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「失礼、するですよ」


 イヴよりも幼いソプラノ声。

 ドアを開け、よそよそしく覗かせた黒いベレー帽。ぴょこっと、出てくるクリっとしたお目々。

 使いこまれている桃色のランドセルにかかったセミロングの黒髪。だが、毛先だけは目立たない程度の赤毛。


「心一の様子を見にきたの?」

「はい。それで、おにいさまは……」


 ワンピース型のキュートな制服。真っ白の生地には、襟とスカートの裾の縁に沿って流れていく、黒いライン。

 見分けを意識したデザインとして、襟に下げた黒の紐リボンと、腰に巻かれた細いベルトのような装飾品。

 この制服は、ここより多少離れたところにある小学校のだ。制服のある小学校は、近所をさがしてもそこしかなく、けっこう人気を博しているとのこと。


「心一なら、心愛ここあちゃんの足下で、気絶してるわ。……まあ原因、わたしなんだけど……」


 罪悪感からかイヴは、視線をそらして言った。


「ふぇ? あ、おにいさま! どうなされたのですか!」


 境心愛――心一の実の妹。小学五年生であるが、兄の心一を慕う純粋で幼い無垢な妹。

 心愛は、急いでその場でしゃがみこみ、悲しげなまなざしで、心一の顔を覗きこんだ。

 すると心一は意識を取り戻したようで、ここで息絶えるような声で、


「おにいさま……うっ……あ、ああ……おう、我が妹よ。心配するな、いつものことだから」

「ココに、ココになにかできることはないのですか。おにいさまのためなら、ココ、なんでもするですよ」

「そうだな……心愛の、妹パンツが、見たいな」


 心一がそう呟くと、汚物でも見下すような目つきをした護流と、となりにいつの間にか、イヴまでスタンバイしていた。


「あなたは、なにを言っているのかな。しかし、小学生の妹に」

「もしかしてまだおしおきが足りなかったのかしらね」


 怒髪衝天とも言えるだろう、さっきとは比にならないくらいのオーラをビンビンに感じ取れた。

 純真無垢な心愛を、毒牙から守ろうとする意志が垣間見える。

 そんな二人の意志を知ってか知らずか。心愛はおもむろに、仰向けに倒れている心一に跨り、スカートの裾に手をかけた。


「おにいさまがココのぱんつでげんきが出るのでしたら、いくらでも見てください……っ!」


 清純な白いスカートを自らまくりあげて、心一に無地のお子さまパンツを晒す。


「お、おお……こ、これは――」


 心一が感嘆する。

 心愛のパンツは、神々しいまでの驚きの白さを放っていた。そこにエロや性欲をかきたてるものはない。そこにあるのは、清廉潔白を表す真っ白な布地。


「やはり心愛には白いパンツが似合っている。刺繍もなにも入っていない質素なパンツが。ぼくの目に狂いはない!」


 心一は瞬時に立ち上がって、天を衝いた。


「げんき出ましたか?」

「ああ、兄ちゃんはもう大丈夫だ。安心しろ」

「よかったです。やっぱりおにいさまは、ぱんつのかみさまですね」


 そんな傍らで、護流とイヴは同時に「やっぱりダメか」と、嘆息した。


「私たちじゃ、心愛ちゃんの兄に対する信頼という感情を翻すわけにもいかないの、かな。かといって、このまま放置すると将来きっと心愛ちゃんは、兄である境心一を拒絶してしまう可能性が高まってしまっているのは、間違いないと思えるんだ」

「はたして、一概にそう言えるでしょうか」

「緩、あんたいままでよく静かにしていられたわね。なにしてたのよ」

「わたくしですか? 静観しつつ、ココアを飲んでいましたわ」

「ココをですか! ココは、飲めませんよ」

「ふふ、ココさんも甘い味がしそうですね。試しに飲んでみましょう」


 心愛は、「ココア」というワードを聞くと、過剰に反応するみたいだ。

 それを面白半分か悪ノリで、普段温厚にしている緩でさえ、嗜虐心が芽生えたのか。緩の表情は恍惚している。


「こらこら、大和さんらしくもない。それよりも、さっきの続きを聞かせて」


 おふざけの時間を設けるほど、護流も暇はすでに少ない。心愛を助けるつもりで言った、舟ではなかったが、心愛的には好感だったようで、小声で「かっこいいです……」と護流に、尊敬のまなざしを送っていた。


「わたくし、根拠はありませんがそんな気がするんですわ。心愛ちゃんと心一さんの兄妹の絆は、わたくしたちの結束とは比べものにならないくらいの、強さを持っていますわ」

「そういう大和さんも、心愛ちゃんに負けないくらいの信頼を、境心一に置いている気がするけど」

「そうかもしれませんね。でもそう思わせてくれるくらいの、魅力を心一さんは持っています。きっと心愛ちゃんも気づいていますよ。兄に向ける信頼とは違ったべつの『魅力』に。だから大丈夫です。心愛ちゃんは、この先絶対、心一さんを拒絶したり、自分に絶望したりなどしません」


『絶対』という言葉を使い、迷いのない主張を言い切る緩。彼女は、根本がしっかりしている。しかし、対して護流は迷いを持って、吐露した。


「私にはなにひとつわからない。あんな、変態のパンツ信仰者の魅力なんて」

「それでいいんだと思いますわ。パンツが好きすぎな変態さん。これだけで、心一さんを理解できているとわたくしは、思っていますよ」

「なるほど……。少し腑に落ちないけど、この場だけはよしとしておきます。あと境心一が起きたところで、部に関してだけど――」

「きゃ!」

「ひゃっ、なに、なんですの!?」


 護流がそこまで言ったところで、緩と心愛から艶っぽい声が聞こえた。


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