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Part2

「おやっさん、入るぜー」


 レストランでの食事を終えた後、レオン一行は街で最も品揃えがいいと言われる武具屋を訪れた。


「おお、お前らか。その子は?」

「俺と同じ加護の剣士のクラリスだ。一人だったから仲間に誘ったんだよ」


 その中には勿論クラリスの姿もある。レオンたちはこの店の常連だがクラリスはここに来るのは初めてであり、レオンはそんな彼女を店主の男へ紹介する。


「可愛い子見つけやがって、この色男め!」

「そんなんじゃねーよ! それより値段はいいからさ、この子にいい装備を見つけてやってくれないか」

「随分細い子だな。今の装備は……」


 店主はそんな彼を揶揄うが、レオンは否定しながら早速本題へ。今回ここに来た目的はクラリスの装備探しだ。


 クラリスの剣士とは思えぬ華奢な身体に驚きながらも店主は彼女をまじまじと見つめて今の装備を確かめる。


「安物もいいとこじゃねぇか」

「使い慣れているので……」


 そんな彼女の装備は、あまりにも貧弱だった。


 作りが粗い鋳造の剣と、木を革で覆ったバックラー。防具は革の胸当てと膝当てだけ。子供のごっこ遊びか、と言いたくなった言葉を胸にしまって店主はお勧めの武器を考える。


「ナイフかショートソードあたりがいいか。それなら……」


 この二つに絞った理由は簡単。これ以上の武器は筋力の無さで持てないからだ。


 その中からどれが扱いやすいか。在庫の中から店主はクラリスに向いた装備を考える。


「これなんかはどうだ」

「お、重い……」

「だめか」


 最も安価で耐久性にも優れたスタンダードなショートソードは、重過ぎてクラリスには振れず。ただこの剣は軽量化の工程を省く事で安さを実現している為、持てない事は想定内だ。


「これなら持てるか」

「これは……」

「同じショートソードだがな。他より少し細身で、ある火山で採れる特殊な金属を混ぜて軽量化してあるんだ」


 次に渡されたのは、先程よりも細く、素材にも改良を加えたショートソード。クラリスは店主に差し出された剣を受け取ると、恐る恐る持ち上げてみる。


「これなら……はい、持てます」


 この剣であれば、クラリスにも使える様子。軽量化したという事はその分威力は落ちるが、まずは振れる事が第一だろう。


「ナイフでいいんじゃねぇの」

「この子、自信がないだろ。そんな子にナイフを渡しても、間合いを詰められないだろうからな」


 そこまで軽くするならナイフを使った方がいいというリックの意見もあるが、店主はクラリスにナイフは使えないと考えているようである。

 実際ナイフの場合はショートソードよりもさらに間合いを詰める必要がある為、強いとは言えないクラリスには難しいだろうという判断だ。


「私の、剣……」


 そうして気を遣って選ばれた剣だが、クラリスは大満足の様子。安い剣には無かった輝きと反射に、思わず目を輝かせていた。


「後は防具だな」

「軽めでお願いします」

「わかってるよ」


 次に選ぶのは防具。

 今クラリスが身に着けている革の装備では勿論モンスター相手では心許ない。かと言って重い鎧を着て動ける程の力もない。


 非力な彼女でも扱えるような防具を、店主は再び店の在庫から探し出すとそれを差し出した。


「板金製の胸当てだ。着けてみな」


 クラリスはその防具、板金の胸当てを受け取ると革の胸当てを外して身に着ける。

 板金加工は職人も限られている為やや高価だが、軽量で金属製でもこれならばクラリスに合うだろうという見立てだ。


「レザーよりは重いですが、ちゃんと動けます」

「強度を維持しつつ可能な限り軽量化した代物だ。職人技の賜物だな」


 店主の見立て通り、板金製のこの胸当ては非力なクラリスにも問題なくつけられた。革と比べると重みがあるが、それは使っているうちに慣れてくるだろう。


「盾はバックラーが慣れてるんだよな」

「うん」

「盾は自分で選んでみるか? バックラーはあそこにあるから、自分で持ってみて好きな物を選ぶといい」


 ここまでは店主に選んでもらっていたが、店主の提案もあり最後の盾はクラリスが自分で選ぶ事に。

 並んだバックラーを一つ一つ持ち上げ、身に着けてみては振り回して扱いやすさを確かめる。そうして気に入ったものを見つけると、クラリスは剣と鎧と一緒に装備して仲間たちの元へと戻った。


「これで、どうかな……」

「おお、強そうになった!」

「ちょっとはマシになったって感じだな」


 装備を一新した事で、クラリスの印象は見違える程に変わった。

 みすぼらしいとも感じられる安物の装備から一転。全身の装備が十分な品質の金属製となり、弱々しさが薄れて一人前の剣士の風格を少し感じられるようにもなっていた。


「全部着けると、やっぱり重い……」


 だがそれらの完全装備では、やはり重い様子。全体的に重さが増してしまったが、果たしてクラリスはこの装備を使いこなせるのだろうか。


「そうだ、親父さん」

「なんだレオン坊」


 クラリスの装備を決めたところで、レオンは店主に告げる。


「仲間も四人に増えた事だし、そろそろ山の洞窟を越えようと思うんだ。だから多分、ここに来るのは最後になるよ」

「そうか。寂しくなるな」


 それは、別れの挨拶。


 この街を拠点にしているうちはこの武具屋の常連だったレオン一行だったが、山を越えてしまえば戻ってくる事も大変になる。拠点も山の向こうの街へと移す事になるだろう。

 いなくなることに店主も寂しさを覚えるが、止める事はできない。レオンとクラリスは加護の剣士である以上、立ち止まっているわけにはいかないのだから。


「クラリスの装備の分、俺が払うよ。これで足りるか」

「50000オールか。40000でいいぞ」

「あ、あの……そんなに出してもらったら、その……」

「気にするなって。仲間だろ」

「ありがとう……」


 そして最後の買い物として、クラリスの装備一式の代金を支払うレオン。

 自分が弱いばかりに多額の金を払わせてしまった事に引け目を感じるクラリスだったが、レオンにとっては当然の事。か弱く貧しいクラリスに数万もかかる装備代を払わせる気は始めから無かった。


「で、レオンくん? そのお金はどこから出てきたのかな?」

「え、えっと……その、臨時収入が入って……」

「またカジノ行ったなこのアホ!」

「まあなんだ。クラリス、お前は気にすんな」

「わかった……」


 その資金の出処でミミィに叱られ、誤魔化そうとするレオン。


 気にするなと言うリックと共に、クラリスは苦笑いしながら思った。


(賑やかで、楽しい旅になりそう……)


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