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最終話 ゲーム終了後

最終話 ゲーム終了後


 そこは、つい先ほどまで拍手喝采に包まれていた。

 数多くのモニタが並び、それぞれのモニタから拍手が送られていたためだ。

 今は拍手も落ち着いている。

『博士、今回の出し物、非常に楽しめたよ。次回作とかの構想はあるのかい?』

 モニタの向こうから男の声がする。

「いやー、まだまだ色々見直すところが多かったですからねー。すぐには無理ですよ」

 白衣の男は、肩をすくめて言う。

 モニタの向こうからは、一方的な要求がバンバン飛んでくる。

 そもそも鬼の数が少なすぎたのではないか、もっと火力の高い武器を用意したらどうか、サクラをさらに用意して三つ巴にしたらどうか、フィールドがそもそも狭く無いか、逆に広すぎたのではないか、などなど。

 それらをすべて拾っていたのではキリがないので、『博士』は曖昧に頷きながら、それでも一つずつメモを取っていく。

 しかし、モニタの向こうの『観客』は大損したはずだった。

 このイベントで誰がクリア出来るかの賭けが行われていたのだが、クリア出来た四人はまったくノーマークの高校生だったのだから。結果としては万馬券どころではない倍率になっていた。

 まあ、ここの『観客』にとって、金銭はさほど問題ではないのかも知れない。

 一通り『観客』の相手を済ませると、モニタの映像は消え、部屋に静寂が訪れる。

「ふう、疲れますね。こういうのは」

 白衣の男は誰もいない空間に向かって呟く。

「お疲れ様でした」

 誰もいないはずの空間に、女性の声が聞こえてくる。

「ああ、戻ってきてましたか。もう擬態は必要無いですよ」

 白衣の男が言うと、何もない空間から半透明の、透き通る様な水晶で作られたかの様な女性のシルエットが、うっすらと浮かび上がる。

「想像以上に参加者が少なくて驚いたんですが、こんなモノなんでしょうかね? 聞いた事も無いようなご当地アイドルのイベントでも、もう少し集まっていたような気がするんですが。あんまり多過ぎるのも困るんですけど、ちょっと少な過ぎましたね」

「それは私には分かりませんが、良かったのですか? あれくらいの子供なら、わざわざゴールなどさせなくても、私が排除できましたのに」

「いえいえ、アレで良いんですよ。お客様はエンターテイメントを期待されてますからね。好まれるエンターテイメントは、やっぱりハッピーエンドですよ。実際に貴女が本気になったら簡単だったでしょうが、終わった後にあれほどの意見が出たという事は、お客様は満足しながらも次回の期待を寄せていたのですから、今後も支援していただけるでしょう」

 白衣の男は思いっきり伸びをする。

「スポンサー集めと言うのは、ちょっとした駆け引きなのですよ。全員に金を出させる事など不可能ですが、確実に数人から引き出さないといけない。なので、あえて改善点を見せて、お金を出してくれれば直せますよと説明しないといけないんです。その上で、納得させる必要があるので、難しいのですよ。今度は宣伝費もしっかり予算に入れておく必要もありますが」

 自分で自分の肩を揉みながら、白衣の男は苦笑いする。

「それに、お土産もありましたから。ちゃんと持って帰ってきてますか?」

「マスターのご命令でしたので」

 半透明の女性のシルエットの答えに、白衣の男は頷く。

 今回のイベントの本来の目的は、『博士』の作った生物兵器のお披露目だった。

 それぞれが視覚などの感覚を共有し、一体が学習したのを他のモノも学習すると言う特殊な能力もあった。

 それは巨大なゼリー、巨人、騎士、悪魔の四体の売りであり、『観客』も喜んでいた。

 そして最後の一体、他の四体に指示を出せる存在がこの半透明の女性であり、彼女が本格的にゲームに参加したのは、最初にゼリーを撃退した男女の時のみであった。

 その後も彼女はパーク内を移動していたが、奇妙な行動をとる高校生を見つけ、それをこの『博士』に伝えた。

 その高校生はパークに隠していたナイフを手に入れていたが、そのナイフで参加者を手にかけていったのだ。

 ゲームが滞らないように元パーク内スタッフの参加も認めていたし、参加者の中には自然な形で凶悪犯罪者も紛れ込ませていた。

 しかしその人物は建物の一ヶ所を占拠してお山の大将で満足していた。まあ、連続婦女暴行と殺人の容疑がかけられていた人物であり、その面目躍如ではあったのだが、その人物より高校生の少年の方が手際よく参加者を減らしていった。

