私の戦い、私の誓い
この娘は幼い頃、先代の魔法少女であった母を目の前で亡くし、戦う意思を引き継いだ少女です。
身体的特徴は、全体的に小さく、それがコンプレックス気味で、背が伸びる方法をよく模索しています。
また、毎日牛乳一杯といった習慣のせいか、若干胸がほかの子より膨らんでいます。
年齢は高校一年生ですが、見た目は上記の通り幼いので、違和感が拭えません。
そして、好きな物は母親が作ってくれたハンバーグ。
高校生にもなって笑顔でパクつくその姿は容姿も相まって子供その物。
クラスではマスコット的な位置です。
高校生の魔法少女。だけど容姿のせいで全然違和感がない。
逆に高校生という設定に違和感を覚える内容となっています。
では、課題ついでに書いた速作の代物ですが、お楽しみください。
【楓】
「んっ……くうぅ~~っ!!」
お庭で毎日の習慣である背を伸ばす運動。
お父さんに頼み込んで買ってもらった健康ぶら下がり機器は、
今の私にとって無くてはならない相棒になっている。
少しでも身長が伸びるように、
真剣に祈りながらただひたすらぶら下がその様は傍から見たら、
私が日干しされている哀れな存在に見えるかもしれない。
【楓】
「うぅ~……っっはぁ。
も、もう少しぃ……!」
そんな気持ちを抱きながらぶら下がり始めてから
約30分くらい経って、私の腕は限界を迎え始めていた。
けど、ここで自分に甘えたら負けだと思っている私は、
なんとかあと数分、数秒でも耐えようと全神経を腕に集中させる。
「ふんっ、ふぬ~!」
それでも私の腕は本当に限界なようで、
ぷるぷると痙攣し始める。
その痙攣に合わせるように、私は両足をばたばたと動かし、
ここぞとばかりに最後の悪あがきをしてみる。
集中が腕から足にそれたのがよかったのか、
腕に少しの余裕が生まれる。
【楓】
「あっ、これなら……」
と、絶望から一転して希望が生まれ始める。
もしかしたら今日だけで私はきっと、
30cmは伸びるかもしれない。
そんな期待に心躍らせる私だったが――
【楓】
「…………やっぱりもうダメ、みたい……」
どうやらその希望も呆気なく粉砕してしまう。
もう少し粘ってくれないかな私。
今日はもう無理だと判断した私は、
足元にセットしてある踏み台に足をおろそうとする―――が、
いい加減地面が恋しくなった私の足は、虚しく宙を彷徨わせる。
【楓】
「あ、あれ? ふ、踏み台がない!?」
夕焼けで赤く染まっている空を見上げていた顔を
下のほうへと向けてみる。
けど、そこには踏み台なんてものは
最初から存在しなかったかのように何もなかった。
【楓】
「え? えっ!? なんでっ!?」
何度も瞬きをして見返すが、やっぱりどこにもない。
左右を見ても見つからない。
【楓】
「あ、あぅあぅ……!」
そろそろ本気でヤバいと思い始める私。
【楓】
「~~っ! ……あッ!」
もう一度横を向く。
すると、窓ガラスに映っている何かに私は違和感を覚えた。
【楓】
「んっ、ん~?」
目を凝らして必死にその何かが、何なのか判断しようとする。
そして、その結果……、
【楓】
「あぁっ!! 踏みだ――きゃあッ!!!」
私は盛大に尻餅をついた。
【楓】
「はぁ、今日は厄日だよぉ」
盛大に打ちつけたお尻を押さえながら、自分のお部屋に入る。
結局、窓ガラスに映っていた違和感は後ろのほうに倒れている踏み台だった。
うぅ、そんなの気づかないよ~……それに、
【楓】
「時間も……30分だと思ってたのに……」
実際には5分も経っていなかったのを、
壁に掛けてある時計でもう一度確認して落胆する。
【楓】
「今日は頑張れたと思ったのになぁ」
一度成功したと思ったことが、
実は失敗でした、なんてことがあると、余計に気分が滅入る。
私は頭から体をベッドにダイブさせて、
枕に顔を埋め息を止めて思案する。
この気持ちを紛らわすためにはどうするか……?
