表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

ニルフの異世界召喚記(3)

 魔王の城は、人里離れた山の中にあった。

 というか山全体が城と同化している。


 これ街を治めるとかそういう用に作ってなさそうだな。


「おらぁ! 俺が魔王だ! 勇者だとぉう!? 俺がボッコボコにしてやらぁぁあ! さっさと上がってこいやぁぁ!」

 って言ってる感じだな。城が。


 勇者より先に最深部に忍び込む。

 魔物は俺に気付かない。途中で勇者PTを追い越したが、そいつらも気付かなかった。


 俺は王座の部屋の屋根裏っぽい所に忍び込む。

 魔王は骨を模した真っ黒の鎧を着込んだ、2m以上の大男だった。


 魔王は杖を手に持ち、王座に座って居眠りしている。部下はいない。

 しかしここで杖を奪うような真似はしない。


 チャンスは一瞬。

 魔王と勇者達が戦う瞬間だ。



 3時間後、扉の向こうから魔物の話し声が聞こえだす。何かに焦っているようだ。

 2時間後、扉の前が静かになった。

 1時間後、戦闘音が近くなってきた。

 そして今。


 扉がバーン! と勢いよく開かれ、輝く鎧に身を包んだ4人の男女が現れた。

 勇者PTだ。

 魔王がゆっくりと目を開ける。

 戦闘開始。


 魔王が大きく杖を振り、何かを唱える。魔王より前の空間が全て、火の海に飲み込まれた。

 しかし勇者達の周りにだけ光る膜が張られている。彼らは無傷だ。膜の中には3人。

 そのまま後ろから魔王に切りかかる影が1つ。見事な気配の消し方。

 上から見てるからよく分かるが、あの場にいたら気付く自信はないな。

 そのまま影・・・赤男イケメンは大剣を一閃した。


 しかし魔王はそれを杖で受け止める。


 大剣は赤男イケメンか。なら双剣は?

 青女(けしょう)は鞭、白男(やさおとこ)は弓、黄女(じみ)は長い杖を持っている。


(双剣の気配は感じません。おそらく彼らとは別の者が持っているのか、置いてきたのか)


 霊鳥も分からないようだ。


 魔王と勇者達の戦いは混戦になりつつある。

 いつのまにか魔王が部下を山ほど召喚し、それを魔法でなぎ倒していく勇者達。

 魔王は赤男イケメンと戦っている。


 このままあの2人と勇者PTを上手く分断できれば。


 俺は目の前にある天井のデカい梁を見つめる。

 俺、魔法使えないけどこれ落とせると思う?

(力いっぱいやれば大丈夫ですわ! )


 俺は懐に忍ばせていた霊鳥の扇を手に持つと、直径5mほどの梁に力いっぱい振り下ろす。

 爆風が生まれて梁が砕け、眼下で戦う勇者達に降り注ぐ。


 煙が収まると、見事に後方で魔王の手下と戦っていた勇者3人は、瓦礫に埋まっていた。

 まあ勇者だし死なないでしょ。防御呪文あるみたいだし。


「お、おまえらぁー!」


 赤男イケメンが叫ぶ。完全に魔王から目を逸らしている。

 その隙を魔王は逃さず、杖で殴りに行く。

 しかし赤男イケメンは目を逸らしたまま、それを大剣でガードする、が。


 2つの武器がぶつかる寸前、間の空気が爆発して2つの武器が宙を舞う。


 俺はそれをシルフに頼んで運んでもらい・・・。


「うふふふ・・・。また会いましたわね。約束通り、武器は頂きましたわ。

 それではごきげんよう」


≪女≫の姿で会釈して、両手に杖と大剣を持って姿を消した。

 霊鳥の隠密魔法さまさまだな。


 さっきの武器を飛ばしたのは、魔法ではなく扇の効果だ。

 ある程度の距離ならば、狙った場所に爆風を呼び出せる。


 こっそり(俺を召喚した国の)王都に戻り、植物園の鳥の絵から空中庭園に移動する。


 噴水に武器を捧げると、目がくらみそうなほどの光を鳥の彫像が放った。

 あと1個だ。


 *


 魔王と勇者の戦いは、勇者が勝ったらしい。


 あの後、また魔王が大量の部下を呼び出し、仲間もいない、武器もない赤男イケメンは完全に撃つ手が無くなった。

 そして素手で戦うも限界が近づき、魔王の魔法で消し炭になるという瞬間。

 最初に仲たがいした≪目つきの鋭い男≫が、大勢の仲間を引き連れて魔王の間に押し寄せたそうだ。


 どうやらあの≪目つきの鋭い男≫、勇者では無かったようだが奴隷を使う能力に長けていたようだ。

 しかも強制的にではなく仲間として接するという、人として稀有な能力。

 つまりはツンデレ?


 そのおかげで戦局がひっくり返り、見事魔王は倒された。


 そして1つ分かったことがある。


 魔王を倒しても、元の世界に帰れないらしい。

 それを知った勇者たちは意気消沈し、今は城でちやほやされて過ごしているそうだ。


 目つきの鋭い男は別の国にいる。そこで奴隷たちと一緒に暮らしていくらしい。

 そしてこの男も、双剣の所有者では無かった。


 ならば残り1つの双剣はどこに行った?

