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第十五話 スタート四時間四十分後

第十五話 スタート四時間四十分後


 司と塔子は三階へ上がる。

 一階と二階は何もない空間が広がっていたが、三階はそうではなかった。

「俺の部屋も大概ですけど、ここも凄いですね」

「志神君、部屋の掃除してないんですか?」

「たまにはしてますよ、親が」

 三階は一フロアで、奥にトイレと思われる扉がある。一階、二階は何も無かったのだが、引越しの際に出てきた不用品は片っ端から三階に放り込んだかのような、足の踏み場もない状態である。

 そんな中でも異彩を放っているモノが、三階の中央辺りに鎮座している。

「塔子さん、アレ何だと思います?」

「やっぱり、アレが目を引きますよね」

 同じ物を見ていた様で、塔子が言う。

 三階の中央付近に鎮座しているのは、どう見ても戦国時代の甲冑である。

 ゴミの中でも、悠然と座っている。結構高価な物のはずだが、このゴミ置き場と化した三階の中央でわざわざ座らせる様に組み上げられている。

「動いたりしないですよね?」

「鬼は五体で、四体は見て分かるって事だったんで、あの鎧は鬼じゃないと思いますけど」

 司はもう一度考えてみる。

 ゲーム開始直後に一体撃退され、巨人のトール、オーディンと思っていた騎士、空を飛び回るガーゴイル、参加者と同じ姿のナイフの男の五体。

 もしあの鎧武者が鬼だとしたら、見たらわかるタイプの鬼なのは間違い無い。

 それでも司は警戒しながら、甲冑に近づいてみる。

 コレが動くとかなり怖いが、さすがにそれは無かった。

 近くで見てわかったが、甲冑の下はマネキンなどではなくパイプなどを組み合わせ、その上に甲冑を着せているようだ。

「志神君、着てみますか?」

「暑そうだから、止めときます。塔子さんはどうですか? 歴史小説とか好きじゃなかったですっけ?」

「鎧は重そうですからね。でも、鎧があるって事は日本刀とかもあるんでしょうか」

 塔子は鎧を見ながら言う。

「鎧もそうですけど、日本刀って高級品じゃないんですかね? 少なくともコンビニでは売ってないし、家電とかみたいに簡単に買えるモノでも無いでしょうし」

「レプリカなんでしょうね。それでも結構高いんですけど」

 塔子としては鎧に興味深々らしく、細かく調べながら言う。

 日本刀か。

 司は三階のゴミの中を探してみる。世界一の切れ味を持つと言われる日本刀だが、ど素人の司が振り回しても、巨人や騎士を一刀両断に出来る訳ではない。

 しかも、見た目には物騒な武器で殺傷力も非常に高いが、日本刀も言ってしまえば鉄の塊なのでかなり重い。ナイフほどの利便性があるわけではないが、武器を持っているという安心感としては中々のモノだ。

 最悪の場合、杖としても使える。

「塔子さん、剣道やってたって言ってなかったですっけ?」

「私じゃないですよ。妹はやってますけど」

「じゃ、刀を見つけても塔子さんが使える訳じゃないんですね」

「竹刀と真剣じゃ相当違うと思いますよ?」

 塔子は兜を取ると、被ってみている。

 子供っぽい事してるな、塔子さん。超可愛い。

「やっぱり重いですね。帽子の代わりにはならないです」

 そりゃそうだろうと言う事を塔子は口にしているが、被った兜を脱ごうとしない。

「神無月の奴がパンツ見られたとか騒いでたから、この鎧着せますか? 少なくともパンツは見え難くなる」

「ああ、そうでした。神無月さんが、気を失った時に志神君がいやらしい事しなかったかしつこく聞いてくるから、パンツ見ただけって答えちゃって」

 塔子は申し訳なさそうに言うが、兜を被った女子高生は思いのほかコミカルである。

 夢乃と違って黒髪のせいもあるが、塔子は甲冑より十二単とかの方が似合いそうだ。

「神無月もあんなカッコしてて、細かい事言うよな。アレじゃ見ない様にするのが大変だっていうのに」

「仙堂君の気を引こうと頑張ってるんですよ。私、中学でも神無月さんと一緒だったんですけど、仙堂君と会ってから一生懸命ですよ。元々あんな感じで人を引っ張ったり、前に出る性格じゃ無かったですし」