その答えはすぐに見つかった。
【楓】
「~~っはぁ。出てきて、氷竜、紅竜」
枕から顔を上げ、止めていた分の酸素を吸い込みながら、
その答えを口にする。
その言葉が呪文の役割のように、私の声に反応して
首からかけているペンダントはまばゆい銀色に光りだす。
そして、その光が部屋中に広がり、
再びペンダントへ集束すると、
私の頭上に氷竜と紅竜は姿を現した。
【氷竜】
「んもぅ、何よぉ、急に呼び出したりなんかしちゃってぇ」
【紅竜】
「どうした、何かあったのか?」
二匹の竜によって違う反応を示す、
その姿を見て、少し申し訳ないという感情が生まれる。
【楓】
「あ、ご、ごめんね。
ただちょっと、お話がしたいなぁ、なんて思っちゃって」
ベッドに座る姿勢を取りながら、私は二人に謝る。
そうだよね。
やっぱりこんな事で呼び出しちゃうのは可愛そうだよね。
すると……
【氷竜】
「えぇ~、ちょっと楓。
そんな事のために私を呼び出したのぉ?
しょうがない娘ねぇ」
【紅竜】
「なぁんだ。そんな事か。
俺は別に構わないぜ?」
と、まぁ二匹はまたもや違う反応を示す。
うぅ、紅ちゃんはやっぱり優しいよ。
【氷竜】
「まったく。アンタはこの娘に甘すぎよ?
まぁ今回はもう呼ばれちゃった訳だし、特別よ」
【紅竜】
「そういうお前もな。
そんで? 話なら聞くぜ」
二匹は私の視線まで降りてきながら、
聞く体勢に入ってくれる。
何だかんだ言っても、私の話を聞いてくれる氷ちゃん。
【楓】
「えへへ。ありがとね、氷ちゃん、紅ちゃん」
【氷竜】
「だから、その呼び方は子供っぽいからやめなさいって
いつも言っているでしょ!?」
【紅竜】
「俺もちゃん付けはなぁ……」
【楓】
「えぇ~」
この呼び方、可愛いと思うんだけどなぁ。
【氷竜】
「……そんな事話すために呼び出したの?」
【楓】
「そ、そうだよ?」
【紅竜】
「あっはっはっ!!
そいつは、楓らしいなぁ」
氷ちゃんが私に迫ってきている横で、
紅ちゃんは空中で爆笑していた。
わ、笑いすぎじゃないかな?
【紅竜】
「まぁでもよ、楓らしいじゃないか」
【氷竜】
「そりゃ、そうだけど……」
紅ちゃんはその長い尾で氷ちゃんの頭を小突きながら、
私へと顔を向ける。
【紅竜】
「だからこれからももっと楓らしく、
ミスでもなんでもやっちゃってくれ、な?」
【楓】
「……紅ちゃんって、
優しいようで、ひどいよね……たまに」
私は紅ちゃんからぷいっと視線をはずす。
その様子に、紅ちゃんはポーカンして私を見る。
【氷竜】
「あらあら。この娘ったら、また拗ねちゃったじゃない。
ちょっと紅竜、アンタのせいよ!」
そこで今度は氷ちゃんが紅ちゃんの頭を尾で小突く。
急に小突かれた紅ちゃんは少し慌てる様子を見せるけど、
すぐに目つきを変え、氷ちゃんい向き直る。
【紅竜】
「あぁ?
お、俺のせいかよ!?」
そして始まる二匹の喧嘩。
まぁこの二匹が喧嘩するのはよくあることだし、
しばらくは様子見として、放っておくことにする。
むしろ、召喚してすぐ喧嘩しなかったのが奇跡だったんだから。
【氷竜】
「そうよ。アンタ以外に誰がこの娘を拗ねさせるのよ!」
【紅竜】
「そんなのその辺にいっぱいるだろ!?」
【氷竜】
「居ないわよ!」
【紅竜】
「居るって! それにお前だって楓の事拗ねさせる事あるだろ!?
自分を棚にあげちゃってさぁ!!」
【氷竜】
「それでもアンタの方が拗ねさせる確立は上でしょうがぁ!」
【紅竜】
「んな訳ないだろうが!
