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護流、心一、心愛の順番で目をやる。
清純でなだらかなショートカットの黒髪はそのままに、双方の膨らみが目立つ白衣。チャームポイントとも言える緋色の袴。足元も礼儀正しく、足袋を履いていた。
頭からつま先まで、あまりに似合っていて神聖で、着ている人が人なだけに、三人とも見とれていた。
「お世辞抜きで、大和さん素敵ですよ」
「光栄ですわ。護流さんにお褒めいただけて」
まごうことなき、『巫女』の格好をした大和緩がいた。
「き、きれいです……」
「ココさんもありがとうございます」
普段、近寄りがたさがあり、自分からは絶対に声をかけない心愛でさえ、俯いてはいたがきちんと感想を口にするほどだ。
「心一さん、どうですか?」
緩は求めた。
足袋のため、フローリングの床じゃ慎重に歩かないと滑ってしまう。なので、緩は心一のほうをただ見た。
心一が称す「天使」のように微笑む。
「はっ……。えっと、ほ、本物に邂逅したのかと思っちゃったよ。はは……」
「わたくしが女神にでも見えましたか? ふふ、嬉しいですよ、心一さん」
緩に話しかけられて、心一はどうやら我に返った様子だ。
それほどまでに巫女服をまとった緩は、神秘的で神々しいオーラを感じたのだろう。ここまで心一が見とれてしまったのは、珍しい外ならず、護流も驚いていた。
「レアだな。パンツ以外に心を奪われている、あなたを見るのは」
「心外だね、護流ちゃん。ぼくだって、巫女服みたいなけがれのない清潔で純潔なものには惹かれるさ」
「そうなのか。ならば今後はパンツではなく、こういう健全なものに興味を持ったらどうだ? 巫女服とかなら、私もまだ許容範囲だしな」
「ちっちっちっ、だからこそ――」
「心一さん?」
自信に満ちあふれた顔で人差し指を振って、護流に背中を見せる。
緩も不思議な面持ちで二本のアホ毛を揺らした。
「ぼくの辛抱たまらん!」
それを皮切りに心一はダッシュで、緩の巫女服に食いついた。
「きゃっ! き、今日はかなり欲張りなんですね」
「んな!? あなたって人は、どこまで欲望に忠実なんだ!」
心一は緩の大きな双丘を横から寄せるように手を当てた。
ぷるん、ぷるん、ぷるるん、
「おお……、この色気をかもさないよう、抑えている分厚い服の感触。推測するに三枚構造になっているんだね。う~ん、でもなんだろう。この背徳感。ぞくぞくする」
「わたくしもいつもと感覚が違って、イケないことをしてる気がしますわ」
「大和さん、それ正解ですから。あとなぜ胸を触る必要がある。私が言うのもなんだけど、重ね穿きの試しじゃなかったのか!」
吠えて、心一の手を緩の胸からどかし、そう尋ねる。
「わかってないね、護流ちゃんは。重ね穿き=『ブルマ』『スパッツ』を当てはめている時点で、固定概念に囚われている」
「囚われている? あなたがなにを言いたいのかわからない。なんだ、私の考え方が固いと?」
「違いますわ。重ね穿きの定義としては、十二分に心得ているでしょう。しかし、この『巫女服』のような袴やズボン。レオタードや水着のような肌に直接密着させるときにも、重ね穿きをするのですわ」
「でもそれはいわゆる、『防御』のためだろ? なにかを見せないように隠すためで」
そこまで言ったところで、緩が護流のスカートの裾を握った。
「護流さん、このスカートから見えるパンツを隠すための重ね穿き。そして――わたくしが、巫女の格好をするときに穿く理由には、明確な違いがありますわ」
「そう。緩ちゃんの言うとおり。大事なのは、『シチュエーション』だ」
心一が呟くように言って、護流の正面に緩と並ぶ。
そして、緩の握る裾と離れた場所を握ったのだ。
「しちゅえーしょん……」
「そうだよ。巫女服、レオタードや水着は、見せないためじゃない! 見えないようにするためなのだ! そりゃあああ!」
「それぇ~」
「なるほど。羞恥心を守るためじゃなく、不快にさせないようにするために――ってなにいきなり、めくってるんだ!」
心一の説きに納得していた護流のスカートを二人で思いっきり、はだけさせた。
無防備になる黒いパンストに包まれた下半身。そのパンスト越しに微かに透けるボーダー柄の股下が小さい下着……
「護流ちゃんが黒レースを穿いてくれない理由はこれだね。えっと、これは――ヒップハング……かな? ずいぶんと見慣れない下着を選んだんだね。これはこれで、新鮮」
「私の下着の感想はいい! めくったことを謝れ! 肌を晒された罪を償え!」
「褒めてるのになー。あと謝るのは緩ちゃんも、かな?」
「ぐぬぬ……一応、共犯としよう」
頬を赤くして、怒り心頭する護流。
緩を一瞬見やるが、風貌などから怒るのにためらわれるのか。呻り声を出しつつ、心一をずっと睨めつける。
「しょうがない。護流ちゃんの怒りの裁定をこの方に決めていただこう」