ニルフの異世界召喚記(1)
突発的に浮かんだアイデアで書きました。
「勇者だったのかもしれない」もよろしくおねがいします
真っ白な光に包まれた。
まぶしさに耐えきれず目をつぶるが、すぐに収まる。
目を開けると、薄暗い部屋だった。
石造りの壁に、足元には魔方陣。周りにはローブを身にまとった怪しげな連中が10人。
そして正面にはザ・王様という感じの人物。
全員が俺を見て、信じられないといった顔をしている。
王様の足元には、身なりの良い若い女性がグッタリと倒れている。
長いカールした薄紫の髪をしている。
よく見ると、真っ赤な血を吐いていた。
「せ・・・成功だ」
ローブの誰かが呟く。
その瞬間、王を含めた全員が俺にひざまずいた。
「どうぞ、黒目の勇者様方! この世界をお救い下さい!」
ん?勇者様方?
「これは・・・。小説によくある異世界召喚ってやつか?」
「ちょっとぉー!何よアタシこの後デートだったのよぉ!?」
「あ、あの。これは一体どういう事でしょうか・・・」
「なんなんだよこれぇ。」
「一体どういう事だ。おい、事情を説明しろ」
俺の右側から知らない声がする。
声がした方向を見ると、5人の男女が俺と一緒に立っていた。
・・・ここどこ!?
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俺はニルフ。
金色のくせっ毛のショートカットに緑色の目、身長170cmの18歳!
ある日突然、≪世界樹が生えた異世界(名前は無い)≫に召喚された者だ。
直前まで俺は、一緒に召喚されたピンキー、黒蹴、銀の3人と旅をしていた。
俺には召喚されるまでの記憶が無い。
あと喉の傷のせいで、シルフ(シー君とフーちゃん+シルフ石)が居ないと喋れない。
それでも仲間の優しさと持ち前のスピードと反射神経でなんとか旅を続けてきた。
得意技はハープ。
武器は、世界樹から授かった木刀だ!
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そう、俺はニルフ。召喚された世界で4人で旅をしていた・・・はずなんだけど。
マジでここどこ?
*
目の前の王と隣の4人組はずっと話し合っている。
「ここはグランドエンド国。我々は魔王に苦しめられております。このままでは我らは滅亡してしまう。
そこで伝説に残されていた方法を使用して、勇者様方を呼び出したのでございます。」
「それは分かったけど。どうして俺らなんだ! 」
「僕らは普通の高校生なんだよ!」
「そうよ!私たち何の接点もない、ただ教室に居合わせただけの関係よ!?
なんでこんな地味な子と一緒に召喚なんてされないといけないのよ!」
「わ、私なんかが居てすいません・・・。」
「それより重要な事があるだろう。どうやったら帰れるんだ? 」
王が喋り、イケメンが喋り、優男が喋り、化粧をした女が喋り、気弱そうな地味な女が謝り、目つきの鋭い男が質問する。
なんで5人全員が黒目なんだ?
ピンキーや黒蹴と同じニホンって場所から来たのか?
黒目の勇者様方って言っていたし、同じ場所の人間を狙って召喚したとか?
ちなみに化粧をした女とイケメンは茶髪だった。残りは黒髪。
「帰る術は・・・、我々は知りませぬ。召喚の法しか伝わっておりませんゆえ。」
「なんだと! じゃあどうやって帰ればいいんだ!」
「集団拉致!? いやぁぁ! 家に帰してよぉ!」
「わ、私。私も帰りたいですぅぅ。」
「・・・」
「今まで召喚された奴らはどうしたんだ?」
女達が泣きだし、イケメンが怒り、目つきの鋭い男が質問する。優男は黙った。
「ずっと永住したとも、姿を消したとも言われております。なにしろ伝説故、詳しい事までは。」
「それにしては召喚方法はしっかり残っているな。」
「うぐっ、そ・・・それは。」
目つきの鋭い男に指摘され、冷や汗をかく王。
「まあいい。俺達を拉致したんだ。しっかりと身分は保証してもらおう」
目つきの鋭い男が、ニヤリと笑った。
そこからは、ずっとこの男のターンだった。
自分たちの身の安全、この世界についての情報、魔王に関しての情報、自分たちに課せられた使命や能力、ステータスの見方、なんか『ピンキーが召喚されてすぐに言っていたなー』っていう内容を事細かに王に約束させていた。
約束の内容は、ピンキーよりもエゲツなかったけど。
(ちなみに、ピンキーは異世界物の小説を読み込んでいたニホン出身の大学生だ。黒蹴はサッカー少年)
俺はその間に、自分の装備を確認する。
武器→ない
防具→さっきまで着てた街の服+いつものマントとマフラー
薬類:薬草の小袋1個
ハープ→ない
シルフ2匹→いない
シルフ石→あった!
うっわ! シー君とフーちゃんまでいない!