 それは最凶最悪の鬼となるはずだった彼女の仕事を肩代わりするものであったが、余りの手際の良さに『博士』が興味を示したのだ。

 結果、彼が他の鬼より効果的に参加者の命を奪っている。

 これで余罪無しというのが恐ろしい話だったが、彼の技術があれば、鬼はより効率的に狩りが出来ると『博士』は判断し、半透明な女性に手助けは必要ないが、その少年を見守る様に指示した。

 終盤で彼はクリアした高校生に敗れ気絶していたが、焼け落ちる建物から彼女が回収してきたのである。

 今もクーラーボックスの中に入れてある。

「実に楽しませていただきました。今後も役に立ってもらいますよ?」

 クーラーボックスを開けると、そこには手足の無い少年が入っていた。

「あ、あんたは?」

 少年は意識が朦朧としているようだが、それでも自分を見下ろしている人物がいるのは分かったらしい。

「そうですね、立場的にはロキ、とでも名乗るべきなんでしょうね」

 白衣の男はクーラーボックスに入れられた少年に、笑顔で言う。

「君の思考には、とても興味が湧きました」

 白衣の男は頷きながら言う。

 この少年を調べたところ、よくある動物虐待などを行った形跡もなく、ごく真面目で地味な少年だった。

 それが突然、殺人鬼として目覚めたのだ。

 しかも最初は好奇心や快楽を求めての殺人だったのだが、しばらく時間が経つと完全に『鬼』としての立場や義務感から、参加者を淘汰し始めた。

 ついつい遊び心が働き、どこまでやれるかを見守る方向にシフトしてしまったのは、『博士』の立場を考えると失策だったかもしれない。

「次の機会の時には、君にもっと楽しんでもらい、私達を楽しませてもらわないといけませんからね。大人しくしていて下さい」

 白衣の男はそう言うと、クーラーボックスの蓋を閉じる。

 これからアースガルズというアトラクションパークで起きた事件は、しばらくの間、日本中を騒がせる事だろう。

 百人以上の死者を出し、生存者はクリアした四人以外に保護されたのは二名と言う大惨事。当然その責任者は罪に問われる事になるが、その罪を問われるべき立場の人間達はイベントの前に首を吊って死んでいたのが発見される事になる。

 そうして謎に包まれた事件として語られるだろうが、それも二週間も過ぎるとニュースの主役は芸能スキャンダルにとって変わられ、三ヶ月もすると事件の詳細を覚えている人間は激減する。

 白衣の男だけではない。

 モニタで一部始終を見ていた『観客』達も、それをよく知っている。

 だからこそ、次への準備も入念に行う事が出来るのだ。

「さて、それじゃせめてクリアした四人にはそれ相応のご褒美を上げないとね。終わった後も大変ですから、貴女にも手伝ってもらいますよ?」

「はい、マスター。私は今回、見てるだけでしたから。事務仕事くらい、お手伝いします」

「ははは、頼もしいですね。これから必要とされるのは、ただ強いだけの生物兵器ではありません。商品価値を高める為には、多様性が最重要ですから。最終的には未来の猫型ロボット級の兵器を作りたいですね」

 半透明の女性はクーラーボックスを肩に担ぐと、楽しそうに話す白衣の男とともに、長い廊下を歩いて行った。

 これにて『血塗れのラグナロック』は完結です。

 ここまでのご愛読、ありがとうございました。

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