 答えは・・・


「双剣ならここにあるぞ」


 空中庭園から出た途端、植物園の賢者じいさんに捕まった。


 賢者じいさんは鳥の翼のモチーフがついた2本の短剣を、俺に見せる。


『いいのか、じいさん。てか気づいてたのか』

「いつも寝ている場所だ。何かが違えば気付く。

 それに精霊達も、何かを隠そうとしていたしな」


(精霊が人をかばおうとするなんて・・・)


 霊鳥が、フッと呟いた。

 じいさんは、そのまま話し続ける。

 なんだか久しぶりに知り合いに会ったかの様な、饒舌さで。


「お前は精霊に好かれる体質だな。だからこの植物園が見えていたのか。

 初めてお前を見た時は驚いたぞ」

『なんでじいさんが持ってるんだ?』

「ふん、それはソイツに聞いた方が早いだろう。

 居るんだろ? 霊鳥。お前の住処に連れて行ってもらおう。

 話はそこでする」


(いいのか? 霊鳥)

(・・・仕方ありません。このまま置いていくことも可能ですが、正体が分からなければ不安も残ります。わたくし達に双剣を見せた事を信じて、連れて行きましょう)


「話は決まったようだな。いくぞ」


 俺達は黒い鳥の絵から、空中庭園に抜けた。


 *


「さあ、正体を話してもらいましょう」


 人の姿を取った霊鳥が言う。

 賢者じいさんはクックと笑い、


「久しぶりだな、その姿。だがまずは封印を解こう」


 そう言って、双剣を噴水に捧げた。


 途端、噴水の上の鳥彫刻から光があふれて噴水が爆発。

 周りが煙に包まれ、水が辺りに飛び散る!


 上に飛んだ水が雨のように降り注ぐ中、爆発の煙が収まった。


 そして俺の目の前には、

 植物園の絵に描かれていたのと同じ、黒い鳥がいた。

 鳥の大きさは、大体5mほどだな。


「ようやく、正体が分かりました」


 大きな黒い鳥が、賢者じいさんに語りかける。


「あなたは勇者に倒された邪悪な王の、手下の男ですね」

『それって・・・』

「そうだ。何百年ぶりかだな、霊鳥よ」


 ん? おかしくない?

 だって勇者に倒された邪悪な王って、魔王じゃないの?


「いいえ、邪悪な王は人間の王。彼は人間です。おそらく元、ですが。

 魔法で寿命を延ばしているのでしょう」

「ふん。あの時は、まさか勇者が魔族から出るとは思わなかった」


 つまりヤンチャをした人間の王があまりにもアレだったので、魔族側から勇者を召喚して黒霊鳥と協力して倒したと。


「では、わたくしの魂をこの場に隠したのは」

「礼などいらん。次にまたどちらかの王が妙な事を始めれば、お前の力が必要になるからな」


 いつのまにか人の姿になっていた黒霊鳥が、うれしげな穏やかな顔を浮かべて賢者じいさんを見る。

 じいさんも、まんざらではない顔をしている(様にも見える)


 何百年もの確執が溶けて流れた瞬間だった。


 まあ賢者じいさんが意地張らずに黒霊鳥に言ってれば、すぐにでも無くなっていたんだろうけども。


 ん?

 ところで俺はどうすれば元の世界に帰れるの?


 俺は2人を見る。

 黒霊鳥が俺の考えに気付く。


「大丈夫ですわ。わたくしがいつでも、元の世界に返して差し上げれます。

 体を取り戻してくれたお礼、ですわ」

「もう行くのか。元気でな」


 俺はこの世界に、未練なんてないしな。

 早くみんなの元に帰りたい。


 黒霊鳥が鳥の姿に戻り、大きく翼をひろげる。

 俺はそれに包まれ・・・そして光が目の前にはじけて・・・


 *


 気が付くと、でかい木の根元に寝ていた。

 上には沢山のシルフが舞っていて、俺の周りは背の高い雑草に囲まれている。


 またここか。

 俺は初めて召喚された日を思い出して、軽く笑う。


 そのとき、周りの雑草がザッとかき分けられ、ピンク色の狼耳がピョコンと飛び出した。


「あ! こんな所にいた! 皆、ニルフが見つかったよ!」


 ピンキーが仲間を呼ぶ。


「びっくりしましたよ! 転移魔法使ったらニルフさんだけ居なくなってて!」


 黒蹴が広場の周りにある森から走ってくる。


「無事で何よりだ」


 銀はいつのまにか俺の横に立っていて、手を差し伸べている。


「もう! ニルフさんが居なくなったって聞いて心配しましたのに!

 こんな所でお昼寝ですか!?」


 若葉が怒りながらも、俺が大切にしているハープを持ってきてくれる。


 俺の周りには2匹のシルフが舞っている。蕾を2つ付けたような頭と胴に、緑色の透明な鉱石のような腕。

 シー君とフーちゃんだ。


 あれは、夢だったのかな。

 ふとシー君を見ると、手のひら程度の黒い鳥羽を風で飛ばして遊んでいた。


 俺は軽くハープを弾き、そして皆に話を始める。


『ちょっと聞いてよ皆。今、すごい夢を見たんだ』


 シルフを介した拙い言葉で、俺が見た夢の話を。

これで終わりです。

ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