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「…………」
ぼくの質問にイヴは一瞬、人の心を失ったような冷徹に凍てついた目をした。
「心一、わたしがさいしょに言った意味わかってる?」
「信用をエロでしょ?」
「得ろよ! エロのどこが中学生っぽい会話なの⁉」
「中学生といえば『エロ』+『らしさ』=『オ○ニー』と相場が決まってると聞いたんだけど、違った?」
「『エロ』を中学生の要素にくわえんな! わたしが言いたいのは――」
「そんなことよりオ○ニーだ。話題をオ○ニーにしよう。前にも語ったでしょ?」
「じゃあ、一応確認だけど。こんかいのは、自己満足をえるためのする『衝動』という解釈でいいのかしら? 創作活動、みたいな」
「いいや。そのまんまのマスターベーションの意味だけど?」
ぼくとイヴがそんな話をしても、盛りあがらないと思うんだけどな。でもパンツの話なら創作になりそうだね。
「……でしょうね。期待したわたしがバカだったわ。なんでよりにもよってその話を持ちだすのよ……」
呆れ返ったイヴは、両肘をモモに立てて、頬杖をつく。
「おさらいだよ。去年のいまごろは、二人でいちゃいちゃうふふな毎日を送ってたのにねぇ。なんなら感覚を思いだすために抱きあっちゃう?」
「しないわよ。いちゃいちゃした記憶もないし、勝手にねつ造しないでよ」
自分で抱きしめるぼくに、冷めた目をしながら反応してくれるイヴ。
んもうかわいいんだからイヴは~、なんて思っていると、
「あまり下の話題はしたくないんだけど……」
「緩ちゃんや心愛がいたら、こういう系統の話はしづらいでしょ。ぼくなりに気を遣っているつもりだよ」
「わたしにも気をつかいなさいよ。わたしもしとやかなれでぃーなのよ!」
イヴは「レディー」より「れでぃー」だね。とかいう野暮はともかく。ぼく的にイヴとなら、なんでも我慢せずに、話せてしまう、気が置けない関係と思っているんだけどね。
こんなことイヴに言うと照れちゃうし、本調子で話してくれなくなりそうだしね。あれ、直後に矛盾しちゃった。
「まあまあ、いいから。で。どうなの。一年ぐらい前に聞いたときは『するわけないでしょ!』と一蹴されたけど、どう? 体験した?」
「してないわよ。していても女性なら言わないでしょ。はずかしいし」
ぷいっとそっぽを向いた。
「なぁんだ、つまんないなー。べつに隠さなくてもいいのに。オ○ニーも女性の嗜みって言うよ。女性はオ○ニーしたら、ホルモンが分泌されてキレイになるらしいから」
「わ、わたしはほんとうに…………そもそもやり方しらないし……」
ごにょごにょ蚊の鳴く声で、うつむかせる。
頬杖していた両手を猫手にし、おまたあたりをスカートの上からググッと押しつけて、むにむにしている。
ぼくはイヴの心境を瞬時に理解し、
「あ、オ○ニーだね! なーんだ。言ってくれれば、トイレぐらい許可してや――るーじゅらっ!」
「だからやってないって言ってるでしょ! こ、これはスカートのなかが汗ばんで気持ち悪かっただけよ!」
優しさのつもりだったのに、どこかからかでてきた毛玉が豪速球で投げこまれてきて、ぼくの洟にめりこんだ。肩いいなぁ。
あまりの勢いにイスごと後ろに倒れたのを、洟を押さえながら直していると、
「れでぃーに失礼なこと聞いたんだから、次はわたしの質問に答えなさいよ。たとえば、心一の恋愛観、とか」
打って変わり、しおらしくそれでいて、怒りの感情を小さじ一杯くらい含めた声でぼくに言った。
「ぼくの女性遍歴よりオ○ニー観のほうが盛りあがると思うよ?」
「そんなもの語るくらいならマフラー編むわよ。いいの。暇なんでしょ?」
うおっ、と。イヴの覇気が爆発寸前だ。
「待って待って。じゃあ、話を変えまして。イヴはパンツの上からする派? ちなみにぼくは、脱ぐ派です」
「そうね。よごれたり、親バレを気にす――ってなに言わす気よ!」
激しく動揺し、沸騰するほど顔を真っ赤に染めた。口をすべらせたのか、はたまたノリツッコミかわからない。けど、ぼくはニンマリ笑ってやって、
「なんだかんだ言って、やっぱりイヴもオ○ニー好きなんだね。安心した」
「安心しないでよ! 好きとかきらいの前に、やってることにしないで! わかった、わかったわよ! もう思う存分、パンツのことを話せばいいじゃない!」
やけくそ気味にぼくに言い放ってきた。
「まるでぼくがパンツのことしか脳にないみたいじゃないか」
「ちがわないでしょ! 四六時中パンツで頭がいっぱいじゃない!」
直後、イヴは深くうなだれ、ため息を吐いた。髪が金色でなければ、有名なホラー映画のあれのシーンに似てなくもない。失礼かな。
「事実、合ってる。けど、少し違うよ、イヴ。ぼくは、パンツ〝だけ〟じゃない」
次回は、5月7日になります。
友城にい




