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物悲しく嘆いていた心一さんが、わたくしを心配くれます。
「な、なにがですか? わたくしなにかおかなところ……」
「おかしいもなにも顔赤いわよ。具合がよくないなら帰ったほうが……」
イヴさんに言われるがまま頬を手で覆いますと、淹れたてのココア――は言いすぎでしょうか。コップを触ったみたいな温かさを感じた。それとも、手が元から温かっただけなのかもしれません。
「――違いますわ」
これは発熱ではありません。たしかな心のぽかぽかを胸に覚えていますもの。
「お二人の会話は何度お聞きしても阿吽の呼吸と言いますか、まるで『夫婦』のような、聞いていてとても安心できます。なぜか、わからないのですが」
わたくしの言葉を聞いて、イヴさんは安堵したお顔を見せます。
「だってさ、イヴ! 緩ちゃん公認の夫婦になれたよ、ぼくたち!」
「ちょっとは空気読みなさいよ! まるで、がついてるでしょうが!」
「夫婦ならスカートめくってもOK! やったね、イヴちゃん!」
「……ぎゃあああああああ!」
勢いよくまくり上がったスカートの、ひと呼吸置いてイヴさんは聖歌隊に入れそうな肺活量で叫んだのです。
魅力をご教授され、わたくしは気づきました。
パンツは知識がありますとじつに素晴らしい光景なのだと。
わたくしと同色の真っ白なパンツ。しかし、イヴさんのはしっかり腰やお尻を包んである色気に特化しない、女性に優しい味方のパンツを着用されていました。
「……八十三点」
硬い表情の心一さんが呟きます。
「なんの点数ですの?」
「パンツの点数だよ。色、素材、デザイン、身の丈にきちんと沿っているかの四点。ちなみに――」
そう言って心一さんは、わたくしのスカート裾を持って豪快にめくり上げました。
「緩ちゃんは七十九点ってところかな。緩ちゃんはもう少し落ち着いたデザインをぼくはオススメするよ」
「負けましたわ」
「わたしはあんまうれしくないんだけど……」
苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるイヴさんをよそに心一さんは突然、戸の前で両手を前にだし、かまえのようなものを取ったのです。
お尋ねしようとしますと「静かに」と制され、待ってみること十秒。
「境心一。今日付けで新人が入ったことで質問が――」
ドアを開けたのは、一本に束ねた腰まで流れた黒髪が凛々しい女性でした。
「緩ちゃん、こくとご覧になっておいたほうがいい。これこそが我らが求めている理想郷の具現化されたパンツだあああ!」
心一さんに言われるがまま、黒髪美人さんを見ました。すると心一さんは、王様に献上するかのごとく動きで、黒髪美人さんのスカートをめくったのです。
わたくしは本日何度、心一さんのスカートめくりを拝見したでしょう。どれも物の見事な動作で、まるで心一さんの手が自らの意思を持っているような、そんな錯覚さえ感じさせられます。
「シンプル・イズ・ザ・ベスト――そう。スーパーの安売りコーナーで買ったような庶民の無地パンツ。だが、それがぼくらには最高の嗜好品! なおかつ護流ちゃんのようなきゃわいい女の子が穿くことで相乗効果が生まれ、それがギャップとなる! よって――文句なしの満点評価だあああ!」
「なるほど……、さすが心一さんのこだわりはすごいですわ。わたくしもこの方を見習い精進いたしますわ」
めくられたスカートに力を入れて押さえこんだ黒髪美人さんをわたくしは、羨望の眼差しを向けます。
「境心一……いきなりなにを」
「パンツの魅力を伝えるためには、護流ちゃんのパンツが一番かなって」
心一さんの答えに困惑の表情を浮かべる黒髪美人に、イスに腰かけているイヴさんが続いて問いかけていきます。
「次期生徒会長さまだけあって、見えないところもお手本どおりってわけかしら?」
「べつにそこまで手本にするつもりはないんだが」
「生徒会の方なのですか?」
「そうよ。淡瀬護流。現副生徒会長で来期の選挙で当選は確実ね」
さらりと答えてくれたイヴさん。
当然、心一さんもご存じのはずです。それでも尚、友達のようにかしこまらずに話しておられた。権威や権力にも屈しない心一さん。
なんてすごい殿方と接触してしまったのでしょう。わたくし、尊敬できる『オトコ』――見つけられました、お父さま。
「護流ちゃん。ぼくと、結婚しよう」
「え、え、え、ど、どうしてそうなる! どうせからかってるんだろ。寝言は寝てから言ってくれ」
藪から棒な行動で、心一さんが護流さんの手を握り、プロポースしました。
「冗談じゃないよ。ぼくはまじめに護流ちゃんと共同生活がしたい」
「ふん。こ、断る。私とあなたはそういう関係じゃないからな」
フラれた心一さんはしょんぼりし、「そっか……」と手を離します。潔いのですね、心一さんは。
そのまま、なんと次はわたくしの手を取り、
「じゃあ、緩ちゃん。ぼくと結婚してください」
人生初の告白は恋人を通り越して、夫婦の契りを申しこまれました。しかし、嬉しさは湧きませんでした。わたくしがまだ、子供で未熟な証拠なのでしょう。
なので、
「お断りしますわ」
わたくしがそう一言で済ましますと、心一さんは「そっか」と少々残念そうに視線をはずしました。
「ざんねんだったわね、心一。それじゃあ、まあ、そういうことは順番的に次は――」
「さぁて、そろそろ心愛が来るころかなぁ」
「わたしにもプロポーズしなさいよ!」
「してほしいの?」
「べ、べつにぜったいってわけじゃ……。わたしはただ心一が玉砕ばかりじゃかわいそうかなって思っただけで。それだけよ!」
「そうツンツンしないで素直になればいいのに~」
「なんでそうなるのよ! わたしはべつにツンデレじゃないし! 全部本心だし!」
和気あいあいとする心一さんとイヴさん。
それを傍目に護流さんが近寄ってきました。
「そんなことより大和さん、あなた正気ですか?」
護流さんはわたくしに今朝、提出しました第二手芸部の入部申請届を差しだしました。
「問題ございません。わたくし、この部に入りますわ」
「なぜか、訊いてもいいか」
「なぜ、ですか。理由はとくにありません。ですが、今からほかの部に赴いても、わたくしは同じような気持ちになれる気はしません。だってもう、わたくしの意思とは関係なしにこの部の魅力に取り憑かれた気がしますから――納得できませんか?」
「大和さんがそう言うなら、私から止めはできない。が、もし不快に思われたならすぐに私に相談してくれ。境心一のことはどうかしてやる」
「ありがとうございます。大丈夫ですわ、きっと」
一生の経験や思い出や出会いも全部、かっさらわれましたから。
わたくしは、信頼しています。
皆さんを――。
緩語りはかなり難しかった。お嬢さまで世間知らずな設定なので、尚更気をつけて書きましたが、どうでしょうか。
友城にい




