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第一話 スタート前

 こう言うイベントは絶対に有り得ません。

 深く考えると負けですので、さらっと楽しんで下さい。

 ホラーに分類してますがホラー要素はかなり少なく、アクション要素の方が強めです。

第一話 スタート前


(俺はなんでこんな所に来たんだろう)

 船に揺られている時から、彼、志神司は思っていた。

 やって来たのは、今月を最期に閉鎖が決まっているアトラクションパークである、アースガルズ。

(もうねー、名前からアレだからねー。しかもイベントの名前も『ラグナロック』ときたもんだよ。もうねー、何て言うか、金メダリストとはニュアンス違うけど何も言えねーって感じでさー)

 もし隣に友人の仙堂神之助がいたらずっと愚痴っているところだが、残念だが神之助の奴は他の文芸部の女子共に囲まれている。

(大体さー、文芸部の活動でラグナロックに参戦ってどうなのさー。あのクソ野郎が顧問とかじゃなければ、ぜってー来てねーのになー)

「志神君、つまらなさそうですね」

 中央広場の電波塔の下に座っている司の近くに、一人の女子生徒がやって来る。

 彼女は文芸部でも群を抜いた愛らしさと、それを数倍凌駕する存在感の無さという、相反する特徴を持ち合わせる奇跡の少女、神野塔子である。

(塔子さんがいる事だけが、救いだよなー。大体塔子さんがいないと、俺が文芸部にいる意味は三百%無いもんな)

 司としては、塔子の存在感の無さと言うモノはわからないのだが、周りの面子が言うには、塔子は目の前で話していてもいるかいないか分からないらしい。

 そんな馬鹿な、と司は笑うが神之助も時々塔子の存在を忘れると言う。

「塔子さんは楽しみ?」

「コレ、ですか?」

 塔子は苦笑いしながら、ゼッケンと共に渡された『ラグナロック』のルールが書かれたプリントを見る。


『この度はラグナロックに参加していただき、誠にありがとうございます。

このゲームは、パーク内に隠された鍵を見つけ、その鍵を使ってパークから出る事が出来れば、超豪華賞品を差し上げます。

 ここに細かいルールを記しますので、ゲーム開始までにご一読下さい。

○ラグナロック参加者は、必ずゼッケンを付けて下さい。特殊な機能がありますので、一度身に付けたゼッケンを外すと失格になりますので、外さないで下さい。

○鬼にゼッケンを触れられた時点で失格になります。

○鬼はパーク内に五匹います。

○鬼は参加者の皆さんの行動を見て、どんどん学習して行きますので、隠れるのは難しくなります。

○鍵はパーク内に九本あります。

○出口は全部で三ヶ所あります。

○五体の鬼の内、四体は一目見て分かる様になっています。

○勝者となった方はゼッケンを返却していただきます。

○重要情報はアナウンスでお知らせいたします。

超豪華賞品をご用意しておりますので、皆様頑張って下さい』


 この超豪華賞品というモノに、顧問の梶山が釣られたのだ。

 しかも一人で釣られていればいいのに、文芸部まで巻き込みやがった。

 さらに言うなら、梶山の野郎は入場料プラス参加費の三千円、部員全員分を出したかわりに勝者となった者は必ず先生のお蔭で参加できた事を形として表すように、と教師とは思えない事を言いやがった。

 不思議な事にこの事に激怒したのは司だけで、塔子や神之助込みでそこは仕方ないんじゃない? という結論を出していた。

 その上、このイベントに参加しない者は内申書にはすっごい事を書いてやる、と教育委員会に伝えたらどうなるか楽しみな脅しまでかけてきた。

 夏休みももうすぐ終わる八月三十日。八月最後の日曜日。進学校ではもう夏休みが終わっているところもある。

 このアースガルズも最後の日曜日に、黄昏の名のイベントを起こす事になっていた。

「志神君、このゲームってつまり鬼ごっこですよね?」

「鬼ごっこって言うよりは、かくれんぼって感じかな? スニーキングミッションってのが一番しっくりくるけど」

「スニー、何?」

「スニーキング。コソコソ行動して、見つからない様に行動するって事」

「なるほど、そんな感じですね」

 塔子はプリントを見ながら言う。

 塔子と司は文芸部のメインの塊から少し離れた所で話している。

 メインの塊の中心にいるのは、いつも神之助と夢乃の二人であり、その周りを他の文芸部が取り囲んでいる。

(女子共め、お前達は本当の神之助を知らないんだ。そいつはな、毛虫を投げつけられてリアルに「きゃっ」って悲鳴を上げる奴なんだぞ? ぶっちゃけ他の女子より可愛い悲鳴を上げるやつなんだからな)

