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心一さんはあぐらをかいて、親指、人差し指、中指を立てました。なんかかっこいいですわ。
「さっそくだけど緩ちゃん。パンツにはね、と~っても大事な三原則があるんだ」
「正しくパンツ三原則ですね」
「そう、パンツ三原則。まず一つ目は、『パンツに難儀であれ』」
「軽く考えてはならない、そういうことですわね」
「パンツは生き物だ。決して、ただの布じゃない。敬意を払うべき存在なんだ」
「パンツとは奥が深いものなのですね。勉強になりますわ」
わたくしの目は心一さんに釘づけになっています。
それに伴い、心一さんにあわせるように自然と、誘導されたわけでもないのに床に体勢を崩していました。
はしたないと思いつつも、礼儀や姿勢よりも真剣になりたい――そんな感情がわたくしを支配していました。
「緩ちゃんもパンツを侮るなかれ。パンツは人の踏み台じゃない。ともに生きる友でありなさい。もし粗末に扱うと……」
「どうなりますの……?」
食い入ってしまったわたくしに心一さんは、眉毛を動かすことなく、
「続いて、二つ目は『パンツは下着であって、下着じゃない』」
「?」
答えを得られないまま、心一さんは第二項目も移られます。どういうことなのでしょう。わたくしは疑問を持ちだしてついていきました。
「ぼくの言うパンツ――女性用下着というのは、どうもこうも値段が張らないものでもデリケートな素材でできているのが多い。これも全部、女性を――主人を全力で奉仕するため。しっかし! 奉仕を生かすも殺すもまた主人。だが、勘違いをしてはいけない。主人はパンツを選べないがパンツは主人を選んでいる、ということを」
胸を打たれます。
わたくしたちはパンツに選ばれてここに安心して生きていますのね。
「感動しました……わかりましたわ、心一さん。もし粗末にパンツを扱ってしまうと、『パンツから逃げられてしまう』のですね」
「よくぞ答えにたどりついたね、緩ちゃん。だけどパンツは緩ちゃんから逃げたりしない。なにがあってもパンツは緩ちゃんの味方であり続ける。パンツは穿くものじゃない、穿いてもらうものだから。だからこそ愛し愛され、パンツに好かれる人間になりなさい」
「心一さん……。はい。わたくしパンツに手荒なまねは絶対しませんわ」
「それは違う――」
突如、心一さんに否定されます。
そして、膝立ちでわたくしの肩を掴みました。心一さんのまっすぐな目。愛なるものがこぼすことなく、注がれます。
「それは違うよ、緩ちゃん。確固たる誓いはたしかに信頼を生む。だけど、相応のリスクを背負うのはだめだよ。どんなに敬愛しようと絶対など誓ってはいけない。絶対という言葉は人を縛ってしまうからね」
またしてもわたくしは心一さんの言葉に感銘を受けてしまいました。
「制約を設けてしまうと、好きじゃなく、『強制』にしまいますものね。今後、気をつけますわ」
胸元に手を置いて、忘れないよう黙読で繰り返しました。
「三原則の最後の三つ目は、『パンツが好きな人に悪い人はいない』」
「じゃあ、世にはばかっている下着ドロボーは? 立派に悪い人じゃないの?」
お戻りになったイヴさんが、疑問を呈します。風に当たってきたのでしょうか。
「おや、イヴ。どこにでかけてたの?」
「お花を摘みに行っただけよ」
「お花? ああ、隠語か。前? 後ろ?」
お手洗いだったのですか。それにしても、前というはなんのことなのでしょうか。
「どっちでも関係ないし、わざわざ報告するかっての。いいからさっきの続けたら」
「イヴのお通じ事情を把握してこそ、パンツにつながるんだけどなぁ」
「ホント見境がないわね、あんた……」
「えへへ、照れますなぁ。えっと、便秘の話だっけ? ダメだよ、我慢せず食べないと」
「そんなこと一言も言ってないわ。下着ドロボーは悪い人でしょ、って聞いたのよ」
イヴさんの仲睦ましく会話を弾ませる心一さん。新米のわたくしも日々を積み重ねますと、あのように心一さんとお話ができますでしょうか。精進あるのみですね。
「本当、困るよね。パンツが好きというだけで悪者扱いされる身は。大概ああいう輩は、底から愛しているのが全般で――どうしたの、緩ちゃん?」
ここらへんはかなり悩んでしまいました。どうしてか、わからないけど。かなり書き直した。
次回は、5月24日。遅めになります。
友城にい