「へえ、引っ張ってはいないと思いますけど、どんな感じだったんですか?」

「そんなに目立たない感じでしたよ。高校デビューを実践して、そこそこ身になったって感じで……」

 話している途中で、塔子は言葉を区切る。

「塔子さん?」

「志神君、コレって」

 塔子は鎧を剥がしながら、司を呼ぶ。

 塔子が見つけたのは、袋に入った鍵だった。

「鍵、ですね。ちょっと神之助達を呼びますか?」

 司はそう言うが、その必要も無く神之助と夢乃が三階に上がってきた。

「どうした? 何か来たのか?」

「やっぱり、下にいるのが怖くて」

 神之助が苦笑いしながら言う。

 司や塔子と一緒にいても特に何か変わると言う事はないのだが、人数が多い方が安心出来るのは疑いようがない。

「って、虚無、あんた何してるの?」

「何って、三階を調べてるんですけど?」

「いや、その兜の事よ」

「ああ、コレですね。被ってみますか?」

「嫌よ」

 塔子は兜を脱いで夢乃に渡そうとするが、夢乃は嫌がっている。

 まあ、自然といえば自然な反応である。

「でも、それ被ってればちょっとは存在感があるわね」

「ホントに?」

 何故か塔子は物凄く嬉しそうな表情である。

 別に褒めてるわけではないようだが、塔子は褒められたと思っているのだろう。

「でも塔子さん、外に出るときにはソレは置いていくんですよね?」

「残念ですけど、そうなりますね」

 司が尋ねると、本当に残念そうに塔子は言う。

 そのまま出ていこうとは本人も思っていなかったのは救いだが、念を押さなかったとか、こう言う状況でなかったら甲冑一式を身につけて外をウロウロしていたかもしれない。

 そうすれば、文芸部の女子が夢乃を中心になんだかんだと言っていたはずだ。ソレを司や達哉は少し離れた所から見ていただろう。

 もう二度と戻らない日々。少なくともそのメンバーの内、二人はすでにこの世にいない事を確認してしまったのだから。

「そうだ、神之助。鍵は持ってたよな?」

「うん。それがどうしたの?」

「コレと比べて見てくれないか」

 司は塔子から鍵の入った袋を受け取り、それを神之助に渡す。

「司くん、コレ、どうしたの?」

「ついさっき塔子さんが見つけたんだよ。袋から出して直接触れない限り、アナウンスはされないみたいだ」

 司に言われて神之助は頷くと、神之助と夢乃は袋に入った鍵と前に見つけた鍵をじっくり比べている。

 その間にも、司と兜を被り直した塔子は三階のゴミの中で利用出来るモノが無いかを探していた。

 しかし、古い雑誌や新聞、割れた食器、カラになった洗剤の容器などゴミとしか言い様がないモノばかりである。鎧がここに置かれていたのは、主催者側がせめて鍵くらい見つけてもらおうという配慮かもしれない。

「塔子さん、そっちには何かありましたか?」

「ありませんね。せめてバナナくらいあれば、と思ってるんですけど」

 バナナにこだわるのは良いが、ここで見つけたバナナは確実に腐っているだろうから、匂いもキツいだろうし、出来れば触りたくないと司は思ってしまった。

 この際、割れた皿を投げつけてみるか。

 司がそんな事を考えていた時、足元に黒くて長そうな物を見つけた。

 ゴミの中に紛れるには妙に艷やかな色なので、司はソレを拾い上げてみる。

 それは鞘に収められた刀だった。

「と、塔子さん、コレって」

「志神君、刀ですか? ちょっと抜いてみて下さい」

 兜を被った塔子が、ゴミをひょいひょいとかわしながら司のところに来る。

 鎧の時といい刀といい、塔子はこういうモノが好きらしい。

 司は鞘から刀を抜いてみる。

 鈍くはあるが、光る刀身は明らかに新品の輝きである。当然ながら日本刀で何かを切る必要に迫られる事などないし、その場合にも日本刀を使うよりナイフの方が扱いやすいはずだ。

「太刀ですね。でもコレ……」

 塔子は司の持つ刀を見ながら言う。

「塔子さん、どうしましたか?」

「さすがに本物じゃないみたいですね。多分、模造刀ですよ」

「モゾートーって?」

「なんちゃって刀です。基本的にはジュラルミンとかで出来てて、刃は付いてないですから切れないんです」

「マジっすか?」

 司は刀身を見るが、見た感じはよく切れそうだ。

 試し切りの対象を探していた司は、足元のダンボールを切ってみる事にした。

 グシャッとダンボールは変形して、その後司はさらに引いてみたが、それでダンボールは他のゴミに引っかかって破れる。

 まったく切れていない。

「これって、そう言うモノなんですか?」

「刃が付いてなければ、そんなモノですよ」

 司はビビリながらでも刀の刃を指で触れてみるが、やはり切れそうにない。

 ただし、考え方によってはそこまで悪くない。

 刃物を振り回すのは熟練していても使用者側の精神を著しくすり減らすが、模造刀の場合、見た目は刀だが実質的には木刀みたいな物である。

 巨人や騎士との戦闘には見た目と違って頼りないが、ガーゴイルやナイフの男を撃退する時には役に立つかも知れない。

 しかし、コレに頼らないといけない事になったら、その時点でかなりアウトでもある。

「司くん、鍵だけどうわっ」

 神之助は刀を持っている司を見て驚く。

「ああ、何か分かったか?」

 司は刀を鞘に収めながら尋ねる。

「つつ、司くん、今の凄いカッコよかったから、ちょっともう一回やって」

「いやいや、チャンバラ以外の何者でもないだろう」

 司はそう言いながらも、刀を鞘から抜く。

 太刀は刀身が長いとはいえ、無理に素早く抜こうとしない限り刀を抜くのに困る事は無い。しかも今は左手に鞘を持ち、右手で刀の柄を持っているため抜くのはごく簡単に抜く事が出来る。

