第1話:大竹之内泰造
「今月だけでも5名の警官が犠牲になっている。
この事態に、対亜治安警軍本部は調査隊を派遣し・・・。
本件が亜神の仕業であると断定した。
しかも、推定脅威度は特級以上。皆、気を引き締めて行動するように」
整列し、上官の話を聞いていた警軍の警兵達は「はっ!」と返事をすると、直ぐに動き始めた。
それを確認した上官の隣に立っている男は、ゆっくりと大量の資料が置かれているデスクに向かう。
事件が発生しているのは、三〇三区と三〇二区の境界線半径6キロ。
時間帯は午前三時から五時頃。被害者は皆、首を一太刀で切り落とされている。
目撃者もいなければ、周辺の監視カメラに怪しい人物も映り込んでいない。
となると、この周辺地理に詳しく、日頃から細かい所に気を配る人物。
治安警察、国防軍、対亜治安警軍、傭兵、超人、亜憑き、裏社会の人間。
動機、は推測しきれんな。凶器は刃物で確定だろうが、首を一太刀で切り落とせる腕前を有する。
この事件の鍵となるのは、何故三〇三区と三〇二区の境界線周辺でのみ、犯人が活動しているのか。
犯人は確実に殺しのプロ。一か所に留まり続けるような真似は、本来しないと思うのだが。
まさか、亜神教の奴らの仕業か?・・・だが、何が目的だ。
あの周辺一帯で、亜神や亜子の目撃情報はないはず。奴らが欲しがりそうな物もないはずだ。
デスクの資料と睨めっこをしていると、彼の上官がやってきた。
「大竹之内準亜佐、二人だけで話したいことがある・・・」
~ 時はかの大戦まで遡る ~
「アレがJ国の超人か?!ありえん、第六空挺師団は我が空軍の最精鋭。
それを、奴がたった一人で。しかも、銃を使わず刀だけで全滅させたと言うのか」
A国ハドソン・ウィリアムズ少将は、目の前の光景を信じることが出来なかった。
彼が無線を使い、本部と連絡を取ろうとした時、少し遠くに立っていた男の背中に、あるモノを見た。
三つの生首。彼は一瞬で察した。男は。男は人の領域から足を踏み出してしまっていることに。
彼は腰から拳銃を抜くと、狙いを定め。引き金を引いた。銃弾は、完璧に男の頭を捉えていた。
が男は、目にも止まらぬ速さで刀を振り、銃弾を切り裂いた。
それを見た彼は、自らの拳銃を頭に当て、迷うことなく引き金を引いた。
「ほお。あの男、自らの魂が喰らわれることを避けたか」
「ふぉっふぉっふぉっ。面白い男じゃ。まあ、此度の戦いで十分な魂を得た。
あの男の適格かつ聡明な判断を称え、彼奴の魂だけは見逃してやるとしようぞ」
「うふふふ。そうね、今は気分もいいことだし。許すとしましょう」
男の後ろにいた 『モノ』 達が、自殺した彼のことを嘲笑うかのような目で見る。
そんなことを、男は一切気に留めず、刀を鞘に納めると。ふらふらと何処かへ歩いて行く。
後に、彼と対峙し生き残ったA国兵士は語る「不死身の神兵、藤原氏康」と。
~ 時は現在に戻る ~
「・・・首切り。それに関連した亜神に心当りがあってな。お前も、知ってるだろ」
首切りに関連する亜神。俺が知っている。この二つの条件に当てはまるのはアイツだけだ。
「骸女老之三首尊」
彼の言葉に上官はゆっくりと頷いた。
骸女老之三首尊。推定脅威度『超弩級』、つまり最も危険とされる亜神の一柱。
2000年以上まえから存在することが示唆される文献も見つかっている亜神。
ただそれなら、俺達だけが事件の調査に駆り出されるとは考えづらい・・・。まさか!
彼が、上官の顔を見ると。何かを察したのか、ゆっくりと口を開いた。
「我々の真の任務は、亜警軍本部が対超弩級亜神討伐隊を編成するまでの、時間稼ぎと。情報収集だ」
(※亜警軍本部とは、対亜治安警軍本部の略称である。)
上官の話を聞いた彼は、考え込んだ末に。一つの結論に至った。
「大久保準亜将が仕組んだことですね」
大久保近準亜将。対亜治安警軍本部・総参謀警軍部長。
優秀な人材であるのは事実だが。昔、第三執行課の入隊試験を不合格にされたことを根に持っており。
総参謀警軍部長になってから、ことある毎に第三執行課に妨害工作を行っている。
ただし、既に当時の第三執行課の人間は警軍を退役しており、完全に八つ当たり状態である。
上官は、大きな溜息をつきながら、ゆっくりと頷いた。
「ただ。お前は例外だ。異例のことだが、今回の討伐部隊の指揮官はお前が務めることとなった。
2000年以上前から存在する超弩級亜神。本部の連中は、いざとなれば、お前に超能を使わせて
骸女老之三首尊を道連れにさせるつもりだ・・・。気をつけろよ」
上官はそう言うと、彼に分厚い茶封筒を手渡した。彼は敬礼をすると、亜警軍本部に向かった。
「今回ノ相手ハ手ゴワソウダナ。オ前ガ望ムナラ手ヲカスゾ」
運転中の彼に、どこからともなく声が聞こえてくる。
彼はその声に動揺するどころか、顔色一つ変えずに返答する。
「いや。お前の存在を知る者は少ない。今回の作戦の動員数を考えると・・・。
お前が出てくる方が損をしそうだ。それに、超弩級が相手なら、お前じゃどうしようもないだろ」
彼の返答を聞いた声は「ソレガオ前ノ意志ナラバ我ハ受ケイレヨウ」と言い。
それ以降、二度と声が聞こえてくることはなかった。