でも言葉が通じるって事は、世界樹の小精霊はいるのか?
前の世界では、世界樹の小精霊が翻訳をしていたけど。
あ、でも精霊持って無さそうなこっちの召喚者達も言葉通じてるしな。
なんか小精霊いなくても通じるとか、そんなんかもしれない。
一応シルフ石だけ持っていた。とりあえず隠す。
その間に、男と王の会話は終わっていた。
「じゃあ俺は宣言通り、1人でやらせてもらうからな!」
なぜか目つきの鋭い男が、怒って一人で立ち去って行った。何なん?
俺の目の前に兵士が立つ。10cmほどの水晶玉っぽいものを胸に当てられた。
・・・特に何も起こらない。
王が初めて俺を見た。
「お前は立ち去らぬのか?」
なんだ、なんか俺にだけ態度が違うぞ。しまったさっきの会話聞いとけばよかった。
とりあえず頷く。
隣の4人も俺を胡散臭そうに見ている。
なんだ、やるか?
「ふむ、ならばしょうがあるまい。では勇者様方、こちらにお越しください。」
4人が呼ばれて、部屋から出ていく。
え? 俺は? こっそりついていった。
中庭を抜けて、ガラス張りの建物に着く。
王に連れられた先は、綺麗なガラス張りの建物だった。
王の前に兵士が付く。道案内役だそうだ。
道案内が必要って、どんな迷宮?
不安に思いつつ入ると、中は普通の植物園だった。
天井までは30mほど、か。
茶色いガラスに覆われた、オレンジ色の光に満ちた内部。
周りには見たこともない植物が、所狭しと並んでいる。
そして人1人分の幅の直線の道の先には、大きな台座と、その上にはまるで教会の神父が立つような立派な教壇が建てられていた。
教壇の後ろには大きなタケノコを薄切りしたような飾りが、天井あたりまでそびえている。
入り口から奥まで大体50mってところだ。
教壇の椅子には、1人の白髪のじいさんが寝転んでいる。態度悪りぃな。
じいさんは、ピンキーの描いたアインシュタインって人に似ていた。有名な博士らしいね。
と、前を歩いていたイケメンが叫ぶ。
「なんでこんな真っ暗な中を進むんだ!」
「もういや!何も見えないじゃない!」
「ぅぅぅ~」
「泣くんじゃないわよ地味女!」
「ご、ごめんなさい」
「まぁまぁ、やめなよ君たち」
ん? こいつらには見えていないのか?
王も言う。
「ここは特別な場所でしてな。常にこのように闇に覆われているのです。
しかしここでしか力は手に入りません。
道案内役の兵士にはうっすらと道が見えておりますので、安心してください。」
うっすら?
兵士+前の王+4人を見ると、手探りするように歩いている。
ホントに見えてないっぽい?
俺の後ろを付く兵士も同じような感じだった。
綺麗な花の横を通っても、誰も見向きもしない。
そのままゆっくり歩いていると、周りに色とりどりの蝶たちがまとわりついてきた。
それぞれの色に淡く光っていて、すごくきれいだ。
ん?なんか黒い大きめの蝶が、イケメンの方に飛んで行ってる。
もうすこしで着きそう。と、その瞬間。
左上上空から、赤く強い光を放った大きな蝶が舞いおりる。もはや鳥っぽい。
赤い鳥は、周りの蝶を蹴散らしつつ、王の後ろを歩くイケメンの肩に止まった。
黒い蝶は跳ね飛ばされて後ろに下がる。
次に青い鳥が勢いよく飛んできて、化粧の女に止まった。
また、そいつに黒い蝶は跳ねられる。
次に、白い鳥が急降下してきて、優男に止まった。
黒い蝶は何とか避けた。
最後に、黄色い蝶が飛んできて、黒い蝶にぶつかってよろけ、地味な女に摑まった。
黒い蝶はすっかりぼろぼろになり、俺の左肩に止まろうとする。が、力なく落ちる。
俺は肩を伝って落ちてくるそいつをそっと左手で受け止め、ベルトに下げた小袋の上に止まらせた。
ここなら落ちないだろ?
なんとなく自分と重なって、うっかり受け止めてしまったぜ。
俺達は10分ほどかけて、教壇のある台座にたどりついた。
ホントに前見えてないのな。めっちゃゆっくり歩いていた。
台座でけえな。10mほどある。
そして教壇の後ろの飾りは大体20mほど、か。
鳥の羽を模したような、繊細な飾りが施されている。
教壇で寝ていたじいさんと目が合った。
なんかじいさん、若干驚いた?
王がじいさんに叫ぶ。
「勇者様を召喚した! 力を授けるがよい!」
「うるさいぞ! そいつらが勇者だと? 」
「なんという口のきき方! たとえ賢者といえども、ただではおかぬぞ!」
「ふん、この場所も良く見えぬ男が意気がりやがって。力ならもう授かっただろ。帰れ!」
さっさと帰れと言うように、俺達に手を振るじいさん。
やっぱバッチリ俺と目が合ってる?
