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パンツマン~境心一は今日も、パンツを信仰しています~  作者: 友城にい
第三話 すぐにパンツを見せちゃう。お嬢さまだもん
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「緩よ――。大和家たる者。常に世間の情勢をくみ取らなければならないのだ」

「はい。心得ております、お父さま」

「人の上に立つ人とは。誰よりも先に行動している人のことだ。しかし、緩。いつまでもワタシの真似事ばかりしていては、大和家もいずれ滅びてしまうであろう。緩よ。世間は広い。上ばかりに捉われず、臨機応変にあらゆる方向を見定めることが、大和家を、世界を、広げるコツだ」

「コツと、おっしゃいますとお父さま」

「うむ。来月から半年間。庶民の通う公立の中学に転校し、尊敬できる『オトコ』を見つけ、新しい緩を見つけだすのだ。それが父さんからの、挑戦状だ」


 新しいわたくし――。


「わかりました、お父さま。わたくし、必ず見つけてみせますわ」


 わたくしは心に誓って、鳥かごから解放されました。見たことのない世間をしかと目に焼きつけて、そしてお父さまの挑戦状を見事にクリアして差し上げます。


「ここですわね」


『第二手芸部』

 そうドアに紙をテープで張られているだけの簡易な目印。あっちの学校じゃなかった用法ですわ。

 わたくしは深呼吸をし、ノックを二回送ると、「いいわよー」と明らか心一さんではない声が返ってきました。心一さんの言っていたもう一人部員でしょうか。


「失礼いたします」


 ドアを開けますと、見覚えのある金髪がおキレイな女生徒が、わたくしを待っていたかのように腕組みをして立っていました。

 あたりを見回し、部室の感じは一言で申し上げて「物置き」……は酷いでしょうか。とても慎ましやかで、すべての備品が古いもののようです。


「あの、心一さんはいらっしゃらないのですか?」

「心一? ああ、さっきまでいたんだけど忘れ物したぁ、とかでどっか行っちゃったわ」 

「そうなのですか」

「すぐ戻るわよ。まあ戻ってくるまで時間ももったいないし、どうせ心一のことなんだから、部についてなにも教えてもらってないでしょ。いいわ。わたしが説明するわね」


 金色イヴさん――。

 流暢な日本語。見た目は疑いようがないくらいの「外国の方」のようです。ですが、名前のかぎりではどうやら、ハーフなのでしょうか。

 申し分ない身長。しかし、それを逆手に取っているような流れる金髪や目の色、日本人では出せない肌の白さもあって、思わず見入ってしまいました。


「話聞いてる? この部は第二手芸部。通称『パンツ部』よ」

「パンツ部……? あのパンツですか?」

「ええ、下着のほうで間違ってないわ。バカみたいだけどね。で、名前のとおり手芸部だけど、重きを置いているのは衣服でなく、心一の趣味であるパンツ――」

「趣味じゃないよ、イヴ。ぼくの半身だよ!」

「心一さん?」


 席をはずしていた心一さんがいつ間にか、わたくしの背後についていました。


「あー、はいはい、半身ね、半身。そのパンツについて日夜追求――主に心一が。それが第二手芸部の活動内容よ。わかったかしら?」

「心一さんは、余程その……下着がお好きなのですね」

「好きってレベルじゃないわ。へたすれば犯罪ものよ」

「えへへ、それほどでも、ないかな」

「褒めてない! すこしは自重しなさいよ!」


 金色さんが心一さんを一喝する。そのやり取りは、わたくしからすれば微笑ましく感じた。


「金色さんは……」 

「イヴでいいわ。心一は名前で呼んでるのに、わたしだけ名字じゃおかしいでしょ。わたしも遠慮なく、大和さんを緩って呼ぶわ。友好的でしょ?」

「友好的。いいですわね。友好的。それでイヴさんも、下着好きが高じて、この部に入ったのですか?」


 わたくしがそう尋ねますと、イヴさんは動揺してしまいまして、


「わ、わたしはべつに……そこまでパンツが好きってわけじゃ……」

「そうなのですか? ならどうして。第二ってことは、本来の手芸部はあるんですよね。なのにわざわざ第二手芸部をお選びになるということは、心一さんに負けないほどの『パンツ愛』があるとお見受けしますが」

「そうだったの! 初耳だよ、イヴ! なんで今まで――しゃいまんっ!」


 背後に位置していた心一さんが、大変嬉しかったご様子でイヴさんに近づいたところ、イヴさんは突然取りだした物差しで心一さんの頬を引っ叩いたのです。悪意のない信頼といった感じで、鮮やかの一言でした。

 そしてイヴさんはわたくしに沸騰させたような顔を向けて、


「ああ、あああぁぁぁ! そうよ! パンツ好きよ! 緩の言うとおり、パンツ愛にあふれてしまって、心一と一緒にこの部を立ちあげた第一人者よ! どうぞよろしく、緩っ! ようこそ、パンツ部へ!」


 歓迎するように手を広げたイヴさん。

 目の前で倒れている心一さんから、「それ、ぼくのセリフじゃ……」と嘆いた声も。

 そんな劇みたいな一部始終を見終わって、わたくしは思わず吹きだしてしまいました。


「うふふ。あ、すみ、すみません。あまりにも二人の関係が羨ましくて、つい。でもわたくしも、パンツ大好きかもしれません。じつは来る前は不安でした。けど、入部してよかったです。こちらこそよろしくお願いしますわ、イヴさんと、心一さん」


 スカートの両裾を少し上げて、お二人にお辞儀をしました。


 お父さま――緩は、ここでなら楽しくやれそうです。


展開にけっこう苦戦しております。

次話は5月18日、同じ時間頃に更新予定。


友城にい

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