「うわ、抜くのもカッコイイ!」

「神ちゃん、アレはカッコ良くは無いわよ」

 司に見とれる神之助に、夢乃は呆れながら言う。

「ところで鍵の事で何か気付いたのか?」

 司は刀を収めながら神之助に尋ねる。

「うわー、司くん、刀とか凄いカッコイイよ! コレで鬼が来ても退治出来るね!」

「無理無理。コレ模造刀だし、俺、剣道とか居合とかやってないから」

「模造刀なの? じゃ役に立たないわね。凡にはお似合いよ」

「だな。お前に譲ろう」

 司は刀を夢乃に渡そうとするが、夢乃は受け取ろうとはせずに神之助の後ろに隠れる。

「何だよ、役に立たないお前にもお似合いだと思うんだがな」

「仙堂君、鍵がどうしたの?」

 塔子が今度は兜では無く、篭手を持ってやって来る。

 兜より持ち運びやすく、しかも効果が高い部位である。というより、何としても鎧を手放したくないみたいだ。

「そう、鍵なんですけど、コレまったく一緒とは言えないですよ」

 神之助は袋の方の鍵と、先に見つけた鍵を比べる。

 見た目には全く同じに見える。少なくとも司には違いが分からない。

「見た目には全く一緒だけど、鍵って品番が彫られてるだよ。で、この鍵両方ともその品番を消す様に削られてるんだけど、よく見て」

 神之助の言葉に、司は鍵をよく見る。

「この鍵、品番が削られてるけど、少し残ってる数字の名残が明らかに違うモノっぽいんだよ」

「それって、どう言う事だ?」

「見た目にまったく同じ鍵穴であっても、鍵が違うんだよ。しかも鍵の根元の品番を削ってるから鍵自体の耐久力も落ちてるんだよ」

 神之助はそう言うと、司を見る。

「最初に鍵が破損したと告げたのは、多分ソレに気付かずに鍵を回そうとして折れたんだと思う」

 神之助に言われて、司は鍵の裏側の根元の所を見る。

 よく見ると確かに後ろの方の数字が、先に見つけた鍵は上部に丸くなっているモノが見れる。『3』や『8』、『9』の様な数字だろう。一方の袋の方の鍵は『1』と思われる直線の名残が見て取れる。

「と、言う事は横山さんが持ってた二本も別々の鍵って可能性もあるんだ」

「そうなるね」

 司の質問に神之助が頷く。

 鍵はコレで五本目か。アナウンスがあったのは三本だけ。ひょっとすると他の鍵も同じ様に、袋の状態で参加者の誰かが持っているかもしれない。

 司は鍵を神之助に返す。袋の方は塔子に返そうとしたが、それも神之助に預ける事にした。

 塔子は双眼鏡を手放そうとしない上に、今では篭手まで持っている。司も模造刀を持ち歩く事になったので、小物は神之助が受け持つ事になった。

 夢乃に持たせるよりはマシと言う事で、司も納得した。

「だとすると、最初の鍵の破損場所に行ってみたいな。何かヒントがあると思うし」

「でも、場所にヒントが無いよね? どこを探すの?」

 神之助が首を傾げる。

「俺達があと見てない場所は、東側区画を除くと北側と北西、西側くらいだ。そこを見る必要があるな。塔子さんには引き続き空の警戒をお願いします」

「わかりました。でも、鍵穴に鍵の先が詰まっているかもしれませんよね。何かしら取る方法を考えないと」

 相変わらず塔子の指摘は鋭い。

「テープとかヘアピンとか、そういうのがあれば役に立ちそうだな。神之助も探してくれ」

「うん。わかった」

 神之助も三階の捜索に加わろうとした時、外から重い音と歓声の様なモノが聞こえてきた。

「何だ?」

 声を出したのは司だったが、四人とも三階の窓の方へ移動する。

 ここもカーテンなどの目隠しはないので、外からは丸見えである。なので、司と塔子、神之助と夢乃はそれぞれに分かれて身を隠しながら窓から外を見る。

「マジか。スゲーな」

 司は南側を見て呟く。

 中央広場付近で六人の参加者が巨人トールの足をロープの様なモノで縛って倒しているところが見えた。

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