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20.

 大国なだけあって、メスカ国の娼館は質が良い。シャマスは店を一夜ごとに変えて毎日楽しんでいた。


 わがままを言うならカリスティが連れていた側仕えなどが相手してくれれば最高なのだが、娼婦でない女をよその宮殿内で求めるわけにもいくまい。そこは分別をつけている。


 船にウスワ国姫のカリスティを引き止めて求婚したが、姫が受諾するまでには時間がかかりそうだ。さすがに姫を襲うわけにもいかず、丁重に扱ってはいるがーーいや、さっさと手をつけた方が話が早いのか?


 しかし特に好みの体型というわけではなく、……どうしたものか。国のおまけと思えばそれなりの見栄えはするが、夜の相手となると肝心なのは別の要素。若さはこの際諦める。カリスティは年が年だから成熟しきった大人であり、これからの成長は期待できないところは惜しまれた。




 船に戻ると、すぐに報告しようと従者が寄ってきた。


「宮殿からリーニという女が来ておりますが」


 リーニ。まさに彼女のことを考えていた。メスカ国の宮殿で働く侍女のはずだが、ウスワ国の姫に思い入れが強い。姫を心配して探しに来るほどに。


「ほう。姫の護衛は連れてないだろうな?」


「おりません、一人でした」


「よし、よし。どの部屋に入れた?」


「カリスティ殿下と同じあの部屋に」


「馬鹿が! なぜ二人を一部屋にまとめた!」


 声を荒げたシャマスに従者がたじたじと腰を低める。


「閉じ込められるように細工してあるのが、あそこだけだったものですから……」


 力のない女子(おなご)といえど、結託されると面倒だと思わなかったのか。とくに二人は打ち解けあっていた。情報交換などされるのは必須だ。


「ええい、まともな頭のやつはおらんのか」


 人選を誤った。ギリギリとほぞを噛む。


 早めに引き離そうと、部屋を開けさせた。

 どうやったのか、リーニとカリスティはベランダ側の、海があるほうのドアを解錠していた。いままさにベランダの柵に足をかけて立っているのがリーニで、カリスティはドアを潜ろうとしているところだった。


「捕らえよ!」


 カリスティの半身はリーニに持って行かれたが、こちら側で片手を捕らえることに成功した。


 男からもリーニからも腕を引っ張られ、カリスティは痛みにうめいた。片腕を上げて、絡んでいた細腕を払う。


「行って!」


 姫は女を故意に逃した。助かるべくは自分だったはずなのに、なんて馬鹿な選択をした。


 振り払われたリーニも驚愕したまま、勢いで海に落ちていく。


 彼女の肢体が波に受け止められた音がする。水しぶきはここまで届かないけれど、この高さだ。さぞ深く沈んだことだろう。

 シャマスは頭をかきむしる。


「リーニを捕まえんか!」


 カリスティを拘束して、座らせた。並び立つ護衛たちに振り返る。


「海を(さら)え!」


「しかし殿下、もう日が沈みます……」


 太陽がなければ、一気に海は黒くなる。浮いていたとしても人探しなど至難の業だ。


「うるさい、さっさとやれ!」


 リーニを逃してしまった。むしゃくしゃする。せっかく楽しめそうだったのに。


 つい、とカリスティに目を向けると意外にも睨み返された。小国の姫らしくもっとしおらしい女かと思ったのに。歳を重ねた分無駄に強気でいるものだ。怯えるのなら可愛げがあるのに。


 日は沈み、明かりで照らしながらの捜索は続いている。


 待てども待てども、リーニが見つかったという知らせは入ってこない。


 これ以上待っても無駄だろう。遠くまで流れたか、海底まで沈んでしまったか。


 カリスティは大人しくしている。これだけの男に取り囲まれたら、シャマスだって身じろぎもできない。

 表立って焦った様子がないのもつまらないものだ。


「すこぉし怖がらせてやるといい」


 シャマスは指を使って、とくに女に飢えている護衛達を呼び込む。狭い客室に、ぞろぞろと男達が入ってきた。三人、四人、……七人いればいいか。


 明日の朝になるまでに、素直になってくれるだろう。彼女がひとたび頷けば、小国はシャマスの手に渡る。


20話が短いので21話も同時に投稿してます。

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