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あの展望台で、君に───

作者: 清野天睛

ある夜の事だ。

月を見ていた。今日は珍しく1人で考え事がしたくなり、近くの高台へと来ていたのだ。

「さすがにこの時間は人もいないか…」

僕は辺りを見渡す。すると、少し離れた所で僕と同じくらいの年の女の子が立っていた。月明かりに照らされたその姿はまるでこの世界の物とは思えないほど幻想的な佇まいだ。それを見て僕は、

「今夜は月が綺麗ですね」

と言う言葉が思わず口をついて出てきてしまった。…冷静に考えて何を言っているんだ僕は。

初対面相手に、いきなり愛の告白なんかして。

すると、彼女は少し困った顔で微笑みながら、

「夜更けには沈んでしまうかもしれませんね」

と言った。

……正直、意外だった。

"今夜は月が綺麗ですね"と言う言葉の返事にはいくつかパターンが存在する。例えばOKなら、"このまま時が止まれば良いのに"や、"綺麗な月を見れて嬉しいです"。一方、NOなら、"星の方が綺麗ですよ"みたいな返答が多い。僕も、その様な明確な拒否を言われるものだった。

しかし、今回の彼女の返答は否定ではあるものの、少しだけ希望を持たせる意味もあるのだ。僕が少し困惑をしていると、彼女はまた少し微笑んで、

「では、また明日、ここで会いましょう」

と言って帰って行った。それからも、僕は彼女とこの展望台で一緒に月を見ながら話していた。どんなに雪が降ろうが、たとえ月が見えて無かろうが、僕らは毎晩一緒に過ごしていた。

実際に話してみると、僕らは趣味が合うようだった。

読書の事で盛り上がったり、今日あったたわいの無い話をしたりした。

そんな夜を過ごし始めてから3ヶ月経ったある日、彼女は突然ここに来なくなった。

「風邪でもひいたのかな?」

なんて思った僕はその日は帰り、翌日もそれ以降も毎晩向かうが彼女は一向に来ない。そして彼女が来なくなってから8日後、彼女は再び展望台に現れた。

「どうしたの?ここの所来てなかったじゃん」

と僕が聞くと、彼女は悲しそうな顔をして言った。

「実は私、アメリカに一時的に引っ越すことになって……それで、この7日間荷造りをしてて忙しかったの」

「……いつ引っ越すの?」

と聞くと、彼女は言い辛そうに顔を伏せ、

「……明日。だから、今日はお別れを言いに来たの」

……そっか、まぁ、そう言うこともある…

「そっか……わざわざ言いに来てくれてありがとうな。……いつ頃、日本に帰ってくるんだ?」

「………3年後」

「………それは寂しくなるね」

「そう。だから……言いにくくて」

そう言って落ち込む彼女に僕は小指を立てる。

「じゃあ、約束しよう」

「……約束?」

「そう、約束」

「どんな?」

「3年後またここで会う約束だよ。……それとも嫌だったりする?」

「……そんな訳ないよ。…うん。約束する」

そうして、同時に

「「指切りげんまん」」

と言って2人して笑う。

それから、少し僕らは話してお互い家に帰ろうとする。帰り際、彼女は突然、

「そういえば、初めてあった時に君が言っていた言葉があるじゃない?」

「ああ…そういえばそんなこともあったね」

「あの言葉、今改めて返事をするね」

そう言って彼女は満面の笑みで

「こんなに綺麗な月は初めてです」

と言って、顔を真っ赤にして走り去って行った。

僕はしばらくの間呆気に取られて、冷静になった後、僕も顔が真っ赤になった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




──── 3年後、僕は今日も今日とて、夜の日課の展望台まで来ていた。

「彼女と約束、したからな」

そう言って、今日こそ彼女がいるのではないかと言う淡い希望を胸に、僕は展望台を上る。

展望台に着くと、そこには───彼女が立っていた。

僕は、余計な言葉をかけず、今度もまた同じ様に君に言う。

「──今夜は月が綺麗ですね」

そして君は、以前とは違う言葉でこう返す。

「──私にとって月はずっと綺麗でしたよ」と。


次回からはまた、「桜のような君と僕の一ヶ月」の連載に戻ります。

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