*
王に連れられて今度は王座に通される。
兵は4人を恭しく案内し、俺には見下すような目を向ける。さっきから何なん!?
王はゆっくりと王座に座り、4人を見る。
「さて、先ほどの場所で勇者様方は力を授かったはずですじゃ。
手の甲をごらんください。」
「あ! 左手の甲に赤い大きな石が嵌ってる!」
「私は青い丸い石よ!」
「僕は乳白色だね、君は? 」
「わ、私は黄色い石です。あ、でも皆さんのより小さくて細長い・・・」
「あたりまえじゃないの! なんでアンタが私と同じ大きさの石だと思ったのよ!」
「す・・・すみません」
なんか人多すぎてよく分かんなくなってきた。
もう石の色で分けよう。
なんか全員同じクラスだったらしく、俺だけ王との自己紹介にも混ぜてもらってなかったし。
ぶっちゃけ名前が分からん。
というわけで 赤男、青女、白男、黄女だ!
さて、俺の左手の甲にも石が嵌っている。
さっきの蝶と同じ黒い色。丁度5cmほどの楕円形で、横幅は3cmほど。
その石の下には2この緑色の小石と、濃い緑の小石が1こ嵌っていた。
ちなみに赤、青、白の石は5cmの円形、黄の石は長さ5cm、幅1cmの楕円だった。
ん? あの黒い蝶、どこいった?
俺は蝶が居たはずの小袋あたりを探るが、既にいなかった。
元気になって、飛んでったかな?
「これが皆様方の力になります。先ほどの温室には精霊が住んでおりましてな。
気に入った者に宿るのでございます。その石は妖精の宿った証。
円に近いほど強力とされております。
それでは、どのような力を授かったのか兵達に確認させます」
あ、そういう事ね。黒い蝶はこの黒い石になって宿ったって事か。
王の言葉で4人の石を、兵士が確認した。俺の所には来ない。いーもん。
「これは素晴らしい! 赤石、青石、白石は上級精霊! まさしく勇者としての力を授かっております!
黄石は中級精霊ですな。勇者の力ではございませぬが、伝説には『黄色の石を持った者が勇者をサポートした』とあります!
これぞまさしく勇者パーティでございます! 」
おいクソ王、俺を忘れてるぞ。
あ、でも魔王倒しに行くとか言ってたな。めんどそう。
「では勇者様方は旅の準備に向かっていただきましょう。
・・・ん? 」
とか言ってたら王と目が合った。本当に忘れてたのかコイツ。
無理やり手を引っ張られて、石を見られる。
ちょっとイラっとした。
「・・・フフッ、やはりお前は選ばれた者では無いようだな。緑の下級精霊3匹か。
どうする? せっかく勇者様方と一緒に召喚されるという名誉を得たんだ。
勇者様方の肉の盾になるというのも悪くはないと思うぞ?
もちろん、役に立てれば多少の褒美もやらんことはない。
それとも城の下働きでもするか?」
さっき、目つきの鋭い男が怒った理由が分かったわー。
コイツ、あの男にもそう言ったんだろうよ。
でもアイツも他の奴らと変わらない黒目黒髪だったよな。どうやって見分けたんだ?
あれ、っていうか俺の手には黒石も嵌ってるんだけど、見えていない?
「おい! 王の問いに答えろ!」
俺は兵士に槍で殴られる。
それを見てクスクス笑う赤男と青女。
俺は王に向かって喋・・・れないから、身振り手振りで伝える。
「なんだ、喋る事も出来ない屑か!」
王の言葉で青女が笑い崩れた。
なぐってやろうか?
俺は一瞬イライラが最高潮に達したが、そこは抑える。
こいつらの中で、俺が一番強いだろうし。
銀(元傭兵)直伝の斥候技術ナメンナヨ!
俺は心を落ち着けて、王になんとか伝える。
いや、伝えるのに斥候技術は関係ないけどさ。
紙とペンで、さっきのガラス張りの建物の絵を描いて、そこで働く俺を書いてみた。
「ふむ、あの建物で賢者の手伝いをしたいというか。好きにするがいい。
だがお前の衣食住は我らの知ったことではないというのだけ伝えておく。
お前は勇者様ではない。今殺されないだけマシだと思っておけ」
勝手に攫っておいてその言いぐさ!?
俺は唖然としたけど、このままだと武器も金も情報もない状態で追い出されることになる。
最悪ハープさえあれば吟遊詩人の真似事(音楽のみ)で金と情報は集められそうだけどね。
それでもハープを買うお金位は、安全な方法で稼いでおきたい。
声が出ない分、交渉も情報収集もむずかしいし。
それだったら精霊の一杯いるあの植物園でじいさんを仲間につけた方が、きっと元の世界に帰る一番の近道になる。
3話でおわります