 と思ったりしてみたが、そんな事を考えていても虚しくなるだけだったので、せめて目の保養に塔子の横顔を盗み見る事にした。

 超可愛い。

 長い黒髪ロングに長いまつげ、大きな瞳に柔らかそうな唇。Tシャツにジーンズという無造作な服装だが、それだけに身長こそ高くはないがスタイルの良さも透き通る様な白い肌も際立つ。

(梶山、塔子さんと過ごせると言う事だけは感謝してやろう)

 司が文芸部に入っている九割八分は女子に会う為であり、さらにその八割以上は塔子に会う為と言って良い。

 塔子は群を抜いた美少女であり、文芸部一の美少女を自称する神無月夢乃と比べると、清楚で透き通る様な透明感がある。

 それが存在感の薄さらしいのだが、その塔子の魅力が分からないなど、高校生活の大半を損していると司は思っている。

「鬼って、こう言う奴でしょうか?」

 塔子が中央広場にある三メートル程の大きさの像を見上げて言う。

 仁王の様な像だが、バカみたいにデカいハンマーを持った厳つ過ぎるオッサンの像である。

 入口には二体の羽根帽子を被り、槍を持った女性の像が立っていた。

「これは雷神トールだよ」

 司と塔子の所へやって来たのは、文芸部の三人の男子の一人、鈎先達哉である。

 猫背のせいで身長は分かりにくいが、平均的な身長の司より少し背が高いだろう。

 眼鏡でいかにも文芸部ではあるが、基本的には温厚な性格でもある。他の女子から囲まれている神之助と違って、司と達哉はまったくチヤホヤされる事も無い。

「アースガルズって言うくらいだからね。入口の像はヴァルキリーで、これは雷神トールをモデルにしてるんだと思うよ」

「へえ、ギリシャ神話か何かか?」

「北欧神話だよ」

 司の言葉に、達哉は苦笑いする。

「志神君、文芸部なのに本読んでないですもんね」

「読んでますよ、塔子さん。心外だなー」

 達哉と塔子にからかわれて、司は困り果てる。

 そもそも文芸部には塔子に会いに行ってるのだが、それは伝えていない。

 このアースガルズと言うパークは、特殊な磁場が発生しているそうで、司達がいる中央広場の電波塔の近くでないと携帯などの通信機器が使えない。

 その電波塔を守る様に、ハンマーを持つ像が立っているのを、司は改めて見る。

「でも、これが動いたら嫌だな。ハンマーとかで殴られたら怪我じゃ済まないよなー」

「何か、そう言う都市伝説はあったよね?」

 達哉が笑いながら言う。

 都市伝説の宝庫であるこのアースガルズでもっとも有名なものが、このパークに点在する像は時々動いているので、位置やポーズが変わると言うものである。

「でも、これはスニーキングミッションだから、これだけ大きい上に目立つなら、逃げたり隠れたりは難しくないよ」

「なるほど、鈎先の言う通りだな。その調子で鍵もどこにあるか予想出来ないか?」

「さすがにそれは無理だね」

 達哉は笑いながら首を振る。

「でも、文芸部は部員が十一人、顧問の梶山先生とその彼女さんの全部で十三人もいるんだし、さっき見た限りでは参加者は百人ちょっとだったから、全参加者の一割は文芸部なわけだし、確率論で言えば九本の鍵の内一本は手に入りそうだけどね」

 達哉はルールを見ながら言う。

「それは人数をフルに活かした場合だよな。つまりあの連中も、一人分に入ってるって事だろ? それは無理じゃないかなー」

 司は少し離れた所にいる、神之助達のグループを見る。

 グループと言っても、十一人の文芸部の内八人で作っているグループなので、司達の方がマイノリティーである。

「おーし、ガキども、全員いるか?」

 誰が見ても体育教師である、白いランニングの筋肉ダルマで腹が立つほど白い歯の爽やか気取り青年、文芸部の顧問である梶山教諭が声をかけてくる。

 今年三十歳だが、ついに長年の恋人である室田綾子と結婚が決まったらしい。

 今回のイベント参加は、その結婚資金を稼ぐためというのが、文芸部の間で噂されている。

「ここに来る時にも言った通り、鍵を見つけた者はまず先生に報告する様に。また、クリア出来ると思ったらクリアしてくれても構わないが、その時はくれぐれも先生が参加費を出したお陰と言う事を忘れずに、謝意と誠意を形として表すんだぞ」

