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第1話 異世界ファンタジア

 状況が把握できたのは転生して三年経った頃だろうか。

 まさか本当に転生していたとは思わなかったが、そのまさかが現実だった。

 ここは前いた世界とはまったく違う歴史、物理法則を持った世界、つまるところ異世界だ。

 その名はファンタジア。

 えらくメルヘンチックな名前だなあと思ったけど、それもそのはず、この世界には魔法があり今まで見たこともなかった神話上の生物なんかもいるらしい。

 ほとんどの話は俺の母であるローラと父親のアレックスの話を盗み聞きした結果だけど。

 あまり俺に直接は楽しそうな話を聞かせてくれなかった。

 まあ言葉を覚えていない子供に難しい話をしてもわからないからな。


 俺が生まれついた家はダンボルの町から外れた山の入り口にある木こりの家だった。

 質実剛健風な父、アレックス・アスロンと初めて出会って驚いた金髪の母ローラ・アスロンの間の第二子が俺、ニコルと言うわけだ。

 そう、第二子ということは第一子もいるわけで、なんと三つ上の姉がいるのだ。

 俺は前世では姉が欲しかったのでいると聞いた時とても嬉しかったが、赤ちゃん用のベッドで寝ている間は見ることがなかった。

 ちなみに名前はルカ。

 姉は俺が気に入らないらしく(母を独り占めされるから)、俺が立って歩くようになってからも一緒に遊ぼうと誘ってくることはなかった。

 まあ、さすがにこの年でおままごとなんてできないけどね。

 だから、とりあえず家の中で歩き回るだけの日々が多かった。


 歩き回ってわかったことはここは文明レベルで言うと中世に近く、本もあれば鏡もある。

 誰もが思い描くファンタジーな世界だ。

 俺はこんな世界に来ることを望んだのか。

 よくわからないな。


 でも、ようやくこの土地の言葉にも慣れてきて、発音は難しいがある程度は話せるようにもなってきた。

 もちろん両親たちには怪しまれないようにあまりたくさんは喋らないようにしている。

 子供っていくつくらいで話し始めるんだろうな。

 案外しっかり喋り始めるのは一歳くらいで俺はかなり発達が遅いとでも思われているかもしれない。


 そういった感じで三年が過ぎたわけだが、一つ疑問があった。

 魔法の使い方だ。

 ローラは炉に手をかざし、いとも簡単に火を起こすが、ローラがいない時に俺が試してみたところ全く火の気配はなかった。

「ママ、魔法ってどうやって使ってるの?」

 ある晴れた朝、ローラに使い方を聞いてみることにした。

「ニコルにはまだちょっと早すぎるかな。学校に行ったら教えてもらえるからね」

 台所で家事をしながら笑ってはぐらかされた。

 今年はルカが学校に入る歳だ。

 彼女に聞いてみるのもいいかもしれない。

 そう思って俺は庭でアレックスの手伝いをしているルカを探しに家を出た。


 そういえば家から外に出るのは初めてのことだった。

 何度か出ようと試みたことはあったがローラの制止にあって結局は出られずじまいだった。

 いつもドアに差し掛かったところで「お外は危ないからママと一緒に遊びましょうね」と、抱きかかえられて居間に連れ戻される。

 そこまで外の世界に執着はなかったので特に無理に出ようとは思わなかったが、今日は気付かれていないのでこれを機会に出るのもいいかもしれない。

 玄関のドアを開けると庭にはアレックスの姿はなかった。

 うちの庭は木の柵で囲われた簡素なもので、柵の外には大きいのか小さいのかよくわからない森がある。

 そもそも日本に住んでいる限り森の大きさの相場なんて考えることなかったからなあ。

 ルカは柵の内側で座り込んでいた。

 よく見るとシャベルで土を掘り返して遊んでいる。

 ルカは母親に似た綺麗な金髪で六歳にしては大人っぽい顔立ちをしていた。

 やっていることは子供そのものだけど、女の子は成長が早いっていうからもう顔は完成しているのかもしれない。

「お姉ちゃん! 魔法の使い方知ってる?」

 子供らしく元気に聞いて見る。

「知ってるけど……教えてあげない」

 ルカは俺を挑発してきた。

「アンタ気に入らないのよ! 子供みたいな喋り方して。いつも一人でぶつぶつ喋ってるくせに! そうまでしてママを独り占めしたいの?」

 どうやらご立腹のようだ。

 子供らしく話しているつもりだったんだけどなあ。

 まさか無意識に独り言を話しているとは思わなかったな。

 もっと可愛く甘えたほうがいいのかな?

「ルカお姉ちゃんお願ーい。僕どうしても魔法が使えるようになりたいんだよ」

 これが俺の最大だと言うくらい高めの声を出してみる。

「か、可愛く言っても教えてあげないんだから!」

 ルカは立ち上がって庭から出て行ってしまった。

 庭の外の森には魔物が多いと聞いている。

 六歳の少女が出て行ったらたちまち魔物のエサになるのでは……。

 それともルカは魔物をものともしないモンク少女なんだろうか。

「そっちは危ないよ」

 ルカは俺の制止も聞かず黙々と森の奥を目指して進み始め、ついには後ろ姿がポツンとした点に見えるほどにまで小さくなった。

 ローラに伝えるべきだろうか。

 いやでも告げ口したと罵られるのも困るしなあ。

 俺は生まれつき争いを好まないんだよ。今は生まれたばかりだけど。

 俺もルカを追いかけて森の中へ入ることにした。




/****************************************/




 森に入ると途端に辺りが薄暗くなり不安な気持ちになった。

 見た感じは日本の田舎の森と大差はないが、なんだか禍々しいオーラが漂っている気もするし心なしか空気も悪い。

 木の高さは子供の体からは大きく見えるが高くて数メートルほどだろう。

 ルカはまっすぐ進んでいると思ったのでまっすぐ進んだ。

 だが道がないので本当にまっすぐなのかはわからない。

 もしかしたら大きくそれていて二度とうちには帰れないかも、と思ったが一度死んだ身だしダメもとで進んだ。


 30分くらい歩いた頃だろうか。

 さすがにこんなに歩いても追いつかないことがあるのか?

