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42.

 ーー地位も国も貞操も、わたしはすべてを失ったけれど、あなただけがいればよかった。



 ぽん、と頭になにかが乗った。振り返る。


 梨色の瞳(ピアー・グリーン)がしみじみと眺めていた。


「よく似合う。きれいだ」


 カリスティが捨てた大切なものを、マリカは取り戻してくれた。


「ごめんなさい……!」


「きれいだ、と言ったのだが」


 眉尻を下げて、違う言葉をくれと言う。


「……ありがとう……」


 頷いたマリカは、両腕を広げる。目を合わせたまま、カリスティはその中に収まった。


「マリカ。わたし、あなたが好き」


「私はカリスティを愛している」


 破顔するマリカの唇を、迷いなく受け止めた。

 髪をすり抜けて転がり落ちた半月冠を再び拾い上げるのに、いましばらくかかるだろう。







 光が迎えにきた。二人は浮上しているようだ。

 たゆたう海面が頭上すぐ、というところでニブタールが目の前で胡座(あぐら)をかいている。


「僕がいてよかったでしょ?」


「ニブタール。感謝はしている。もろもろ」


 マリカの言葉にニッ、と歯を見せて笑った。


「いーよ、これくらい。きみらのためだもん」


 寄り添う二人を崖の上まで運んで、水泡はパチンと弾けた。ニブタールの姿もない。


 腕を絡ませながら、町のほうへと歩く。


「入国禁止って聞いて、もう会えないかと思ったわ。どうやって戻ってきたの?」


「小城と浜辺の一画は私が買い取った土地だから、そこからの侵入は目こぼしされていたようだ。あとはニブタールも協力し……してくれ、た。海を渡るときに他から見つからないように」


 歯切れが悪い。ニブタールに頼ることは裏技で最悪の手段よりも気が進まないことらしかった。でも、距離は縮まったようで微笑ましい。



「大変だったのね」


「ああ。メスカで宰相を解雇された」


 これにはぎょっとした。


「ケララニ陛下があなたを手放すなんて……」


「にも関わらず、引き続きウスワの発展の様子を報告するように言われている」


「ということは完全に手放した……わけではないのね?」


 居心地が悪そうに、マリカは否定する。


「それで、ここ半月はカレオさまに直談判していたところだった。今後のための交渉も兼ねて」


 マリカが帰ってきていたのは直近二、三日のことではなかった。


「お城にいたの?わたし、気づかなかったわ」


「気づかれないようにしていた。話をつけられるまで」


「仕事がもらえなかったの? お父さま、そんな理不尽なこと……」


 変な意地悪をするような性格ではない。


「いや、私は首長の補佐として働いている。別件で、カリスティの許可をもらうように言われたのが今朝だった」


「……わたしの? 変ね。政治になんの権限も持たないわ」


 立ち止まって、マリカはカリスティの手を握り直した。


「カリスティ、愛している。

 だから私の妻としてそばにいてくれないか」


 眉根を寄せて真剣に懇願している。

 カリスティは内から溢れる多幸感に打ち震えながらも、即答できなかった。


「マリカのことは好きよ。でも、わたし達ってけっ、結婚……したら別居になるのかしら? ウスワの自治運営が進んだら、マリカはメスカに帰るんでしょう? わたしはウスワに残りたいのだけれど」


「陛下からはウスワの再興のためにしばらく時間をもらっている。離れただけで無くなるような忠誠心は最初から持ち合わせない。報告は手紙でもできるし、いざ往復するにも遠くはない。私はカリスティに出ていけと言われるまで居座る」


 マリカの覚悟を知って、ごちゃごちゃ言ってもいられない。カリスティも、彼を逃したくないのだから。


「わかったわ。結婚、しましょう。

 ……よろしくね、旦那さま」


 マリカは拳で鼻の下を抑えた。


(お調子者が好きでないマリカ)

(嫁【確定】がかわいすぎて鼻血出そうなマリカ)


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