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「パンツは体を表す――」
冷えこむ部室に、一人の赤毛の少年――境心一は呟いた。
「いきなりどうしたのよ」
それを呆れ半分で反応してくれたのは、部員の金髪吊り目ロリ――金色イヴだった。
彼女は、イギリス人の母と日本人の父の娘。つまりハーフである。真っ先に目につく金糸のような髪は、背中ほどまで流れていて、きらびやかさの象徴そのものだ。
それを助長するような華奢な体躯も、紺色のセーラー服の上から、薄紫のカーディガンを着こんでいてもわかる。
「たとえばイヴは、ツンデレっぽさを出そうと思って、青の縞パンを穿いてるんでしょ? 知ってるんだよ、ぼくは」
「なっ!? なんできょうのわたしの下着を……」
咄嗟にスカートを押さえる。イヴは、大きな青い瞳を細めて、心一を睨んだ。
「なんで、っていつものように、さっきスカートをめくって確認したけど?」
「いつよ!? だってわたし、ずっとすわってるのよ。めくられる隙はなかったはずよ」
「え? 部室に来て、ぼくにあいさつしたときにペロッと豪快に。てっきり気づいてて、見逃がしてくれたものなんだと勘違いしてたよ、ぼく。ははは」
「わらってんじゃないわよ! ぐぬぬ……不覚を取った。きょうこそ見られずに、帰ろうとおもってたのに。すでに負け戦だったとは……」
イヴはうなだれ、木目調のテーブルを軽く叩いた。
「そんなに気にしなくていいよ。ぼく、イヴのパンツ見るの大好きだから。三度の飯より大好きだから。だから、イヴは気にしなくてもいい――へぶっ!」
「わたしは気にするわ! んもう。あしたこそ見られないようにしてやるんだから!」
テーブル上に常時していた厚めの教科書で、心一の頬を強打させると、イヴはぷいっとそっぽを向いた。
「いてて……相変わらずイヴは暴力的だなぁ。そこもイヴのいいところだけどね。それにくらべて……緩ちゃんは、ぼくの天使! 今日はどんなパンツを穿いてるの。ぼくにおーしえて!」
頬をさすりつつ心機一転し、心一はイヴのとなりに佇む少女――大和緩を見やった。
「わたくしですか? 今日はたしか――」
「なあ――っ! なにやってんのよ。見せなくていいの。見せなくて!」
立ち上がってスカートをめくろうとする緩に、イヴは急いでその手を止めさせた。
「では、どうすれば?」
「見せるのが、ダメならぼくにめくってもらえばいいのさ」
「なるほど。さすが心一さん。頭いいです」
「なんで見せるのが前提なのよ! 乙女なら恥じらいをもちなさい、恥じらいを」
どうにか諭そうとするイヴに、緩はクセ毛でもある黒髪ショートカットの頂上にそびえ立つ、二本のアホ毛が首の代わりに傾げた。
「どうしてイヴさんは、パンツを見せたくないのですか?」
「そんなの決まってるじゃない。見せる必要がないからよ。だからこそ見せないことが、女であるわたしたちの努力であり、義務なのよ!」
イヴは力説した。満足げに小さいな身体を、胸いっぱいにふんぞり返らせている。
「うんうん。やっぱり、緩ちゃんは清楚な純白のパンツにかぎるねぇ。あれ? これも見たことのないデザインだね」
「白は清い心ですので、毎日気を配っていますわ」
「白は汚れ目立つもんね。それにしても、このハリのある色白な肌と、スラリと伸びる細い足との白いパンツコラボは、最高と言わざるを得ない」
「そうなのですか? よくわかりませんが、心一さんが喜んでくださるのであれば、維持しますわ」
「えらいえろい。さすがぼくの見こんだだけの天使だ。こっちからお願いするよ」
「? ありがとうございます。わたくし、がんばりますわ」
一部おかしな言葉があったが、緩は感謝の意を示し、頭を下げた。
軽く悦に浸っていたイヴが、ようやく抜けだしたようで、子犬のような威嚇で二人のほうを振り向く。
「ちょっと、なにわたしの話を無視してんのよ! ……って、それより心一。あんたなんで緩のスカートの中に……」
心一は緩のスカートの中に頭をつっこんで、直接パンツを拝見していた。
それを見たイヴは、ふんぞり返らせていた体勢から急いで心一の上着の裾を引っ張る。
「心一、あんたって人は。そこまでしてパンツを見たいの。緩も緩よ。そんなひょいひょい男にパンツを見せるんじゃないわよ! そ、それもこんなかんたんに……」
イヴの怒りのこもった声に、心一も何事かとスカートから顔を出す。しかしそれよりも先に、イヴの問いに答えたのは緩のほうだった。
「――かんたんになんか見せたりしません。イヴさん、安心してください。わたくしは、心一さんにパンツを見せたいだけなんです」
「な、なんでよ。意味がわからない」
「意味なんて要りません。イヴさんは見せる必要がないから、見せない。けど、わたくしは、見せたい理由がある。それでいいじゃないですか」
「緩……」
大和緩――心一やイヴと同じ、中学三年生の十五歳。三人とも同じクラス。
実家は金持ちで、二学期の頭に転校してきた。
おっとりとした風貌で、中三とは思えないほどのナイスバディな身体をしている。それでいて、転校前はお嬢さま学校に通っていたようで、極度の世間知らずの箱入り娘。さらに、男の性的嗜好にも無知といった筋金入り。
それこれが、心一が称したとおりの「天使」という言葉が、あまりにも似合う少女の全貌なのだ――。
初めて三人称で書きました。おかしくないでしょうか。
友城にい