このオカマがッ!」
【氷竜】
「――ッ!! ……いい度胸じゃない……
アンタ、大嫌いな氷に包まれて死ぬのと、
砕かれてカキ氷になるのとどっちがいい?」
【紅竜】
「ハッ! どっちもお断りだよ!
むしろ、てめぇの事を一瞬でトカゲの丸焼きにしてやる……!」
しばたく喧嘩を見守っていると、二匹から不穏な空気が。
氷ちゃんからはゾッとする様な冷気が、
紅ちゃんからは触れるだけでも燃え上がりそうな熱気が溢れ出る。
あ、あれ……?
なんか引き止れらない域まで放置しちゃった、かな?
そこで私は慌てて二匹の仲裁に入ることにする。
【楓】
「ね、ねぇねぇ二匹とも!
そろそろ落ち着こうよ、喧嘩はダメだよ、ね?」
さすがにこれ以上はまずいと判断した私は立ち上がり、
二匹の顔を交互に見ながら説得を始めたのだが……
【氷竜・紅竜】
「アンタ(楓)は黙ってなさい(黙ってな)!!!」
あ、あれあれぇ……?
悲しくも二匹には私の言葉は届かず、
私に出来ることと言ったら、
ただ、泣く事しか出来なかった。
【楓】
「……ぐすっ……ひぅ」
【氷竜】
「ちょっとぉ、いい加減泣き止みなさいよ」
【紅竜】
「ごめんな、楓」
二匹が私に頭を下げてくる。
結局私は、泣いてしまって、
それを見た二匹が慌てて喧嘩を止めて今の状態が出来上がった。
何だか情けないなぁ。
私は二匹のマスターとして……、
皆を助けてきたお母さんみたいに……、
立派な魔法少女になれるのかなぁ。
皆を救うと決めたけど、それでも時々不安に思うことがある。
今の私には、まだそれだけの力がないから……。
これからもっと強くなっていかなきゃいけないのに。
【紅竜】
「――おい? ……お~い?」
【楓】
「……ん? な、何かな?」
どうやらさっきから紅ちゃんが
私の事を呼んでくれていたみたいだ。
でもそれなら肩を軽く叩いたりしてくれてもいいんじゃないかな?
【紅竜】
「いや、軽くでも叩いたら楓が壊れちまう」
私はそこまで弱くないもん。
【氷竜】
「アンタら、いつまでも遊んでないで。
この町に魔物の気配が生まれたわ」
氷ちゃんがいつもとは違う真剣な雰囲気を纏って私たちを諭す。
――魔物。
数年前、私からお母さんを奪った存在。
そして、私がこれから戦っていかなきゃいけない存在。
【楓】
「……準備はいい? 氷竜、紅竜」
ここからは私もおふざけなしの真剣モードだ。
私は脳裏に浮かび上がる数年前の光景を心の奥底に眠らせ、
魔物の気配を辿っていく。
家を出ると、さっきまでは夕焼けで紅く染まっていた町も、
今はすっかりと夜の闇に包まれていた。
特に月のない今夜は普段よりも視界が悪く、
街灯があっても前から歩いてくる人の顔が目視できないほど。
別に暗い中での戦闘が初めてではない。
けど、視界が暗いと心細くなる。
べ、別に暗いのが怖いわけじゃないもん。
【氷竜】
「ちょっと、どこまで行く気よ?
