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4.

 朝食を運んできたリーニはカリスティに微笑みかけた。姫もリーニによい印象を持ってくれているようで、出会った初日から親しくしている。

 姫と同じくテーブルに着いているセナカにも皿を出し、下がろうとしたところを姫に止めた。


「朝がまだなら、一緒に食べませんか?」


 昨夜の王族間の晩餐への参加は丁重にお断りしたが、カリスティはリーニと食事を共にしたいと発言していた。こんなに早く実現するとは思わなかった。


「よろしいのですか?」


「ぜひ。リーニさんも座ってください」


「……あたしのことは、どうぞリーニと呼び捨てになさってください」


「では、リーニ。こちらに」


 新しく椅子を運び込んで、セナカの隣、とは言っても丸テーブルなので結局カリスティの隣でもある席に座った。



「姫殿下は健康に気を遣ってらっしゃるのですか?」


 とは、女性によくある「減量をしているの?」をやんわりと目上の方向けに言い換えたものだ。

 セナカはお代わりをしているが、カリスティは一皿ぶんで満足して手をつけない。遠慮などしないように勧めても、カリスティは果物も入る余裕のない様子だった。


「朝からたくさんは食べられないわ。お肉もちょっと」


「では量を減らします。野菜中心にいたしましょう」


「セナカが食べてくれるから、献立や量に変更はしないでください」


 いまだ食べ続けるセナカは両頬を風船にしながら、ぷるんと揺らして頷いた。彼女のとった栄養はおそらく筋肉維持に回されている。


「……そのようにいたしますわ」


 多めに用意はしていた。急遽リーニが朝食に参加したことを加味しても余るはずだった料理たちは最終的に全て無くなった。


 食事を終えて、外出前に身なりを整えましょうとリーニは申し出た。カリスティの許しを得て、帯や衣を緩めて脱がし、着付け直していく。


 あくまで警護をするだけのセナカは、カリスティにおおまかな着付けができても細部が甘い。見ていられずリーニが手を出していた。


 体の線は着替えを手伝うときにどうしても見てしまうことになる。姫の体は一言で言えば、均整がとれている。姫のお顔のなんと小さきこと。ほっそりした首の長さ、健康的に引き絞られる胴体。それぞれの比率に肉付きーー全体に無駄がなく、かつ足りないわけではない理想そのもので成り立っていた。脚の流れがうっかり見惚れるほど美しい。やはり、褒めるにしても率直に伝えるにははしたないが、隠してしまうなんてもったいない。


 さらに肌はやわらかくなめらかだがよく焼けている。肌が色濃い傾向にあるメスカ国でも、屋外労働で日焼けしがちな平民と同じくらいだ。日に焼けやすいのか、よく外に出ているのかもしれない。


 朝食の後片付けを他の者に任せ、リーニはカリスティの部屋に戻ってきた。本日の予定の確認とともに昨晩のうちにマリカから言付かったことがある。


「浜辺をご覧になるのは明日でよろしいですか?」


「はい、お願いします」


「では明日の午後、宰相も同行するとのことでしたわ」


「お忙しいのではない?」


「あの方は後継者育成のために監督といった立場ですから、時間に融通がきくのですよ」


「後継者育成って……お若く見えたのだけれど、もう交代をお考えなのですか?」


 交代ではありません、とリーニは答えた。


「補佐より自分と同等の働きをする人間が欲しいのだそうですわ。普通の人間が五人束になっても追いつけないような宰相さまですけれど」


 代理など簡単にできるとは思えず、目を逸らす。育成途中の有望な三人がとりかかって、やっとマリカ一人分だ。いずれはーーとは期待できるが、いまはまだ。


「あの方ほど王からの信の篤い臣下はおりませんもの」


「下からの尊敬も集めてらっしゃるのですね」


 炯眼は人を竦ませるぐらいの圧があるから、慣れた部下でも怯えるときがある。


「リーニを見ていれば教育が行き届いているのがとてもよくわかります。一緒にいてまだ二日だけれど、優秀なところばかりですから。わたしが恥ずかしいくらいです」


 リーニは目を見開く。このように王族が卑下するところを見たことがなかった。自国の王などは特に自信に満ち溢れていて、寛容ではあるが厳しさも持ち合わせている。確かにウスワは小さな国家だけれども、これではまるで姫が平民のようだ。


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