった。話の真偽の問題ではなく彼女自身の、王としての落とし前の話なのだ、これは。ここで見逃してはこの戦いの中で命を落とした者たちに申し訳が立たない。また彼女が引き継いできた厳罰主義に命を奪われた者や山送りされた人々が戻ってくるわけでもない。失われたものはもう、二度とは戻らない。だからこそ彼女には責任がある。自分の痛みを覚悟してでも歯止めをかけなければならないことがあった。それを我が身かわいさに彼女は放棄した。国民より自分を優先し、保身に走った彼女に罪がまったくないわけではない。王はやはり、生きていてはならない。

 しかし、この少女にいったいどのような権利があっただろうか。

 王という道化を演じるためだけに金で調達された、憐れな奴隷の彼女に――。

 俺は考えるのをやめた。考えるのをやめ、無心になって剣を振り下ろす。そうすることによって少女の手の上で静かな光を放つ水晶を砕いたのだった。

 彼女を許しても失われたものは戻らない。彼女を斬っても失われたものは戻らない。だとしたら俺にできることはこれ以上の犠牲を出さないこと、彼女を王国に踊らされた被害者の一人であると認め解き放つことだ。そうとも、この水晶の存在が王を王たらしめているというのなら、それを壊すことは王を斬ることと同義のはずなのだ。

「王は、たった今死んだ」

「……」

「ここで言った自分の言葉を忘れるなよ」

 力を失いただの一村娘に戻った少女、放心する彼女にできるだけ優しい声で俺は言ってやる。この革命におけるそもそもの目的は王政を打倒し、自由を取り戻すことにある。それはイコール王の命を奪うことではない。彼女がここでの行いを悔い罪を償うために生きるというなら、俺はそれでもいいと思う。

「は、はい! あ――」

 純朴な笑顔に涙が光る。続く少女の言葉は「ありがとう」だ。

 しかしこの場に居合わせた誰もその言葉を耳にすることはなかった。一筋の光が駆け抜け、彼女の体はゆっくり、仰向けに倒れゆく。穿たれた胸から新たな血だまりが生まれている。彼女はもう二度と、目を開けたり物を言うことはないだろう。

 どうして。

 これは――不要な死だ。

 俺は背後を向く。

 無抵抗な彼女を撃った魔女を見た。


王との戦いに勝利したジークムントは、王を許すことを選びます。

私個人の主義としては、許さないと決めたものは決して許しません。この場面はだから、私の主義主張と相容れないシーンになりました。

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