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悪徳建築師たちの泥仕合 - 九龍城闇取引リプレイ

# 悪徳建築師たちの泥仕合 - 九龍城砦闇取引


## 第一章:腐敗の匂い


1980年冬の夜、九龍城砦は相変わらず薄汚れていた。今夜の建築競争の会場となった地下室は、湿気と黴の匂いが充満している。天井から時折水滴が落ち、床には怪しい水たまりができていた。


「今夜の参加者は...特別だ」


GM役の老王が薄ら笑いを浮かべながら言った。彼のポケットには既に何枚かの札束が忍ばせてある。今夜の審査は「公正」ではない。


参加者は4人。全員が九龍城砦でも指折りの「問題児」たちだった。


**「蛇頭」陳大哥** - 密輸組織のボス。金に物を言わせる札束戦法

**「狐狸」李姐** - 詐欺師。見た目の美しさで男を騙すプロ

**「老鼠」王小弟** - 情報ブローカー。他人の秘密を売り買いする

**「毒蛇」林師傅** - 建築業界の裏ボス。手抜き工事と贈収賄のエキスパート


4人とも互いを警戒し合いながら、それぞれの2×2区画を見定めている。空気には緊張感と、誰かが吸っている安い煙草の煙が混じっていた。


「ルールは簡単だ。7ターンで最高の建物を作れ。ただし...何をしても構わない」


老王の言葉に、4人の目が不気味に光った。


## 第二章:第一ターンの暗躍


建築開始と同時に、早速裏工作が始まった。


「蛇頭」陳大哥は迷わず老王GMに近づき、耳元で何かを囁いた。紙幣の擦れる音が微かに聞こえる。老王は満足そうに頷いた。


一方、「狐狸」李姐は甘い声で建材業者に話しかけていた。

「あら、いい建材ね。でも...私、お金があまりなくて。何か他の方法で支払えないかしら?」

業者の目がトロンとしてきた。明らかに彼女の術中にハマっている。


「老鼠」王小弟は隅で双眼鏡を覗いていた。他の参加者の設計図を盗み見ているのだ。そして小さなノートに何かをメモしている。


「毒蛇」林師傅は建材を物色しながら、明らかに規格外の安い材料ばかりを選んでいた。見た目は普通だが、強度に問題がありそうな怪しい建材だ。


第一ターン終了時、既に会場の空気は疑心暗鬼で重くなっていた。


## 第三章:情報戦と買収工作


第二ターン、「老鼠」王小弟が動いた。


「陳大哥、ちょっといい情報があるんですが...李姐の設計図、見ましたよ。彼女、上層階に重量オーバーの装備を置く予定です。構造計算、間違ってますね」


陳大哥の目が光った。「いくらだ?」


「500HK$で」


取引成立。しかし王小弟が陳大哥に渡した情報は嘘だった。本当は李姐の設計は完璧で、陳大哥を誤解させて無駄な対策を取らせるための偽情報だったのだ。


同じ頃、李姐は建材業者だけでなく、電気工事の職人まで懐柔していた。

「お疲れさま。これ、差し入れよ」

手渡されたのは、明らかに薬物が混入されているであろう怪しい飲み物。職人は一口飲んで、完全に彼女の虜になってしまった。


毒蛇林師傅は既に建築を始めていたが、その工事現場から漂ってくるのは通常の建築現場とは違う匂いだった。接着剤の匂いが異様に強く、明らかに品質の悪い材料を使っている。


