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24.

 新月の後、カリスティは寝込んだ。


 女神降ろしをした後遺症の発熱に加えて、夜の海で遠泳をしてから、体も乾かさないまま神降ろしを強行した。疲労は相当なもの。今回は長引きそうだ。


 熱に浮かされているカリスティの看病はリーニが引き受けてくれて、セナカは調査を始めた。後処理に追われているマリカにも報告を求められた。


 女神ニーティアの証言は感情的で、要領を得ない。言い伝えや神話などから原因を突き止め、解決していこうということだけを決めた。


 一日目はマリカは海岸の掃除や漂流物の管理仕分けなどの任命割り振りなどがあって不在。セナカは一人で図書室で手掛かりを探した。


 その日の終わりには三十体近く遺体が上がった。どれも船に乗っていたオグレイン国の民で、シャマスが連れてきていた護衛や側仕えばかり。悪運が強いというかなんというか、シャマスは生き残り組だ。




 誘拐騒ぎの夜にマリカの指示通り、イシケリはシャマスが逃げぬように見張っていたら突然嵐が起こった。船から投げ出され海表にぷかぷか浮いていた王子を発見したイシケリが彼を抱えて陸に戻り、そのままお縄になった。オグレイン国にはシャマスを人質にとり、カリスティ姫誘拐、監禁、傷害未遂の事情説明(おたくおいくら)と諸々のご相談(出せますのん?)を持ちかけている。


 通常国内で多国籍の者が、しかも高貴な方が犯罪に走ったならば中立の立場として仲介することはないが、小国ウスワが裁判を起こすより、縁の深い友好国だからという建前でも代理としてメスカ国から訴え出たほうが相手は弱いはずだ。なによりウスワ国王に心労をかけて明日にでもコロリといかれては困る。第三国に迷惑をかけた、というのをここぞとばかりに強調していく。リーニも被害に遭いかけたことだ。


 人質を返すときに、シャマスに不自然なかすり傷や裂傷、殴打の痕があったとて、船から落ちた際に海の漂流物にぶつかって怪我をしたのだろう、で突き通す。どうせ裁判を終える頃にはだいぶ傷は癒えているはずだ。



 引き揚げた遺体は棺に詰められ、すぐにオグレイン国に送られる。粉砕された船の破片を全て集めるには時間がかかるだろう。


 未遂でここまで強く出るのはオグレイン国に不公平かもしれない。シャマスがカリスティを襲って操りウスワ国を乗っ取ろうとしていなければ、の話だが。だから同情はしない。むしろセナカは自分の手で殴れなかったことが腹立だしい。これからの結果いかんによって裏から手を下してもいいと考えているくらいだ。


 メスカ国の被害としては防波堤が崩れ、溺れた者を助けようとしていた軍の者が漂流物で軽傷を負っただけで、死者は出なかったそうだ。


 神は恐ろしい存在で、カリスティやセナカでは許しを請うしかないのだと体に刻まれている。刷り込まれた思い込みで、それをマリカが凝り固まった概念をぶち壊した。


 本棚の前を歩きながら、セナカは指で背表紙を伝う。


 まずは、神話についておさらいをするつもりだ。民話や伝承にも登場しているかもしれない。


 つらつら考えれば、これまで原点に触れることはしなかった。女神ニーティアと男神ウィドラシャンが夫婦神なのは知っていたが、クァンガイスというものは聞いたことがない。神なのか人なのか、男か女なのかもいまいちはっきりしない。ニーティアはそいつを恨んでいるようだった。さらにそいつと夫婦の子の間にも何かあったようだ。


 女神ニーティアと男神ウィドラシャンのページを比較する。


「ニーティアーーウィドラシャンを伴侶に持つ。月の女神」 


 ウスワ国で語り継がれている通りだ。


「ウィドラシャンーーニーティアを伴侶に持つ。海の男神」


 とくに子どもがいたという記述はない。


「クァンガイスーー戦乙女。処女神。ウスワ国の守護神」


 神に関する本を片っ端から読んでも、有益そうな情報は抜き出せなかった。


 それにしても、ウスワに守護神がいたとは。土地神がいなくなったから、ウスワは栄えることができないのか。ひとまず余計なことはいまは考えないでおこう。


 それよりも女神の残した謎解きを優先する。


 ーー「クァンガイスは死して当然だわ。」


 とは、女神ニーティアが吐いた言葉だ。死に値するのはやはり、死だろう。となるど、クァンガイスが夫婦より先に何かをしたとしか考えられない。気になるのは、どこにも記述のない夫婦の子どもだ。ニーティアとウィドラシャンの間に子どもがいたとして、ニーティアは「愛し子」と呼び慈しんでいた。名前もちゃんとつけていた。


 夫婦は同族殺しの罪を犯した。なぜならば女神クァンガイスが、夫婦の子どもを手に掛けたから。太陽神の裁きを待たず、悲しみの底に突き落とされ怒りに任せるままに夫婦は同族をーー女神クァンガイスをこの世界から消した。


 想像でしかない。けれど、存外人間同士にも起こり得る生々しい神々の確執に、ふるりと寒気を覚えた。

 ひとまず神話辞典を借りて、カリスティの寝ている部屋に向かった。

 調べ物なんて、セナカのすることじゃない。胃の中がぐるぐるするし、頭は締め付けられるみたいだし、すでに体調に異変を及ぼしていた。慣れないことはしたくないものだ。



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