 確かに俺の体は三歳児だが向こうだって疲労はあるはず、そろそろ追いついてもいい頃なんだが。

 俺の足にも疲労が来ている。

 やはり家に篭ってばかりだとちょっと歩く程度の体力もない。

 生まれ変わったんだから引きこもるのはやめようと決意した。

 少し休憩することにして、その場に座りこんだ。

 大自然の美味しい空気を味わうことはできそうにないが、初めてみる景色は新鮮だ。

 歩き出してから似たような景色だけど同じ場所だけを見ているよりはマシだな。

 本物の三歳児ならそろそろ泣き出している頃かな、いやもっと早いか。

 俺は生前見ていたおつかい番組を思い出していた。

 親が初めておつかいに子供遣る番組で、カメラマンがその道中を撮影する。

 多くの子が家を出てすぐに寂しくなって家に帰ろうとするんだよなあ。

 と、そこで気づいた。

 ルカは家に戻ろうとしたんじゃないか?

 俺はまっすぐ歩いてきたわけだから、ルカは戻る途中にだんだんと脇道に逸れていって今頃全然違う場所を歩いているのかもしれない。

 でも、どこに向かったかなんてわかるはずないよな。


 困った。


 足跡なんかあるわけないし、そんな都合よく物を落としているわけもないしなあ。

 地面を見ていても特になにも変わった形跡はない。ちょっとまて!

 確かに靴の足跡はなかったが二列の直径3センチほどの足跡のようなものがあった。

 左右の感覚は1メートルほどで前後の感覚は重なっているものが多く見受けられるくらい細く、明らかに人間のものではないことがわかる。

 これが魔物の足跡か。

 足跡の方向はわからないが、俺の進行方向へ伸びているということは引き返した方が良さそうだ。

 出会っていないということは、この先にいるか通っていない道(道と言うほど整備はされていないけど)のどこかにいるということだ。

 いや待てよ。

 ルカが鉢合わせしている可能性はある。

 足跡を辿ろう、進行方向に辿っても間に合わない可能性が高いからとりあえず逆方向に。



 それから数分も経たないうちに新たな発見があった。

 靴があったのだ。

 大人のものにしてはかなり小さくルカのものだろうと思う。

 それを拾って俺は足跡を追って走った。

 道は来るとき通ったものとは大きく外れており、家に帰れる見込みはなかったが姉を助けるのには代えられない。

 さらに数分経った時幼い女の子の叫び声が聞こえた。

 ルカのものだと確信しさらに足を早める。

 すでに限界を超えている。

 以前の体だったら――、と思うことは多いが考えても仕方がない。

 ルカの姿が見えてきた。

 その正面にいるのは、見たことのない生物だった。

 下半身はクモで上半身は人の女ようだった。ちなみに若くて裸だ。中学生くらいに見えなくもない。

 だがこんなときなので俺が欲情することはなかった。

 というか、おぞましくて直視できない。

 口からは糸が垂れていてルカを狙って吐かれたものに見える。

 慌ててルカに駆け寄りクモ女?との間に入る。

「ルカ! 下がっていろ!」

「ニコル!? なんでここに」

 後ろから左手を掴まれた。可愛い奴め。

 格好つけて登場したのは良いものの俺に戦う手段はない。

 どうしたものか。

 睨み合ったまま相手は動かない。

 だがその表情からは余裕が見て取れる。

 クモ女に人間の表情に相当するものがあるのかはわからないが、顔が人間な以上そう判断するしかない。

 相手は武器を持っていないことを考えると狩りとかそういったものではないのだろうか。

 そもそもクモ女の狩猟方法は? そもそも食べるために襲っているのか?

 いろいろ考えても仕方がないので逃げ切ることに集中しよう。

 そう思った時、クモ女が口を開いた。

「諦めて二人とも私のエサになりなさい」

 落ち着いている。

 明らかに勝ちを悟った時の言い方だ。

 もう足も疲れきっていて今から走っても逃げ切れないだろう。

 だいたいルカが逃げ切れない時点で俺が逃げ切れるはずがない。

 じりじりとクモ女は一歩一歩近づいてくる。

 一か八か、覚悟を決めるしかない。

「ルカ、合図をしたらどこへでもいい。全力で走ってくれ」

 小声でつぶやく。

 後ろから「うん」と聞こえた気がした。

 俺はさっき拾った靴を思いっきりクモ女の顔面にめがけて投げつけた。

「走れっ!」

 合図を出して、ルカが走り出す。

 俺も走り出した。

「子供のくせに!」

 追いかけてきているのがわかる。俺が捕まればルカだけなら逃げ切れるかもしれない。

 幸運なことにルカは足が速く、俺とは少し距離があった。

 ――足を止めたところで大きな衝撃が背中に走った。

 不自然に前に吹き飛ばされる。

 殴られた?

 地面を転がって木の根元にぶつかった所で意識が途絶えた。

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