魔物の気配がする歪はここよ?」
【楓】
「はへ……?」
氷竜に呼び止められ、
声がしたほうへと振り返ると、
二匹は私の後方ですでに止まっていた。
【紅竜】
「か~え~で~、暗いのが怖いんだろ~?」
そして、紅竜は唇をゆっくりと吊り上げさせると、
目に怪しい光を浮かべる。
その様子から私は、
またからかわれるのだろうと察し、身構えるが、
【紅竜】
「だったら、俺から離れないようにな。
そしたら俺がいつでも不安にならないように
楓の側を明るく照らしといてやるからよ」
【楓】
「…………」
不意打ちだった。
こういう優しい所があるから紅竜、紅ちゃんの事が嫌いになれない。
【氷竜】
「ハッ。
それだったら私が一気に凍らせて、
不安を感じさせる暇もないほどに一瞬で終わらせてあげるわよ」
それは氷ちゃんも一緒。
私はこの二匹のマスターであり、
同時に二匹に護られながら、支えながら生きている。
【楓】
「うんっ。ありがとね、氷ちゃん、紅ちゃん」
【氷竜・紅竜】
「だからその呼び方は止めなさい(止めろって)」
私は二匹にお礼を言い、夜空を見上げる。
私の心から不安が晴れたように、ちょうどお月様が顔を出した。
まるでお月様までもが私を励ましてくれるかのように。
もう大丈夫。
いつも以上の力が出せるはず。
私は深く深呼吸を一度して、再び気合を入れなおす。
【楓】
「――さ、行くよ」
私は気配を感じる黒く醜く歪に飛び込むと同時に
魔法少女へと変身した。
【楓】
「にしても本当、この空間って好きになれないなぁ」
着物姿で少し動きにくいが、
それだけ防御力がある魔法防護服を身に纏った私は、
その独特な空気に嫌悪する。
周りの光景は、外の世界と何にも変わらない。
外が朝や昼だったら明るくて、夜だったら暗い。
天候も外と同様で、外が雨ならここでも雨が降る。
だけど外とは一切違うこと。
それは、この空間には私たちや魔物以外の生命の気配がしないこと。
外で人がいっぱい歩いていても、
空間内では、その人たちの気配は一切消滅する。
私がこの空間を嫌悪する理由。
何もかもが外と同じ世界だから、
生命の気配が感じられないことが余計に違和感を感じさせる。
その違和感が私に無理やり現実と錯覚させるように
脳内へと入り込むのを必死で追い出す。
この侵食されていく感覚も苦手だ。
そして、その違和感の正体を打ち消すかのような魔物の気配が
急速にこっちに向かってくるのを察知した。
【紅竜】
「楓!!」
【楓】
「うん、分かってる! おいで、ミスリルワンド!」
胸元にあるペンダントが私の声に反応して光りだす。
同時に私の手中に、ひとつの三又に分かれた
フォーク状の杖が収められた。
その杖は機械のように角ばっているが、まるで別の生き物のように
どくんどくんと脈打っている。
最初見たときは少し気味悪かったけど、
今では私に力を与えてくれる唯一無二の存在だ。
【氷竜】
「来るわよ……!」
氷竜の静かだけど、響き渡る声に合わせて、
私もミスリスワンドを構え、魔物に備える。
一瞬の静寂。
魔物の気配が消えた。
私は全方に注意を向ける。
私たちに向かってきたって事はまちがいなく、
遠距離での攻撃法がない、または不向きということ。
つまり近接型を得意とする。
だったら、このタイミングで消えた意味について考える。
時間はそんなに掛けていられない。
頭の中の歯車をフル回転させ、その解を導き出す。
――短距離での瞬間移動だ。
反応されることなく死角から致命打を撃ち込める。
接近戦で一番殺傷能力が高いスキルの一つ。
私は瞬時に死角となる後方へと警戒を向ける。
【楓】
「―――えっ?」
そこにはすでに私との距離を縮めようと
突撃する勢いで向かってくる
獰猛な熊のような姿の魔物が迫っていた。
まずい!
