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2.

 カリスティとセナカは無事に宮殿に着いた。向こう半年はお世話になる場所。

 離宮に案内されて、まずはごゆっくりということだった。


 同じ島国ではあるが、故郷よりメスカ国のほうがだんぜん大きい。しかも活火山を抱えているために地盤は毎年広がっている。この部屋の窓からは火山は見えないが、故郷の方角を向いているのは、カリスティに対する配慮だろう。


 夕方には宴の予定なので、身を清めて着替えなければいけない。「支度して」と声をかけると、カリスティのベッドでごろごろしていたセナカが起き上がった。


 着替え用の衝立があったが、ここには同性のセナカしかいないのであまり気にしていない。ベッドに脱いだ物を放り投げつつ、衣装を身にまとっていく。王族用の民族服はとにかく嵩張る。もっと薄く軽くして、と衣装方にお願いしたことがあるが、王族の威厳がどーたらこーたらだそうだ。貧乏なくせに意地っ張りだと不満を垂れたら説教を食らったのが十年前。カリスティの成人式だった。一揃い服があるのはありがたいことだとは思うけれど、国のためを思うとまた違った感情が浮かんでしまう。


 仕上げに原色の強い色を使って装飾された帯が全体を締め上げる。

 細かいところを整えるのに夢中になっていると、セナカが後ろに立っていた。


「カリスティさま、リーニさんが」


 迎えにきたという。


「えっ、もう時間? 間に合わないわ!」


 手櫛で髪をまとめて、(かんざし)を挿す。


「どうかお慌てになりませんよう」


 リーニに微笑まれると、焦る自分がみっともなかった。


「お髪から髪飾りが抜けそうですわ」


「……、髪を編む時間がなくて」


 簪を引き抜けば、頬に肩に胸にぱらぱらと髪が落ちてくる。


「あたしにお任せくださいますか?」


 しずしずと入ってきたリーニに腕を抱かれて、椅子に座らせられる。ぎゅっとしたわけでもないのに当たってくる、彼女のふくよかな女性らしい部分に、妙な安心感と劣等感を覚えた。カリスティにもセナカにも届かない、豊かな母性がそこに凝縮されている。露出が多い服装でもないのに、隠しきれない存在感だ。


「こちらではパーティには遅れるほうが粋とされておりますから、さほどお気になさいませんよう」


「でも、これはほとんど表敬訪問ですし」


 頼りなくとも国の代表。だらしがないと思われたくない。


「だいじょうぶですわ。陛下もおおらかな方ですので」


 話しながら、リーニは木の蜜を煮詰(シロップ・)めた色の髪(ブラウン)を細い束により分けていく。編みながら上げていた腕が下がると、意図せずとも胸がカリスティに当たる。当たらないように離れると髪をいじりにくいだろうから、背筋を伸ばしたまま言えないでいる。


 完成です、と宣言されるまでカリスティは指摘すべきかせざるべきか悩んでしまった。同性でも体型に関することは口にしないのが礼儀だから。


「いかがですか?」


 鏡を後ろから伸ばした手で見せられる。ふよんと背中に感じるぬくもり。むしろわざと?


「ふわふわしてる……」


「はい、姫さまの髪質は動きがありますので、ふくらみがきれいに出ますわね」


 違った。カリスティの癖っ毛の話だった。編みこみを絡めたまとめ髪(アップ・ドゥ)に仕上がっている。


「毛先に向かって明るくなっているので、髪飾りなどなくても編み込んで巻くようにしただけで華やかに見えますわ」


 外によく出て、海にも潜るから髪の毛は陽に焼けて色が抜けてしまう。毛先にいくにつれ、根本とは別人のもののように色が薄い。それで髪飾りをいくつもつけるとうるさくなる。だから、たいていは簪一本だけを挿すようにしていた。


 セナカも民族衣装に着替えてはいるが、短髪をそのままにしている。まっすぐな髪質だから、整えるまでもないのがカリスティからすればうらやましい。姫より派手にしてはいけないから、髪飾りはつけない。


 着飾れなくて唯一出た文句が「仕込める暗器が減る」というもので、そのときカリスティは「わたしの髪にでも挿しておきなさいよ」と答えたのだった。簪は形状からしてもちろん、髪飾りのピンにも使い途はあり、殺傷力は鈍い刃物にも勝るとも劣らない。ピンでも目玉や鼻の穴には刺さるーーと言及していた護衛のことだ。


 自身が美しくなりたいからではなく、いざというときの武器を増やしておきたいのが不満の理由というところが、見上げた護衛根性である。


 もともと手足が長くて、鍛えているから腰のくびれは誰にも負けない。それなりに美容に時間をかければ、カリスティなど足元にも及ばない美人なのに一緒に育ったせいか自己に対するこだわりの少なさ、など変なところがお互い似てしまった。だから気が合うとも言える。


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