5
グレーとグランは手の中の宝石を見て、頷き合った。
「どう見ても、本物だな。」
「間違いないよ。小さいけど、結構な値打ち物だよ。」
「返して~!!それは、おじいさんにあげるの~!!」
ぷきゅーっと頬を膨らませ、一生懸命飛び跳ねながら両手を伸ばしてくる少女を無視し、グレーは老人を見た。
汚い身なりに、ガリガリに痩せた腕や足。
ここ、フルー国は気候も穏やかで住みやすい土地だが、決して裕福な国ではない。
こういう難民は珍しくもないし、情けをかけているとキリがないのだが……。
グレーは懐から銅貨を一枚取り出し、老人に投げる。
「それで何か買え。」
そう言えば、老人は投げられた銅貨を慌てて懐に隠し、そそくさと逃げていった。
「あ!おじいさん!!」
同じく、それを慌てて追いかけようとしている女の子を捕まえ、グレーは大きな溜息を吐いた。
「君ね。駄目だよ、ああいう人に関わっちゃ。」
「やっ!はなして、おじいさん追いかけるの!!」
ブンブン腕を振って抵抗する少女に、グレーはもう1度溜息を吐く。
「あのね、どこの家の子かは知らないけど早くお家に帰りなさい。ほら、この宝石もポケットにしまって。」
「それ、おじいさんにあげるの!!」
「……うん、だからね。僕の話聞いてた?」
「駄目だよグレー。こいつ、馬鹿だよ。」
グランの言葉に、グレーは更に溜息を重ねる。
「良い?あのおじいさんにこの宝石をあげるでしょ?そうしたら、おじいさんはそれを持って質屋に行く。すると、この宝石をどこで盗んで来たんだとおじいさんが責められ下手すると捕まっちゃうんだよ。わかる?」
小さな子供に言い聞かせる様にそう言えば、少女は暴れるのを止め、グレーを見上げる。
「おじいさん、怒られちゃうの?」
「そう、怒られちゃうの。さっき僕がおじいさんに銅貨をあげたから、あのおじいさんはそれで何か買って食べて元気になるよ。良かったね。」
正直、銅貨一枚でどうにかなるはずもないのだが、とりあえずこの少女を納得させる為にグレーはそう言った。
「そっか。……ごめんなさい、後教えてくれてありがとう。」
少女はそう言うと、グレーとグランに手を振り、街の中に消えていった。
「……また、えらく世間知らずのお嬢様だったな。」
グランの言葉に、グレーも頷く。
「そうだな。あの宝石といい、身なりといい、どこか良いところのお嬢様だとは思うけど。」
「つか、良いところのお嬢様は教養をちゃんと身に付けてるだろ。あれ、相当頭悪いよ。」
たしかに、上流階級の人間程教養や礼儀作法などはうるさく躾けられているだろう。
だが、さっきの少女に教養はもちろん礼儀作法も身に付いてるとは到底思えなかった。
「……うん。胸かな?」
「は?」
突然意味の分からない事を言い出したグレーにグランは首を傾げる。
「何だ、グラン。おまえ見てなかったのか?さっきの子、おっぱい凄く大きかっただろ。きっと脳へいくはずだった栄養も全部あのおっぱいが持っていったんじゃないかな?」
至極真面目な顔でそう言うグレーにグランは呆れた目を向ける。
「……むしろ俺はどこ見てたんだよって聞きたいよ。」
「だから、胸。おっぱいだ。というか、あの胸には目が行くだろ。男なら誰でも見るぞ。飛び跳ねていた時なんかぷるんぷるん揺れて良い眺めだったろ。」
「そんなとこ見てないよ!!」
本当にどこを見てたんだと真っ赤になって怒るグランに、グレーは信じられないものを見る目でグランを見た。
「おまえ……、あのおっぱいを前に目がいかないとか……本当に男か?」
「男が誰も彼も皆グレーみたいにエロイ訳じゃないんだよ!」
「そんな事ない。誰も彼も皆エロイんだ。断言してもいい。」
キッパリハッキリと言い切るグレーにグランはガクーッと脱力する。
「ていうか、グレーは胸より足好きじゃなかったっけ?」
「そうだな、胸より足のが好きだ。でも胸も好きだぞ。当たり前じゃないか。」
「……はぁ。」