【楓】
「お願い、氷竜、紅竜!」
【氷竜】
「言われないでも!」
【紅竜】
「まかせろっ!」
二体が私の前に出て魔物に立ち向かう。
【氷竜】
「まずは私から!」
氷竜が体中に冷気を纏い、
どんどんそのオーラを高めていく。
【氷竜】
「その猪みたいな突進を止めるわよ! 氷柱地獄!」
氷竜がその冷気を一気にかき集め、相手に向かって静かに飛ばす。
すると、魔物の周りは凍てつき始め、
いくつもの氷の柱が牢獄を形成し、魔物の行く手を阻む。
【氷竜】
「まぁアタシの手に掛かればこんな物よ」
ふふんと誇らしげな氷竜。
たしかに、氷竜の氷結魔法はすごい強力だ。
その魔法を受けたものは
芸術のような美しさを放ちながら永眠する。
だけど、今回は相手の動きを止めただけ。
まだ魔物を倒してはいない。
【氷竜】
「分かってるわよ。今すぐに止めを――ッ!?」
魔法を発動させようとした氷竜の動きが止まり、
余裕を保っていた態度から一変して、表情が強張っていく。
瞬間、魔物からとてつもない熱気が溢れ出した。
【楓】
「きゃっ、熱いっ!」
その熱気が熱風となり、私たちを襲う。
【紅竜】
「ちっ! コイツ、俺と同じ系統かよ」
紅竜が魔物に向かって舌打ちをする。
今回の魔物は氷竜の強力な氷結魔法を溶かすほどの炎属性。
ということは、氷竜の攻撃は魔物の炎によって無効化される。
【氷竜】
「くっ……やってくれるじゃないの!!」
氷竜はさきほどよりも、濃い魔力を放出させていく。
ある程度距離があっても、その冷たさがわかるくらいに、
周辺は冷気に満たされていく。
【楓】
「――っ! 氷竜!!」
【氷竜】
「楓、アンタの魔法でアイツを仕留めなさい!
アタシは援護に専念するわ!!」
すでに準備に入ってしまっている氷竜。
私は氷竜の意図を汲んでそれに合わせた、
自身の魔法を発動させるのに集中する。
全身を纏っている自分の魔力を胸中に集め、
纏め上げた魔力に発動する魔法の起動コードを刷り込んでいく。
【楓】
「『こ、凍れ。それは刹那のごとく過ぎ去る時がもたらす奇跡!』」
詠唱を開始すると同時に、私の声に合わせて纏め上げた魔力は、
段々と私の私の周りを回転しながら広がり、
ミスリルワンドに集束する。
【魔物】
「ぐおぉぉぉぉぉッッ!!!!」
【楓】
「~~~~っ!!」
私の魔力に感づいたのか、
魔物は自身の体に炎を纏いながら咆哮する。
その地響きが起きるぐらいの大きさの咆哮に
私は戦慄し、金縛りにあったかのように体の自由を一瞬奪われる。
【魔物】
「ヴォオオォォオオオオオ!!!!!」
この一瞬の隙を突かれ、魔物は私に向かって、
無数の炎の塊を雨のように降らしてきた。
詠唱中の今、身体強化を使っての回避も難しい。
かといって、着物に近いこの姿で避けようにも厳しい。
私は紅竜にアイコンタクトを送る。
【紅竜】
「まかせな! 『全ての罪を燃やし浄化する煉獄の炎よ。今一時、我に力を与えたまえ!』」
紅竜が詠唱を終えると、
周囲には赤と黒が織り交ざった炎で形成された槍が無数に現れる。
【紅竜】
「撃ちもらすなよ……ブレイジングボルケーノ!」
無数に降ってくる炎の塊。
ゴォォという豪快な音を立てながら落ちてくるそれは、
どれだけの質量なのかを容易く想像させることができるほどだった。
が、紅竜が詠唱した炎の槍。
合図とともに投槍された炎の槍は、
目では追えないほどの速さで無数の炎の塊へと放たれる。
そのまま炎の塊に衝突する刹那、槍は塊をいとも簡単に撃ち砕くが、
その衝撃が伝わってこない。
【楓】
「あ、あれ?」
あれだけの質量が砕かれる威力では考えられない事態に
私は自身も魔法の準備中にもかかわらずに困惑する。
その間にも槍は塊を撃ち砕いていく。
撃ち砕いていくにもかかわらず、
依然として衝撃はやってこない。
【紅竜】
「楓、少し耳を塞いどきな」
紅竜の忠告。
