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「本日を以て、第二手芸部は『廃部』にさせていただきます――」
一月の中旬。
登場パターンを変えて、静かに入ってきた護流が、部員全員と心愛が座るテーブルのあいだに立ち、抑揚のない声で通告した。
護流は凛とした顔つきで、四人を見渡す。そのあと深くため息を吐いた。
「ここで負けちゃあ、いつもと同じ。わかってるな、淡瀬護流。あなたは生徒会長。皆のよき手本でなくちゃあ、いけない。私は生徒会長。うん、自信を持っていいはずだ」
口元だけ動かして、よし、と最後に気合を入れた。
そして、改めて言う。
「本日を以て、第二手芸部を『廃部』にします。いいな」
今度は断言した。
護流の覚悟と決心のある宣告。だが、それは虚空の渦に消えていく。
「断然、スパッツのほうがましよ!」
「いいや、ブルマだね」
「ブルマって、あれでしょ! 要はいまじゃ、コスプレ用とかグラドルの写真集でしか見ないってきくわ! それはつまりかくすためのアイテムとしては、落第点よ!」
ふんぞり返る心一とじりじり訴えかけているイヴが、テーブルを挟んでいがみ合う。
「ふふふ、イヴ。甘いな、はちみつより考えが甘い。いや、硬い! これを見よ!」
「はい、心一さん、用意はできていますわ」
「な、なにをする気よ! 緩までつかって!」
意気揚々ととなりに腰かけていた緩は、イスにゆったりとした足取りで上った。
「これを見れば、イヴだってわかるはずだ! 格の違いってやつを!」
「こ、これは…………っ!」
イスの上に立った緩のひらひら揺れるスカートを、心一はなんのためらいもなく、全体に行き渡るように両手でまくった。
あらわになる緩の一枚の布しか身につけていない下半身。
スカートは重力に逆らわずに、花びらが踊るかのように宙を舞う。
しかし、意味がわからなかった。イヴの視界に入るものは、一枚の白い下着。緩が清い心を保つために選んでいる、白い至ってシンプルなパンツ。ただそれだけだ。
「なによ、びっくりしたじゃない。てっきりわたしに魅力をつたえるために、ブルマでも穿かせているのかと……」
「ほほう。どうやら、イヴはまんまと罠にかかったようだ。さすが、ぼくの白き天使、緩ちゃんの美貌だね」
「パンツを隠すなら、パンツの中ってところでしょうか。じつに理に適っていますわ」
意味有り気に会話をする心一と緩。
イヴは、それを怪訝そうに窺う。なんのことを言っているのか、皆目見当もつかないようだ。
「よくわからないけど、わたしもスパッツの利便性や機能性、見栄えやブルマのような露出される肌を最低限に抑えて、いつでも女性の味方である理由を明確に、心一にもわかりやすく説明してあげるわ!」
えらく自信満々に告げると、イヴのとなりで物音一つ立てず、静聴していた心愛の姿が忽然と消えていた。
不思議に感じ、心一がテーブル下を覗くとあっさり心愛を発見。
「お、おにいさま、少々おまちくださいませ。このような衣服は、ココなれていないもので手こずっているのです」
「よいよい。そのまま続けるがいい。おにいさまが見守っていてあげるからさ」
「ごめんなさいです。すぐに終わりますから。それにしても、このすぱっつというもの、密着ぐあいがすごくて、すこしむずむずします」
制服のまま床に座りこんで、スパッツと試行錯誤している。
なんとも愛らしい光景ではあるが、心一はずっと一点を集中して、凝視していた。
「こどもと言えば、スリップだ! なんでかって、『ぽさ』が出るからさ。ただのスカートから覗くパンツもいいが、スリップがあることで、パンツが見えたときの歓喜が二乗される! まさにそこから現れた花柄のパンツはなんとも輝かしい布地と言えよう」
「なにガン見しながら、語ってんのよ! このスーパーシスロリコンが!」
「ごふっ」
テーブル下に顔をやっていたものだから、イヴの振りあげた足蹴りが、モロに心一の顎にクリティカルヒット!
攻撃が二乗して、テーブルにも頭をぶつける。
「いてて、心配しなくても、心愛を観察していた傍らイヴのパンツもチェックしていたから。それにしてもローレグとは、ずいぶん大胆に攻めたね」
「~~~~っ!? き、今日だけは見逃してあげるわ。感謝しなさいよね。さて、心愛ちゃんの準備が整ったところで心一。覚悟しなさいよね。必ず絶句させてやるんだから!」
イヴは、こみあげてきた怒りをこらえる。
同時にやってきていた紅潮する頬もどうにか、ひた隠す。あるいはごまかしたいがために大声を張りあげて、心一に指を突きつけた。
「ココ、せいいっぱいおてつだいします!」
緩と同じようにイスの上に立って、心愛は可愛らしく両手でこぶしを作る。