表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

ニルフの異世界召喚記(2)

 --------------------------------------

 俺はニルフ。

 金色のくせっ毛のショートカットに緑色の目をした、身長170cmの18歳!

 ある日突然、≪世界樹が生えた異世界(名前は無い)≫に召喚された者だ。


 で、気付くと妙な世界に召喚されていた!

 つまり、召喚された世界から召喚されて別の世界に居るって事! 笑っちゃうよね!

 ここの世界は最悪さ!

 王様が高飛車で「勇者以外の召喚者は肉の盾になれ」とか言っちゃう系!


 さて、俺は無事に元の(最初に召喚された)世界に帰れるのかな!?

 ----------------------------------------


 精霊の植物園で働き始めて3日。

 じいさんと会話がありません。


 初日あれだけ目線ばっちりあってたのになー。


 じいさんは≪賢者≫と言われる立場らしい。

 だが偏屈で人嫌い。


 そして賢者じいさんがいつも居るこの植物園は、普通の人には真っ暗闇にしか見えないらしい。

 俺には茶色いガラスで出来た温室に見えるんだけどね。

 ガラスを通った光で内部全体がセピア色に光って、とてもきれいだ。


 俺は植物の世話をしつつ、植物園を眺める。

 色とりどりの蝶が、淡い光を放ちながら沢山舞っている。


 独学で色々調べたが、どうやらこの蝶が精霊の様だった。

 小精霊は小さな蝶、中精霊は大型の蝶、大精霊は鳥のようになる。


 色によって属性が変わるから、赤男イケメンの鳥は火の大精霊ってことだな。

 イケメン爆発しろ。


 どうよ、独学どんなもんだい。

 この世界では文字も読めないから、結局精霊に直接触って確かめてやったぜ。


 赤い蝶に触ったら、火を吹かれた。

 ちょっと前髪が焦げた。


 *


 4日目。

 今日は賢者じいさんのいつも寝ている教壇の後ろにある飾りを調べてみたいと思います。

 10mの台座の上に教壇と一緒に建っている、全長20m、幅10mのタケノコ型の飾りだ。

 繊細な模様が描かれている。


 この場所で鳥といえば、そう! 上級精霊!

 きっと何かあるはず!


 今日は賢者じいさんが王に呼び出されて居ないので(きっと勇者の事だろう)、調べ放題だ!

 初日に調べようとしたら、賢者じいさんに≪人食い植物ゾーン≫に投げ込まれた。


 調べたこと、ばれないようにしなきゃな。


 俺は階段を登って台座に上がり、飾りの模様に近づく。

 ちなみにこの台座、中は賢者じいさんの住居スペースだった。

 俺も居候させてもらっている。


 近くで見ると模様だと思っていた物は、見事な鳥の絵だった。

 大きな黒い鳥が、羽ばたくように身をねじりつつ、後ろを振り返っている絵。


 俺はつい、その絵に触れる。

 と、左手の黒い石が光り輝き・・・

 左手が絵に吸い込まれた!


 そのままドンドン吸い込まれる俺!

 あれ? なんか左手(つか)まれてる!? 誰! ねえ誰!?

 右手で壁を押して左手を抜こうとする! けど抜けない!