すべてが撃ち砕かれたであろう次の瞬間、
今まで溜めに溜まっていた衝撃波は連鎖して起こる。
そう。
いつまでたっても衝撃がやってこなかったのは、
ただ単純に音が追いついていなかったから。
紅竜が詠唱して出したブレイジングボルケーノは
音速を超えた速さで放たれていた。
【魔物】
「ぐぅるぅ、ヴォオオォォォオオオォオオッッ!!!!!」
それに対してなのか、魔物は咆哮を上げながら、
私たちに事をギラついた目で睨んでくる。
その目からは私たちに、
自慢の攻撃が防がれた悔しさが見て取れた。
【氷竜】
「楓、いくわよ!!」
【楓】
「うん! お願い届いて!!」
その直後に氷竜からの合図がでた私は、
完成していた魔法を解き放つ。
私が放った魔法は蒼色の軌跡を築き上げながら
魔物に向かって蛇のような動きで突き進んでいくが、速度がない。
【魔物】
「ヴォ、グォオオオオオオオオッ!!!」
動きが遅いその魔法に何かを感じたのか、
魔物はその魔法に対して、
さっきと同様の炎の塊で対抗しようとする。
【紅竜】
「――させるかよッ!」
が、それもまた、紅竜の炎の槍によって阻まれる。
そのまま魔物に向かってどんどん距離を詰めていく私の魔法。
私の発動の間も気を緩めることなく魔力を注ぎ込んでいく。
【魔物】
「ぐしゃああぁぁあああ!!!」
抵抗する手段を絶たれた魔物は
最後の手段と言わんばかりの速度で、
私たちから距離を置こうとする。
炎で背中に大きな翼を模った物を作り上げると、
翼を動かし浮上しようとした。
【紅竜】
「お、おいおい、マジかよ!?」
その様子に慌てる紅竜。
私はその光景を横目で見ながらも、
自分の役割に集中する事を忘れない。
私は氷竜の案を信じている。
だからこそ、速度はないが、
威力は抜群であるこの魔法を発動したのだから。
そして、その魔物の様子にいち早く反応していた氷竜は、
すでに魔法を発動していた。
【氷竜】
「よくやったわね、楓。
アンタのおかげでアタシの魔法は活きたわ!」
その掛け声とともに、
魔物の悲痛にも似た叫びが空間内に響いた。
【紅竜】
「あぁ、そういうこと」
その光景に慌てていた紅竜は落ち着きを取り戻す。
氷竜が発動した魔法は、
空へ浮上しかけた魔物の四足を氷の鎖で縛り上げて
それ以上の浮上を許しはしなかった。
【氷竜】
「時間を掛けて魔力を注ぎこんだ特性よ。
そう簡単には溶かされないわ!」
その氷竜の言葉通り、魔物がいくらその鎖に向かって
炎の魔法で攻めても溶けることはなく、
逆に徐々に縛り上げる力が増しているようだった。
【楓】
「私の魔法も……」
【氷竜】
「え?」
【楓】
「私の魔法も、氷竜のあの魔法のおかげで活きたんだよ。
ありがとうね、氷竜。それに紅竜も」
【紅竜】
「……俺はおまけかよ」
私の言葉にそっぽ向いて拗ねてしまった紅竜に
私はそっと微笑みかけて、視線を魔物へと戻す。
【楓】
「終わりだね。凍てついて、マーヴェラス・クリスタル!」
私の勝利宣言とともに、その魔法はようやく魔物へと着弾。
同時に、魔法は魔物をクリスタル状に凍らせていき、
動きを完全に停止させる。
その瞬間だけはすべての生物が
活動を停止したようにさえ思える程の冷たさが空間を支配した。
私はこの魔法を使ったことで
少し凍りかけた手のひらを暖めるように両手で擦り合わせ、
【楓】
「ふぅ。氷竜、紅竜、おつかれさま」
寒さで震えながらも二匹に何とか笑顔を向けた。
【紅竜】
「で、コイツはどうするんだ?」
クリスタル状に氷漬けにされている魔物を見ながら
紅竜が私に問いかけてきた。
【楓】
「うん。可愛そうだけど、ちゃんと最後まで、するよ」
私はミスリルワンドを掴み直し、
その氷漬けになっている魔物の前へと震える足を進める。
【氷竜】
「アンタ、何もそこまでしなくてもいいんだよ?」
そんな私の様子に、氷竜が心配してくれる。
