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鍛錬場で剣の稽古をしていたグレーとグランは、同じ騎士隊の男が話している言葉を耳にする。
「マジだって。フラン姫に気に入られたら逆玉じゃん?だからさ、手紙出したんだけどよ、返事がスゲー酷いんだよ。ありゃあ、ないな。」
興味深い話に、グレーは男の背後にそっと立つ。
「……姫様の悪口には気を付けろ。ラグ王子の耳にでも入れば首が飛ぶぞ。物理的に。」
「うわぁ!……って、グレーかよ。驚かすなよ。」
恨めしそうに睨んでくる同僚に、グランは馬鹿にした様に鼻で笑う。
「簡単に背後をとられる方が悪いんだろ。」
「まぁ、気配を察知出来ないのにこんな公の場で姫様の悪口を言うんじゃないな。……で?姫様の何が酷いんだ?姫様は人前に姿を現さないだろう、いつ会ったんだ?」
「いや、公の場で姫様の悪口は駄目なんじゃなかったのかよ……。」
その同僚の言葉に、グレーはニッコリと笑う。
「大丈夫だ。今は僕とグランがいる。おまえと違って、僕達は首が飛ぶ様なヘマはしないぞ?」
「さり気に自慢かよ……。まぁ、良いか。いや、昨日さフラン姫に手紙出したんだよ。姫様は公の場には出てこないし、一時流行った方法でコンタクトを取ってみたんだけどさ。」
「一時流行った手紙……あぁ。」
呟いて、グレーは納得がいったと頷く。
それは、どこか遠い島国の一冊の本からだ。
好きな女性に手紙を送り、その女性がその手紙の内容を気に入ったら返事を返しとお互いの顔を知らないままに文通をし愛を育むという内容が一時女性の間でロマンティックだと流行ったのだ。
そして、男共はその女性の流行に便乗し手紙を手当たり次第出したという。
「でもたしかコレ、馬鹿な男共が手当たり次第書きまくったせいで、女性陣が怒ってすぐに廃れただろう。」
「あぁ、でも姫様は知らない。それに、こうでもしないと姫様に近付けないからな。でもな、あの返事はねーわ。」
その言葉に、グレーは以外だと少し驚く。
「へぇ、返事が返ってきたのか。つまり脈有りだろ?何がないんだ?」
「どうせあれだろ。私に手紙なんて100万年早いわとか書かれてたんじゃねえの?」
「いやいや、それならまだあれだけど……。俺さ、姫様を花にたとえて綺麗ですねって事を書いたんだけどさ。」
それはまたベタなと思いつつ、グレーは先をたす。
「そしたら、姫様から、私もお花は好きです。特にちっちゃいのが好きですって感じの返事が返って来てさ。」
「…………何それ、まんまじゃん。」
ポツリと呟いたグランの言葉に、「そうなんだよ!」と男は力説する。
「信じられるか?たとえが分かってないんだぜ?!俺でも分かるのに!!姫様頭悪ぃんだよ。さすがにあれはないわ。」
男はそれだけ言うと、稽古の続きをしてくると走って行ってしまった。
「あー……。そういや、俺他にもそんな話聞いた事ある様な気がするな。姫様は教養のないアホだって。」
他にも手紙を出した奴がいたのかなと言うグランに、グレーは少し考えてから1つ頷いた。
「よし、僕も手紙を出してみよう。」
「は?グレー聞いてた?そんなアホみたいな返事が返ってくるんだよ?!」
「だがグラン、こうも考えられないか。姫様はとても頭が良いんだ。だから、こう言ったアホ共の相手をしてられないとアホのフリをしているとか。」
「ああ、なるほど。」
たしかに、いちいち相手にしてられないし無視してもしばらくはウザイくらい手紙が届いたりするだろう。
なら、1度アホのフリをして手紙を返せば相手が幻滅して手紙も途絶える。
そして、姫がアホだと噂が独りでに歩き回ってくれたら他のアホの牽制にもなる。
「……賢いやり方だよね。」
「そうだな。それに、そんな変な手紙なら僕は貰ってみたいな。面白そうじゃないか。」
「そうだね。グレーは変な女好きだもんね。」
「普通だと面白くないだろう。それに、姫様には前から少し興味があったしな。隠されると見たくなるのが人の性だ。」
そうしてグレーはその日の夜、フラン姫に手紙を出してみるのだった。