## 第四章:妨害工作開始


第三ターン、ついに直接的な妨害が始まった。


深夜、陳大哥が雇った手下が王小弟の区画に忍び込んだ。電線を微妙に緩める程度の、すぐには気づかない妨害工作だ。


しかし王小弟も抜かりはない。防犯カメラを仕掛けており、陳大哥の妨害工作をすべて録画していた。

「これは面白い映像が撮れましたね。陳大哥、この映像、GMに見せましょうか?それとも...」


陳大哥は舌打ちをしながら、追加の「口止め料」を支払った。


李姐は別のアプローチを取った。毒蛇林師傅の建材に、こっそり水をかけて品質を劣化させたのだ。木材は膨張し、金属部品は錆び始める。


しかし林師傅も黙ってはいない。李姐の区画の近くで「偶然」建材を落とし、彼女の精密な装置を破損させた。

「おっと、すみませんね。事故でした」


会場の空気は、建築現場の埃と共に、憎悪の匂いで満たされていた。


## 第五章:同盟と裏切り


第四ターン、状況は複雑になった。


陳大哥と毒蛇林師傅が手を組んだ。

「李姐と王小弟、あいつらを潰そう。勝負は俺たちの間で決める」


しかし、この会話も王小弟に盗聴されていた。王小弟は即座に李姐に情報を売った。


李姐は一計を案じ、陳大哥に偽の情報を流した。

「林師傅があなたを裏切る計画を立ててるって聞いたわ。気をつけなさい」


疑心暗鬼になった陳大哥は、今度は王小弟と手を組むことにした。しかし王小弟は同時に毒蛇林師傅とも密約を結んでいた。


「俺は誰とでも組む。一番高く買ってくれる奴とな」


会場は既に建築競争ではなく、騙し合いの戦場と化していた。汗と煙草と、何か焦げたような匂いが混じり合っている。


## 第六章:ランダムイベント - 警察の手入れ


第五ターン終了後、突然会場の扉が開いた。


「警察だ!手を上げろ!」


しかし、これは本物の警察ではなく、陳大哥が雇った偽警官だった。他の参加者を動揺させ、建築を中断させる作戦だ。


「うわっ!」王小弟が慌てて設計図を隠そうとしたその時、李姐が冷静に言った。

「あら、その警察官、昨日私のクラブにいた客じゃない?制服が似合うのね」


正体がバレた偽警官は慌てて逃走。しかし、この混乱の間に毒蛇林師傅が他の参加者の建材を盗んでいた。


「これも戦術だ」林師傅は開き直った。


## 第七章:最終ターンの総力戦


第六ターン、もはや建築競争の体をなしていない。


陳大哥は札束で建材業者を買収し、最高級の材料を独占した。他の参加者には粗悪品しか残らない。


李姐は色仕掛けで審査員を懐柔しようとしたが、既に陳大哥に買収済みの審査員は「俺はもう金をもらってる」と冷たく断った。


王小弟は最後の切り札を使った。全員の悪事を記録した証拠を持ち出し、「これを警察に提出されたくなければ、俺を勝たせろ」と脅迫した。


毒蛇林師傅は開き直って、見た目だけは豪華だが、触れば崩れそうな建物を完成させた。「どうせ審査の時だけ持てばいい」


## 第八章:腐敗した審査


最終審査の時間。しかし、もはや公正な審査は不可能だった。


**陳大哥の建物**:札束の力で最高級材料を使用、見た目は立派

**李姐の建物**:色仕掛けで職人を動かし、技術的には優秀

**王小弟の建物**:盗んだ情報で他人の良いアイデアをパクった継ぎはぎ

**毒蛇林師傅の建物**:見た目だけで中身はスカスカ


審査員の老王は困惑していた。陳大哥からは賄賂をもらい、王小弟からは脅迫され、李姐からは色仕掛けされ、毒蛇林師傅からは「審査料」を要求されている。


「えーと...審査の結果は...」


その時、会場の天井から本物の水漏れが始まった。毒蛇林師傅の手抜き工事が原因で、建物全体の構造に問題が生じたのだ。


「みんな逃げろー!」


## 第九章:共倒れの結末


天井が崩れ始め、4人の建物すべてが破壊された。


陈大哥の札束も、李姐の色香も、王小弟の情報も、毒蛇林師傅の手抜き工事も、天井の崩落の前では無力だった。


みんなでずぶ濡れになりながら、会場の外に避難した4人。


「結果は...全員失格だ」老王GMが苦笑いしながら言った。「建物が全部潰れたからな」


4人は互いを睨み合いながらも、どこか間抜けな状況に苦笑いを浮かべていた。


## エピローグ:敗者たちの夜食


深夜の屋台で、4人の「悪徳建築師」たちが麺をすすっていた。


「お疲れさん」陳大哥が他の3人にビールを奢った。「今夜は面白かった」


「あなたの偽警官作戦、バレバレだったわよ」李姐が笑った。


「俺の盗聴も、全部筒抜けだったな」王小弟が苦笑いした。


「俺の手抜き工事のせいで、全部パーになったな。悪かった」毒蛇林師傅が珍しく謝った。


4人とも悪党だが、この夜の共通体験で妙な仲間意識が生まれていた。


「次はもっと上手くやろうぜ」

「次があればね」


屋台の湯気の中で、4人は笑い合った。明日になれば、また互いを騙し合う敵同士に戻るだろう。しかし今夜だけは、同じ失敗を共有した仲間だった。


九龍城砦の夜は、いつも通り混沌としている。しかし、その混沌の中にも、奇妙な人間味があった。


---


*九龍城砦の地下室で今夜も、新しい悪徳建築師たちが密かに競争の準備をしている。騙し合い、裏切り合い、そして最後は共倒れ—それもまた、この無法地帯らしい人間ドラマなのかもしれない。*

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