ありがとう。……でも。
【楓】
「でも、最後まで終わらせないと。
もし魔法が解けたりしたら……。
それに私たちの世界に出てきたりしたら……」
数年前、私たちの世界に出現した魔物の事を思い出す。
あの時の悲惨な光景、血生臭い匂い、
それに、力なく倒れているお母さん。
【楓】
「もう、あんな悲劇は起こしちゃ……いけないから」
私は震える足を何とか抑え、
ミスリルワンドを強く、感触を確かめるように握り締める。
今でもお母さんの温もりを確かめるように。
【楓】
「だから……、―――ごめんねっ」
私は最後に魔物にそう伝えると
魔力をミスリルワンドへと流し込む。
瞬間、クリスタル状の結晶は砕け散り、
きれいな氷の塵へと姿を変えた。
【楓】
「……氷ちゃん、紅ちゃん。
私のお家はまだなのかな?」
【氷竜】
「まだよ」
【紅竜】
「それと、そのちゃん付けはやめてくれ」
二匹が私以外には見えない
心霊状態の姿で側に居てくれている。
お月様が出てくれたおかげで、
多少は道が明るく感じるようになっている帰り道。
私は小声で氷ちゃんと紅ちゃんに話しかけながら、
眠気と戦っていた。
【氷竜】
「アンタ、その魔法を使うと眠くなっちゃうの、
どうにかしなさいよ」
【楓】
「そ、そんなこと言ったってぇ……」
体が小さいからなのか、
私は魔物と戦い終わると、いつも眠気に襲われてしまう。
きっと、体が使う魔法に追いついていないからだ。
と、紅ちゃんが教えてくれたけど、私はそれを否定している。
なぜなら、日に日に成長しているはずの私に、
何で毎回同じくらいの眠気が襲ってくるのだろうか?
それじゃあ、私が成長していないみたいになっちゃうもんね。
それだけはぜぇったいに認めたくない!
【紅竜】
「まぁ、寝る子は育つっていうからいいんじゃねぇの?」
紅竜が私に寝る子の『子』の部分を強調して言ってくる。
うぅ、相変わらず優しくない時は優しくない。
あたりまえだけど……。
【氷竜】
「ほら、もう家に着いたわよ」
眠気眼を擦りつつ、我が家を外から見上げる。
家の電気は全部ついていない。
鍵を開けて、家に入ると、
一度戻ってきたパパ……じゃない、
お父さんの書置きと夕食がテーブルに置いてあった。
【楓】
「いつも、遅くまでご苦労様です」
私は用意されていた夕食を残さずに食べて、
眠気の限界と戦いながら部屋へと向かう。
もうほとんど意識ははっきりしていない。
【氷竜】
「アンタ、風呂に入らないの?」
【楓】
「ふぇ……?
……あ~、明日、入りまふ」
もぞもぞとパジャマに着替えながら
氷ちゃんへと返事をする。
そんな私に氷ちゃんは、
【氷竜】
「ばっちぃ娘だねぇ。
だから、紅竜に子供扱いされるのよ、だいたいねぇ……」
と、何やら説教を始めてしまったようだ。
【楓】
「あぅ~、ごめんね、二匹とも。
今日はもう限界ですぅ……」
【氷竜】
「ちょっ……まだ話は終わってな――」
【紅竜】
「おう、今日もゆっくりと寝て育て」
呼び出した時みたいに、お互いに違う言葉で
机に置いたペンダントへと強制的に戻っていく氷ちゃんと紅ちゃん。
【楓】
「むにゃ……二匹とも、今日もありが、と……ね。
おやす……み、なさ、い……」
私は最後に二匹にお礼を言ったところで、
意識を完全に手放した。
とまぁ、書いてみましたが……。
うん。
なんか微妙……。
皆様の意見が聞きたくて投稿してみましたが、……うん、微妙。
戦闘描写もあいまいだし、何より魔法が使いまわし。
一応、劉の魔法が一般化された何十年後の世界としてみたいなぁと思って使いましたが、容量的に、一つのイベントシーンに割く容量を軽くオーバーしそうだったんで、こういう形にしました。
では、本作である『どうしてこうなった?!神による転生者の輪廻物語』もよろしくお願いします。
あ、感想もどしどしお待ちしています!!
ではでは~♪