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1.春の新たな出会い

今日も手がかじかむほどに空気が凍えている。もう四月も終わるというのに、今年の春はずっとこんな感じだ。朝の制服を着る時間さえも憂鬱になってしまう。春という季節は、夏ほど暑くなく、冬ほど寒くない。花粉症でもなく、寒がりな俺にとっては一番過ごしやすい季節だったというのに。


朝の電車に乗りながら、明日からの予定を確認しておく。確認しても明日の二日からゴールデンウイークが始まり、バイトがぎっしりと詰まっていること以外は何もわからなかった。予定が特に決まってないからと何も考えずに入れた俺が悪いとはわかってはいるが、店長のやつ、全部入れることはないだろ。


憂鬱になった気分とともにページを飛ばして時間を確認する。早く出てしまったせいか、学校のホームルームまでまだまだ時間があった。そんな時、ちょうど電車が降りる場所で止まった。俺はおりて学校と真反対のほうへ足を運んだ。


駅から5分ほど歩いたこの辺りでは、きれいな桜並木が見れる。見ると、こんな朝から手をつなぎながら歩いているカップルがいた。俺もよく彼女とあんな風に歩いていた。彼女はよく、景色がきれいな場所を好んでいた。楽しそうにはしゃぐ彼女の後ろを息を切らして付いて行っていた俺の姿を思い出す。同時に一年前の別れる日のことも。


「なぁ。進路ってもう決め終わった?」

昼過ぎ、弁当を食べているときに友人がそんなことを聞いてきた。

「まぁ、一応は」

「まじ?俺全然決めてないわー。どこの大学行くん?」

「あそこ。京都にあるところだよ。前、一緒にオープンキャンパスいったろ?」

「あー、あそこかー。結構いいところだよな~、俺もそこにしようかな」

「ちゃんと自分で決めろよ。後になって苦労するぞ」

「はいはい。ちゃんと決めますよーだ」

「適当だな」

腹立つやつである。だが、高校の中で一番気が合うからこういう態度もあまり気に食わないのだろう。


時間がたつのは本当に早くて、気が付けばもうバイトに行かなければならない時間である。ふと、足が止まってしまう。最近、バイトに行くまでの時間が伸びてきている。あそこに行くのが本当に嫌になっているのだろう。あそこに行くたびに彼女と別れたことばかりを思い出すからだ。それでもなお、時給がよくて、貯金は殖やしておきたいから、やめるにやめれない。だから今日も、動かない足を無理やりにでも動かす。


バイト先まで来た。依然、気持ちは何ら変わっていない。入り口から入って従業員の控室まで行く。ドアを開けようとしたとき、中から話し声が聞こえた。どうやら面接中だのようだ。まぁ、別に入ってもいいだろう。一応ノックだけはして中に入る。


「おはようございます」と軽く挨拶だけ済まして、着替える、つもりだった。

「は?」

面接相手の後姿を見て、体が止まってしまう。

「あぁ、おはよう、あー今日春樹君だったか。えっとなぁこの子は」

部屋に入った俺に対して、店長が何やら喋ってきていた。だが、そんなことはどうでもいい。それ以上に目の前にいる人物に目が釘付けになる。多分、今の俺は自分が想像している以上に動揺した顔になっているのだろう。

「小春?」

あの時から、一年間、何の前触れもなく、忽然と姿を消したはずの彼女が目の前にいたからだ。

振り返った彼女の目と会って、長く感じる数秒が過ぎたあと、ようやく店長の声が耳に入ってきた。

「やっぱり小春ちゃんに似てるよねぇ」

店長の言っていることがよくわからなかった。似てる?違うのか?彼女は小春じゃないのか?

「はい?似てるって、小春じゃ…」

「ほんとにねぇ、私も初めて見たとき、目を疑ったよ」

状況に戸惑っていると、同じくしどろもどろとしていた彼女がこちらを向いてきた。そして、

「あの、初めまして。私は、その、紅葉といいます。よろしくお願いします」

残酷にも、何度も聞いた覚えのある優しい声は、別の名前を名乗り、本当に初対面であるかのように、そう言ってきた。










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