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第七章 花の檻と、混じり合う二人



 ざわめいていた花たちは、いつの間にか静まり返り、月明かりの中で息を潜めるように咲いている。

 まるで私の決意を待っているかのように。


「……閉じ込める、って」


 蓮様が、ゆっくりと繰り返した。


「ええ。蓮様が二度と異能を使わなくて済むように」「……小夜」


 蓮様は困ったように眉を下げ、いつもの笑顔を作ろうとした。

 けれど、その笑顔はすぐに崩れた。


「そんなの、無理に決まってるよ」

「大丈夫です」


 自分でも驚くほど、はっきりとした声だった。


「蓮様が壊れていくのを見て、何もしないままでいる方が、私は悲しいです」


 蓮様は目を見開き、私を見つめた。

 その赤い瞳が、月の光を受けて揺れている。


「小夜は…一体何をするつもり?」


 私は髪から簪を外した。

 一つにまとめていた髪がハラリと落ち肩にかかる。

 奥様にいただいた簪とは違う、蓮様から頂いた花の細工が施された銀の簪。


 私は簪を握り締め、先端を蓮様に向けた。

 蓮様は私の様子を静かに見つめている。

 何かを悟ったような表情で。


「蓮様と桜並木を歩く約束、果たせませんでしたね」

「そうだね」

「蓮様が桜吹雪に祝福される姿を見てみたかったです。きっととても綺麗」

「そうかなぁ。僕は小夜を見たかったよ。きっとはしゃいで転んでたんじゃないかな」

「まあ、蓮様酷い」


 私と蓮様は目を合わせて笑った。

 心の底から笑った。


「蓮様、一緒に眠りましょう。きっと良い夢が見れますよ」

「うん」


 私は蓮様に向けて腕を広げた。

 蓮様は泣いている。

 ポロポロと嬉し泣きをしながら、吸い寄せられるかのような足取りで私の前に立った。


「小夜はそれでいいの?」

「はい、ずっと一緒です」


 私は両腕を広げたまま一歩踏み出した。

 花びらが足元で柔らかく鳴る。

 今までこんなに近づいた事のない距離。

 近くで見る蓮様の目は本当に綺麗。

 涙が宝石に見えるほど純粋で綺麗。


「ごめんねぇ小夜」


 蓮様は泣いたまま私の両頬を包んだ。

 触れられた所が熱い。


「近くで見る小夜は、やっぱり小さくて可愛いねぇ」


 私の頬から花びらがひらひらと舞い上がる。

 その形は、ほんの少しだけ桜に似ていた。

 ああ、私は桜の花びらになって溶けるのか。


「蓮様もカッコいいです」


 蓮様を見上げたまま、広げた両腕で蓮様を抱きしめた。

 子供のような雰囲気の蓮様は、軍人らしくがっしりとしていた。

 蓮様は簪を持った私の手を優しく掴み、ゆっくりと自分の胸に誘導した。


「小夜には辛い思いばかりさせてごめんね」

「私が望んだ事ですよ。お側に居るだけで幸せです」

「ありがとう、小夜」


 蓮様は私の手を掴んだまま、簪を胸に突き刺した。


 私の手と蓮様の胸から無数の花びらが溢れ、舞い上がる。

 その中に、桜の形をした花びらが混じっているのが見えた。


 

「ああ、小夜は本当に暖かいね。ずっとずっと触れたかったんだ」

「私もです。蓮様って見た目よりがっしりしてますよ」

「何それ?僕は貧弱そうに見えてたって事?」

「ナイショです」


 笑い合い、抱きしめ合う。


 ゆっくりと桜の花びらに溶けていった二人は、やがて一つの柱となり、空へと舞い上がっていった。




 月明かりの下、狂い咲く庭は、ゆっくりと形を変え始めていた。

 花の檻はやがて季節に合わせて咲き、枯れる。


 残された狂い咲きの花の檻は消え、そこには新たに一本の桜の木が立っていた。

 月明かりの下、狂い咲いていた庭は、麗らかな春の庭へと姿を変えた。


 それが、私の選んだ答えだった。




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