 うわぁぁぁひっぱりこまれれれれれれ


 *


 壁の先は、空中庭園でした。

 色とりどりの手入れの行き届いた植物の中央には、白く立派な鳥の彫刻の付いた噴水がある。


 そして俺の横には、黒いロングドレスに身を包んだ淑女。

 彼女は俺の左手を両手でつかんで、ニッコリと笑っていた。


 腰まで流れるロングの波打つ黒髪をそのままにし、ロングの黒ドレスに、二の腕までの長さの真っ黒な手袋を付けている。

 色白の彼女は真っ黒な目をパチリと瞬き、俺の手を離してお辞儀する。

 スカートを軽く指でつまんで、まるで貴族のようだな。


「数日前はわたくしを助けていただき、ありがとうございます。

 おかげで兵士達に踏まれずに済みましたわ。」


 彼女はゆったりとした仕草で礼を言った後、俺を噴水につれていく。

 直径5mほどのよくある噴水だ。


 彼女は、淡く光る鳥の彫刻を指差して言った。


「わたくしは、封印された霊鳥の魂なのです」


 *


 昔。とてもとても昔、この世界には邪悪な王がいたそうだ。

 そして勇者と霊鳥は手を組み、見事その王を倒す。


 しかし王の部下が強力な魔術を使い、霊鳥の体をバラバラにして封印した。


 霊鳥は頭、胴、足、羽根、尾羽、声、魂に分けられた。


「わたくしは、その魂の化身なのです」


 彼女は続ける。


「それぞれの体は、王の部下が武器に封じました。

 頭は杖へ、胴は大剣へ、足はツメへ、羽根は双剣へ、尾羽は扇へ、声は楽器へと。

 唯一意識が残っていたわたくしは、王の部下の隙を突いて逃げ出しましたが・・・。

 体を封じた武器は、この世界にばら撒かれてしまいました。

 わたくしの復活を阻止するためでしょう。


 わたくしは自分を守る為、先ほどあなたが居た精霊の植物園に隠れていました。

 いつか勇者が来た時に、力を貸すために。」


 彼女は俺を見つめる。その表情は少し悲しげだ。


「まさか己の力がここまで落ちているとは思いませんでした。

 何人もの上級精霊に跳ね飛ばされ、地に落ちて踏み潰される運命だと。

 その時です。あなたがやさしく手で受け止めてくれたのは。

 あの手の暖かさは、忘れません。」


 俺は左手の甲を見た。

 そこにあった黒い石は、無くなっていた。


 あれ? 薄緑2個と濃緑1個も無いぞ?


 ふと横を見ると、薄緑のシルフが2匹。俺の横でフワフワと舞っている。

 シー君とフーちゃん!!


 てことは濃い緑は、世界樹の小精霊(言葉を伝える役割)か!


 俺は声が出ない。

 その声を伝えてくれるのが、この2匹のシルフと世界樹の小精霊だったんだ。

 まあ単語しか伝えられないんだけどね。


 そしてそれを可能にする道具が!

 俺は懐から隠していたシルフ石を取り出し、言葉を紡ぐ。


『つまり俺は、武器を集めればいいんだな?』


 彼女は、嬉しそうに笑った。


 *


 俺は、いや私は、こっそり鳥の模様から抜け出した。

 そして賢者じいさんが戻ってこないうちに植物園を抜け出し、その日のうちに王都を出た。


 あれだけ私を馬鹿にしていた兵士の横を通っても、王の横を通っても、たとえ賢者じいさんの横を通っても、私のことをニルフだと思う者は居ないだろう。


 なぜなら私は今、霊鳥の魂の化身の姿をしているのだから。


 *


 ていうか何で女!?

 もういいよ私口調。俺は俺だ。


 俺は黒いドレスで王都を走りつつ、すり抜けざまに女用のマントを盗って着る。

 金が無いので服は現地調達だ。


(しょうがないでしょう。あなたの姿を偽るには、わたくしの姿を貸すのが一番手っ取り早かったんですから)


 俺は剣をスリつつ聞く。


(んで、目的地とか当てはあるのか?)

(いえ。しかし感覚で何となくわかります)

(そうか、それならよかった。案内してくれ)


 最後に長い髪を束ねる紐を盗って、俺は門を出た。

 皆はマネしないでね!


 霊鳥の魂は長い年月を経て、闇の精霊の属性を宿していた。

 効果は隠密。存在を感知されない。


 そして俺達は山を越え、谷を越え、国境を越えて世界中に安置される武器を集めて行った。

 ある時は国の宝物庫に忍び込み、ある時は洞窟の中に祭られた神殿から盗み取った。



「だれだお前は!」

「うふふふ。あなたがこのシリーズの武器を集めるのであれば、また会う事もありましょう。

 あなたのその武器も、そのうち わたくしが奪ってさしあげますわよ」


 武器を祭ってある場所では、同じように霊鳥の武器を集めていた勇者達と鉢合わせたこともあった。


 霊鳥の姿をしているときは、シルフや世界樹の小精霊を介さなくてもそのまま話せて便利だ。

 口調が霊鳥になるのが欠点だけど。


「あれが今、巷を騒がしている≪ブラックレディ≫か」


 ・・・なんか変なあだ名を付けられているようだ。


 *


 そうして俺達は勇者達よりも先に、楽器・ツメ・扇を集めた。

 武器には封印された箇所をモチーフにした模様が付いていた。


 今は空中庭園にある噴水の鳥彫像の周りで、フワフワと浮いている。

 武器を鳥彫像に捧げるにつれ、像の光が強くなってきた。


 残りは杖・大剣・双剣だ。


 噂によると大剣・双剣は勇者PTが、杖は魔王が持っているという事だ。


 よりにもよって魔王。

 とりあえず勇者と魔王が相打ちになるのを待つか。


 数か月後。

 勇者PTが魔王の城に乗り込んだという噂を聞いた。

 この世界のシルフ達は噂好きだ。

 俺がシルフを連れているのを見て、いろいろと協力してくれた。


 あ、もちろん変装の時だけ霊鳥(おんな)姿で、それ以外の時は俺の姿そのままだからね!?

 女姿で鏡見てニヤニヤしたり、お風呂入って見たりとかしてないからね!?

 ・・・。


 そして俺も魔王の城に1人、忍び込む。

 もちろん霊鳥(おんな)の姿で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