 梶山はそう宣言し、その隣りにいる小柄な女性、綾子は恥ずかしそうに俯いている。

「梶山もなー、冗談で言ってるんなら面白味もあるんだけど、アイツはガチだからなー」

「悪い意味で裏表の無い人だからね」

 司と達哉の言葉を、塔子は苦笑いしながら言う。

「それじゃ、各員、健闘を祈る」

 梶山と綾子の二人はその言葉の後、勝手に移動を始める。

「鈎先はどうするんだ? 真面目にラグナロックやるのか?」

「まあ、せっかく来たんだし。それにこのルールなら、こっちも勝算はありそうだからやってみるよ。そっちはどうするの?」

「私、こう言う宝探しみたいなの、小学生の頃以来なんでちょっと楽しみです」

「ですよね、塔子さん。俺もですよ」

 実に調子よく司が言うので、達哉は呆れた様に笑う。

「それじゃ、俺はさっそく探してみるよ」

「鈎先、参考までに聞くがどの辺りを探すつもりだ?」

「そうだね、隠すとしたらまず間違いなく西側区画だろうから、北回りに西側区画を回って探してみるよ」

「了解、少しでも効率良くするために俺達は西側区画の中心辺りを探してみるよ。ねえ、塔子さん?」

「そうですね、上手く見つかったら、皆で美味しいモノでも食べましょうね」

 塔子が笑顔で言うと、達哉は笑顔で頷くと宣言通り北周りに西側区画を回るためか北へ向かって歩いていく。

「塔子さん、俺達も行きますか」

「そうですね」

「司くん、何処に探しに行くの?」

「この私も協力してあげるんだから、感謝しなさい」

 達哉と入替りに司達の所へやって来たのは、司にとっては信頼出来る友人である仙堂神之助と、文芸部の絶対女王を気取る神無月夢乃だった。

 ここに集まった四人が、文芸部の四神と言われているメンバーである。

 と言っても、そんな事を言って広めて楽しんでいるのは夢乃だけで、その取り巻きは楽しいだろうが、司はちっとも楽しくない。

 四神というのも、それぞれが名前に『神』が入っているというだけのこじつけで、夢乃は自らを女神と称している。

(バカじゃねーの?)

 と言いたいのを、司はぐっとこらえている。

 確かに夢乃は美人である。と言うより、ぶっちゃけるなら、エロい。それはもう、相当エロい。茶色い長い髪も厚めの唇も無駄にデカい胸も、女神と言うよりエロエロピンクの二つ名の方がしっくりくる。

 清楚で無色透明感の強い塔子と比べると、それはそれはピンクのオーラが出まくっている。

 神之助は、文芸部でも塔子、夢乃に劣らない愛らしい男の娘である。

 正真正銘の男子生徒である事は、幼い時から司は知っているのだが、最近になって女らしさに磨きがかかっている。

 文芸部での通称はショタ神。

 ちなみに塔子は虚無神、司は凡神と言われている。

 これはもう、イジメでは無いかと思うのだが、はっきり言えば夢乃が一人ではしゃいでいるだけで相手にしていない、と言うのが正直なところである。

「司くんが真面目に取り組むんだったら、このゲームもすぐに終わっちゃうね」

 神之助がにこやかに言う。

 超可愛い。

 けど、残念ながら、コイツは男である。

「いやー、俺が頑張っても鍵が見つかるとは限らないだろ。ダウジングでもするか?」

「馬鹿なの? 凡はそんなので鍵が見つかると思うくらい馬鹿だったの?」

 夢乃が汚物を見る様な目で、司を見る。

「志神君、ダウジングは水源を見つけるものよ?」

「いや、塔子さん、その通りではあるんですけど、そう言うツッコミは拾いづらいです」

 司は言うが、塔子は首を傾げている。

「うわっ、虚無いたの?」

 夢乃は本気で驚いている。

 意図的に無視していたのであればイジメなのだが、本当に塔子の存在に気付いていなかったらしい。

 それはそれでイジメな気もする。しかも虚無って。

「ずっといたよ。少なくともお前達より前からここにいるぞ」

「まあまあ、司くん。鍵を探しに行くんだよね?」

 司と夢乃の間に神之助が入ってくる。

「神ちゃん、私と鍵を探さない? 凡と虚無じゃ役に立たないわよ?」

(確実にお前よりは役に立つけどな)

「何か言った?」

 口に出していなかったにもかかわらず、夢乃が司を睨んでくる。

「小さい物でしょうから、目は多い方が有利ですよ?」

 二人っきりで行動したいと思っている司と夢乃にとって、絶望的な正論を塔子が言ってしまったので、結局四人で行動する事になった。

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