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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

風に揺れる紫は

作者: 入江 涼子
掲載日:2026/04/08

 藤の花が満開に咲いていた。


 私はゆっくりと藤棚の周囲を散策する。花を眺めながら、香りも一緒に楽しんだ。傍らには夫の(しゅん)がいて。さらに、息子の聡太や(ただし)の二人もいる。当年取って、私も峻も四十歳。もう、中年に差し掛かっていた。


「……楓香(ふうか)、俺達も結婚して十五年が経ったな」


「そうね」


「聡太が中三、禎も中一だ。早いもんだな、子供の成長は」


 しみじみと峻が言った。私はそれに頷く。本当に早いわ。時間が経つのはね。いつの間にやらとは思う。


「……峻、実はね。私、最近は体調が良くないの」


「え、本当なのか?どこかが良くないのか?」


「えっとね、一昨日辺りに病院に行ったのよ。検査してもらったらさ、ポリープが見つかって」


「ポリープ?!その、どの部分にあったかは教えてくれないかな?」


「……うん、下腹部にある臓器よ。言いにくいけど、行った病院は産婦人科ね」


 はっきりと診察してもらった病院のジャンルを告げた。それだけで、峻は察したらしい。目を軽く見開いて固まる。


「そうなのか、婦人科だったんだな」 


「まだ、検査結果は出ていないの。たぶん、後十数日は掛かるだろうって。ポリープは小さかったから、当日に処置してもらえたわ」


「……ごめん、気づかなくて。検査結果、出たらすぐに教えてくれよな」


「分かった、すぐに知らせるよ」


「うん、約束な」


 互いに頷き合う。息子達がこちらにやって来た。


『父さん、母さん!』


 二人が賑やかに笑いながら、手を振る。峻も私もにこやかに頷き、歩いていく。


「何の話をしてたんだ?」


「内緒よ」


「えっ、ずるいよ。僕らにも教えてよ!」


「そうだぞ、父さんや母さん。俺や禎にも教えてくれたっていいじゃんか!」


「……お前らな、外で言う事じゃないんだよ。家に帰ったら話すからさ。それまでは聞くのは無し!分かったか?」


『……はーい』


 二人は不満そうにしながらも、渋々頷いた。苦笑いしながらも峻と私は互いに顔を見合った。


 帰宅した後、私は改めて聡太と禎に説明をする。二人はショックを受けたらしく、考え込んでしまった。やはり、言うべきではなかったか。

 そう内心で後悔の気持ちが首をもたげる。けど、聡太が真面目な顔でこちらを見つめた。


「母さん、絶対に検査結果が出たら言ってくれ。俺や禎、父さんでサポートをするからさ」


「……聡太、あんたも大人になってきたわね」


「俺も中三だぞ、サポートくらいは出来るって!」


「ありがとう、聡太が言ってくれると心強いわね」


「僕も兄ちゃんみたいにサポートをする!母さん、手伝ってほしい事があったらさ。言ってね!」 


「うん、分かったわ。その時はお願いね、禎」


「はい!兄ちゃん、僕らで母さんの手伝いをしよう!」


「そうだな、約束するよ」


 聡太と禎は力強く頷いた。二人の成長にちょっと、嬉しくなる。涙ぐみながら、峻と笑い合った。


 あれから、二週間余りが過ぎた。再度、私は近隣の産婦人科に来ている。検査結果を聞きに行くためだ。受付で一通りの事を済ませ、待合室で順番待ちをしていた。看護士の女性、たぶん中堅と言える人だろうか。その人が私の名前を呼んだ。


古塚(こづか)さん、診察室に来てください!」


「あ、はい!分かりました!」


 ソファーから立ち上がり、看護士の女性の後を付いていく。診察室に入ると、ポリープの処置などを担当してくれた先生が椅子に腰掛け、待ち構えていた。ちなみに、私より五歳くらい上の女医さんだが。眼鏡を掛け、髪をきっちりと纏めた真面目そうな方だ。


「こんにちは、古塚さん」


「こんにちは、先生」


「……今日に検査結果が出ました、簡潔に言いますね」


「はい」


「良かったですね、ポリープは良性です。悪性では無かったですよ」


 先生は若干切れ長の瞳をほころばせながら、告げた。私は良性と聞き、張り詰めていた息を細く長く吐き出した。肩の荷が降りたと言うか。


「……そうだったんですか、ホッとしました」


「ええ、けど。油断は禁物ですよ、定期的な検診はきちんと受けてください。それが重要ですからね」


「はい、分かりました」


「では、もう良いですよ。お大事に」


「ありがとうございました」


 私はお辞儀をして診察室を出た。何となく、足取りは軽く感じたのだった。


 その日の夜に、早速峻や聡太、禎に検査結果を伝える。


「良かった、良性だったんだな!」


「うん、心配を掛けてごめん。峻」


「父さんの言う通りだよ、母さん。俺さ、ずっと不安で。良性って聞いて安心したよ!」


「だね、けどさ。これからも気をつけてよ、母さん」


「分かった、聡太、禎。検診はちゃんと受けるようにするわ」


「それが良いよ、さ。二人はもう寝なさい、夜も遅いしな」


『分かった』


 二人は頷いて自室に向かう。私は見送った。


 峻と二人きりになり、私は少しだけ泣いた。峻は背中を撫でながら、寄り添ってくれる。


「本当に峻達には心配を掛けたわ」


「うん」


「……悪性だったら、どうしようって。不安で仕方無かった」


 私が涙声で言うと、峻は黙ってティッシュ箱を取りに行く。差し出してくれたから、二枚くらい取る。それで目元や鼻の辺りをゴシゴシと拭いた。


「……楓香、強くこすると後で痛くなるぞ」


「いいのよ、けどさ。聡太や禎には心配を凄く掛けさせてしまったわ。今後は気をつけないと」


「二人とも中学生だぞ、ちゃんと分かってくれてるよ。そう、思い詰めなくても大丈夫だって」


「そうね、ありがと。峻」


 礼を述べると、峻は照れ笑いの表情になる。右肩に軽く手を載せ、叩く。


「俺達も寝よう、さすがに夜更かしは良くないしな」


「うん、それには同意見だわ。寝よっか」


 頷き合い、寝室に行く。久しぶりによく寝れたのだった。


 ――終わり――

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