同じ価値観
2017年 知床に旅行に行った時のお話
知床クルーズのツアーを明日に控え、知床のホテルにチェックインすると、地元の店で食事をしようと、ホテルのカウンターで近くの食堂を紹介してもらったのだった。
食事処は多くなかったがお酒も飲みたかったため、その中から徒歩で行ける店を選んだ。
店は小さな居酒屋風で、客もそこそこ入っていた。
こういうとき、妻は大胆だ。値段など全く気にせず好きなものを注文する。そう、せっかくの旅なのだ、ここで値段など気にしてどうする。というものの、根が小心者の私はどうも落ち着かない。オホーツクの海の幸はどれもおいしく幸せな気分に満たされるが、私は抜け目なく頭の中でそろばんを弾いていた。
ウニ丼2つで6,000円、ホッケ1皿1,500円、ビールが2杯1,360円、、、。
いい気分で酔いがまわり、お愛想を頼む。2人で14,000円くらいだろうか。そろそろ閉店で客の姿もない。明日は天気が良くなるといいな、知床の岬がきれいに見えるといいな。
「お会計10,800円になります」
うん?思ったよりも安いじゃないか、計算ではもうちょっと高い予想だったのだが。
支払いを済ませホテルに戻るが、どうにも気になる。やはり安すぎないか。レシートを取出し内容を確認する。小市民は細かいのだ。
ウニ丼2つで6,000円、ホッケ1皿1,500円、ビールが2杯1,360円、、、。
おかしい。知床寿司を食べた気がするが、載っていないようだ。金額にして3,000円程度。妻に聞いてみる。
「なんか、安すぎる気がするんだけど」
「そお?」
妻は気にもしていない。大物だ。
「お寿司、食べたよねぇ」
「うん、食べたよ」
「お寿司の分が抜けてるよ、間違えたんだ」
どうしよう、返しに行こうか。しかし、もう閉店後だ。明日は朝一番で知床クルーズだし、その後も次の予定が詰まっている。
うんうん唸っている私を見て妻が言った。
「返しに行く?」
私は妻の顔を見る。そこには穏やかにほほ笑む妻の顔があった。妻が言う。
「知床クルーズの後に戻ってくれば良いよ」
「うん」
ああ、妻が大好きだ。
知床クルーズは素晴らしかった。ボートの先端ではしゃぐ妻を見て「また来よう」と思った。